スプラヴァン!

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1章 東北編

第4話  分通

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イワテ柴波エリア 町中

 ネコもろくに歩いていない7月の日曜日。
昼過ぎの後の日光がりつける気候の中で、
私は用事のために1人で歩いていた。

(お手紙出さないと)

メアリーは自分で書いた手紙をポストに投かんする。
ある雑誌のコーナーで文通をする企画におうぼして
1人の女の子らしい人とおたがいに話を書き合っていた。
名前は当然本名を書く事が禁止で分からないけど、
九州に住んでいることくらいで、他はこれといった
個人情報もない間で連絡を取り合っていた。
今回のテーマは自分が泳げないこと。
人に聞いたところで私がどうにもならなければ意味もない。
だけど、だれかに聞いてほしい気持ちもあって、
いつの間にか文章にそのなやみを手に書いていた。

コトン

(1週間までに来るかな)

文通は基本、長く待たせてはならないのが常識。
相手もけっこう返事をするのが早い方で、
私の手紙に応答してくれている。
もうそろそろ夏休みになるけど、
もっとやりとりできる時間になれるかもと
数少ない楽しみを心待ちにしてゆく。


数日後

返事の手紙がきた。
どうやら水泳について細かく書いてあり、
こくふくする方法を教えてくれたようだ。
その通りにできるかはともかく、
おそるべき水の入り方からのっているようで、
内容は以下のように書いてあった。

――――――――――――――――――――――――――
最初は目を閉じていて、冷たさに慣れたら顔の冷たさに
なれたら開けると良いよ。
水中に入ったら体の力をぬいてごらん。
そうすれば自然にういてくるから水面の上を向いてみて。
足首に力を入れすぎないようにして、
左右順番に動かしてね。
思う様になればイルカみたいな気持ちになれる。
水中は決してこわい場所じゃなく、素晴らしい所よ。
――――――――――――――――――――――――――

「・・・・・・」

具体的に細かく助言をしてくれた。
中身的には学校で言われているのとほとんど変わらず。
心の中で分かってはいるけど、実際に行動できるほど
勇気をもっていない。
思う様にできれば苦労なんてしない。
人はイルカにはなれない。
上手に泳ぐ方法をていねいに書いてもらったのに、
心が場所まで動けそうになかった。
次に何か書かなければと続きを書く。
そして、こちらも自信のなさそうな返事を書いて
ふたたび投かん。
スローペースに赤い箱が遠ざかり、
いつもの日常にもどるだけで
できるだけ陽の当たらない日かげを見つけながら帰る。
通りがかりの公園の中で透明のボールに入って走る人たち。
とても広い遊び場にもかかわらず、私にとっては関係なし。
できるだけ目に入らないようにすぐ横の歩道を
トコトコ歩いていると。


プププシュ

「キャッ!?」

あみごしから水玉が飛んできて顔に当たる。
ウオバトをしていた子どももいて、
遊びのとばっちりを受けてしまう。

「ゴメーン!」
「「ううっ」」

少年に軽くあやまられて立ち去られた。
温泉の時とはちがって冷たく、
冷やかしでかけられた気分を味わわせる。
言い返す間もなく、ただ静かな場だけが残り、
水上をクルクル歩く様な行き場のない気持ちをおさえて、
ふところのハンカチでさっさとふき、家に帰る。


メアリー家

「ただいま・・・」
「おかえり」

 母との2つ語で、すんなりと自室に向かう。
という様な流れの中で今を生活している。
学校へ行き、読書をして手紙を書く毎日。
同性のイザベルくらいしか話し合う相手しかいない。
父の仕事でたまたまこの町にきた後はどうしようもなく、
活動もろくにできないせまさで生きているだけ。
温泉での気持ちはただのいっしゅんだけだったのか。
いつまでたっても日本という国に溶けこめない、
電気も付けていなかった部屋が今の私の様子そのものに
思えてくる。

「・・・・・・」

バフッ バタバタ

フリだけでもプールの代わりにベッドにとびこみ、
平泳ぎのマネ。
このやわらかな所ではふつうにういていられる。
当たり前だけど、温かくて息ができるから苦にならない。
まるで低学年がモソモソするのといっしょ。
確かにまだ子どもだけど、何かが進まない生活ばかりで
どうすれば良いのか分からない。
ベッドのバネに支えられるだけで、
何も実感がわいてこないむなしさにひたっている時だった。










「メアリー、ホッカイドウの先生から電話があったのよ。
 もよおしをするから来ないかって」
「えっ?」

なんと、レイチェル校長先生からまたコンタクトを受ける。
白閃小学校に来ないかというおさそいの声をかけられた。
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