スプラヴァン!

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1章 九州編

第3話  母には内緒で

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垂水エリア ユイの自宅

 時は外も暗くなった午後8:00。
すでに夕食を終えた私は部屋でインターネットをする。
いつもは午後9時くらいに寝るけど、
それまでは友だちとチャットをしたり
昼間とはちがってのほほんとした時間を送る。
スマートフォンを持っていて、女子さながらの話とか
いかにもな事をするものだけど、
今は寝る前にやっぱりちょっとした雑談をしていた。
サイトはカナヅチの部屋。
泳げない人たちがどのように水をこくふくできるか
話し合う子ども用の部屋で、こうしてのぞいては
助言をして水泳ぎらいを少しでも減らす目的もあった。
もちろん、私の名前は一切話さずに参加。
ネット世界は個人情報を公開するのは危険で、
夜中のオキナワの森に入るのと同じく
身元を明かしてはいけないのは常識となっている。
ここではイルカ先生という名前で泳げる方法を教えていた。

――――――――――――――――――――――――――
「みずにかおをつけるのもこわい」
「最初は目を閉じていて少しだけ待っててごらん
 顔の冷たさになれたら開けると良いよ」
「水に入ったらどうやって上にいくの?」
「水中に入ったら体の力をぬいて
 そうすれば自然にういてくるから」
「バタあしがうまくできないんだけど?」
「足首に力を入れすぎないようにして
 魚のヒレみたいに左右順番に動かすの」
――――――――――――――――――――――――――

(あ、ヒレって動かないんだった)

人が魚になれないチャットミスを書く。
質問も内容が基本中の基本ばかりで、
おそらく低学年の子ばかりだろう。
どんな発想か、下手な例え話してしまった。
魚に足が生えたみたいな人魚話はおそらく
伝わっていないかもしれない。
とはいっても、人は地上で暮らしているから当たり前。
環境や地域でそれぞれ活動がちがうだけで、
とりえの育ち方も色々と変わるのか。
私も最初は才能あるくらい人の事は言えなかったけど。

ここで座敷童ざしきわらしの声が入るが、この時代の子どもは
当たり前のようにネットを利用している。
今も同じのようだが、行動が制限されつつある夏は
おのずとヒマをもて余すかのように
電子的な交流場に思考をよせ合う場所になりやすい。
なんとなく集まるネコたちも日影を見つけては
コロンと寝そべるのはいつも同じだろう。
動物すら炎天下でフラつくものなどいないのだ。

と、押入れから現れたなぞの言葉もそこそこに、
今日の相談を終わりにして寝ようとする。
そういえば、ミキと買い物に行く予定も立てていた。
だけど、ちょっとした会話から出た言いっぱなしで
いつ行くのかまだ決めてなく、あの子も色々と
予定があるみたいでハッキリと決めていなかった。
だいたいは登校日以外の合間の休みに行けば済むけど、
ちゃんと向こうと時間を合わせないとまたイザコザになる。
そこに1つ付け足すように相談しなければならない人も
こちらにいるけど。

(お母さんに出かけるのを言わないと)

家でもどこかへ行く時は事前に言えというルールもある。
私は母に許可をもらわないとほとんど自由行動もとれず。
いつ行くのが良いか聞きに行く。


台所で家計ぼを書いている母に出かける許可をもらう。
もちろん学校のない日くらいしかないけど、
学校帰りは怒られるし帰ってから行くと二度手間になる。

「お母さん、今度友だちと買い物にいってきて良い?」
「いつごろ?」
「土曜か日曜にしたいんだけど、ミキと約束して」
「土曜は学校で水泳があるでしょ?
 私もその日は用事で家を空けるから、次の日曜になさい」
「分かった」

ということですんなりと許可。
少なくとも、自宅にはだれか1人いないとおっつかない
風習はオキナワの時から同じ。
それはともかく、早めに連絡しないと
先に予定を入れられるかもしれないので
部屋にもどってこのことをミキに連絡しようとした時、
セリオから電話がくる。

「「ユイー、今度ウオバトあるけどやらないか!?」」
「え、土曜!? またやるの!?」
「「こないだお前が来て、みんなすげー面白いってんで
  再戦しろってよ! なんだ、日曜が良いのか?」」
「日曜はこっちで友だちと買い物にいく約束しているの。
 あの子のことだから帰りがいつになるか分からないし」
「「じゃあ、土曜で良いな!
  時間はいつもの午後2時で待ってるぜ!」」
「そう、分かった・・・あっ!?」

その日はカゴシマで水泳の練習があるのを思い出す。
うっかりと忘れて土曜にOKを出してしまった。
ふんいきにのまれて、つい時間がズレてしまう。
何も知らないセリオが疑問に聞く。

「「どうした?」」
「・・・イヤ、なんでもないよ。行くから」

あやふやに行くと返事をしてしまう。
電話を切って事態じたいを思い返して顔が引きつった。

(土曜日、水泳があるんだった・・・)

なんという事か、部活がある日に遊ぶ約束をしてしまった。
2つの予定がいつの間にか1つだけとさっかくしてしまい、
先走ってついOKしてしまう。
部活とウオバトの時間は・・・不運にも重なる。
本当にオキナワっ子は日にちも忘れて
大っぴらに遊ぶくらい活発だ。
にもかかわらず、元現地人なのに断りきれない私は
まだひかえめな方なのか。
母には会話に気付かれていない。
今さら取り消しなんて言ったらきらわれるから
電話し直す勇気もなく、迷いが生まれ始める。
はさみうちになった様に判断しなければならず。
どっちへ行くべきか、私がその日にとった行動は・・・。










結局、行った方はウオバト。
汰洋小学校の部活の方は用事で休むと言って、
気付かれずにオキナワへ行く。
ぼうしをかぶったくらいでは船員の人の目を
ごまかせそうにない。私の顔を十分に知っているから、
告げられるとおこられるかもしれない。
とはいえ、行動としてこちらを選んでいる自分。
水泳そっちのけでオキナワに来たとは言えずに、
何かから逃げるように元の故郷ふるさとに来ていた。
こちらの方が暑いにもかかわらず、とらわれる様に
小麦のはだにさらに照りつけ。
すでに何回も来ているはずのテーマパークにあきもせず、
無意識の内にウォーターガンをにぎりしめ、
水球を打っている私がいた。
今日の試合は男子たちの相打ちで終わったもよう。
やってる事はいつもの平ぼんな事だけど、
事情は友だちへの明かせなさがせなかをたどった。

(水泳・・・ズル休みしちゃった)

母にだまって水泳とウソをつき、ウオバトの方を選ぶ。
さそわれたとはいえ、不意に選んだのはこちらの方。
別に水泳を辞めるわけではないけど、
後ろめたさも増してくる。
水辺に展示されたスイレンの花が水面にゆれながら浮かぶ。
たまにはちがうことをしたいという気持ちがあったのか、
フラフラと私自身も整理しきれずに身を任せて
故郷ふるさとの水辺の今に体を動かしていくだけだった。
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