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1章 九州編
第1話 別たれた海
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シュブゥン
学校のプールで水泳の授業が行われている。
日焼けしたボブカット少女だけが1人、
異様なまでの速さで泳いでいた。
水しぶきをあげつつ、かつムダなモーションをとらずに
50m進んでゴール。
両わきはだれも泳いでなく、
彼女だけ特別とばかりタイムを計っていた。
「ユイのタイム、26秒!」
「ちょっとおそくなっちゃったか・・・」
先生に計られた数字をきいてかたが下がる。
一般的なタイムではない数値をたたきだしても、
好ましく思えなかった。
プールの水がしたたり落ちる中、両うでで上に上がる。
私は水泳の選手でもあり、
全国大会で1位をとったこともある。
これだけがとりえとばかり、日常生活は学校や遊びの他は
泳ぐことが日課で青い世界の中を行き来。
あまり他のしゅみをもつことをしていない。
ずっと同じことばかりする光景に、
そばで見ていた友だちのミキは目を丸くしている。
「やっぱり、動きがまるでちがう・・・。
向こうでどんな練習してきたの?」
「う~ん、特別な練習とかしてないかなぁ。
ただ、1年中泳いできただけ」
「そこら辺の施設で泳ぐのとちがうの?
今週でも50セット以上やってると思うし」
「う~ん、ここ最近はシックリこなくって。
冬はここで泳げないし、授業もむずかしくなってるから」
「そうくるか・・・でも、練習時間も減ったわ。
水泳の授業が半分なくなったしね。
あんたの実力も危なくなるんじゃない?」
「だいじょうぶ、水泳をするのはここだけじゃないし。
向こうでもおぎなってるからなんとかなるよ」
という会話の理由は泳ぎを得意とするチャンスが
減っていること。
学校でやる科目の内容が変わりつつある。
ウォーターバトルフィールドというスポーツが
最近体育の科目として毎年この時期に
行われるようになった。
最近の季節は本州も50℃に近づくくらいの暑さとなって、
全国で水鉄砲を使う授業が義務とばかり
割りこむように入れられている。
冷たくするとはいえ、なんで水鉄砲なのかといっても
分からない。
ここはカゴシマにある汰洋小学校。
私は1年前、オキナワから引っこしてきてきた。
ここで通っている学校はプールがあるので
ふつうに水泳だけできるものの、
時代の流れは色々と変わっているようだ。
しかし、地上で動き回るのはあまり得意ではない。
水鉄砲で打ち合うのはちょっと苦手。
体育の内容が代わりつつある時代の中で、
そう簡単に切りかえにくいのが女子。
鳴り物入りで入ってきた私を見てくれるのは
ありがたいけど、やることが増えた分、
能力も平均に近づいている感じがする。
先生が続行の有無を聞く。
「強化練習もたくさんやれる時間もへっちゃってるし。
もう終わりにする?」
「後5セットくらいやってみます」
「わお、さすが1位。OK、じゃあ3分後に再開しよ」
時間もおしむように、もう少しだけがんばろうと決める。
全国大会を意識しているのもそうだけど、
人の期待にこたえることが強く
この後はもう50mを5回ほど行って
今日の学校はこれで終わり、帰宅した。
垂水エリア ユイの自宅
「ただいま」
「おかえりなさい、ご飯もうできてるわ。
水泳はどうだった?」
「イマイチかも、ちょっとタイムが下がっちゃったみたい」
「あら、それは良くないわね。
学校で何か問題でもあったの? 指導が良くないとか」
「いや、だいじょうぶ。私の調子がよくなかっただけ」
台所で夕食の用意とタイムが上がらずに
更新記録ののびなやみが上がる話をする。
私と母だけの場ではほとんどがこういった会話だけで進む。
ゆいいつのとりえであるスポーツをほこりとして、
母は水泳だけを気にするような言い方をした。
「そうね・・・学校でふさわしくなければ
スイミングスクールも考えているんだけど、
近場で良いインストラクターがいれば」
「いいよ、また向こうへ行ってくるから。
明日は日曜だし、学校の部活もやってるはずだから
心配しないで」
私はこれといった専門学校に通っていない。
母子家庭ということで母は私のせなかをおしている。
親の世代でしていなかったスポーツがとつぜんやってきて、
わけも分からない中で科目の1つに入れられたから
納得いかないだろう。子どもは新しいものに
すぐに慣れるからどうということもない。
でも、大人にとって変わるというのはつらいことだろう。
後は向こうがわの設備にとよるしかないのが
小学生の立場だけど。
「あの、お父さんは――」
「仕事でしょ。
船の出港もあるから部活が終わったら
早めに帰ってきなさい」
母はそっけないように答える。
夕方前にはすぐもどるように言われた。
明日は600kmの海をわたって私1人で行く。
今日も父は帰ってこなかった。
しかし、母は一緒に来るつもりがない。
この会話はあまり口に出してはいけないふんいきが
間にただよう。
ちゃんとこちそうさまと言いつつ、
コップに入れた麦茶を半分だけのこして台所を出る。
そう、私の両親は今、いっしょにいない。
カゴシマとオキナワそれぞれに
別居してくらしていたからだ。
学校のプールで水泳の授業が行われている。
日焼けしたボブカット少女だけが1人、
異様なまでの速さで泳いでいた。
水しぶきをあげつつ、かつムダなモーションをとらずに
50m進んでゴール。
両わきはだれも泳いでなく、
彼女だけ特別とばかりタイムを計っていた。
「ユイのタイム、26秒!」
「ちょっとおそくなっちゃったか・・・」
先生に計られた数字をきいてかたが下がる。
一般的なタイムではない数値をたたきだしても、
好ましく思えなかった。
プールの水がしたたり落ちる中、両うでで上に上がる。
私は水泳の選手でもあり、
全国大会で1位をとったこともある。
これだけがとりえとばかり、日常生活は学校や遊びの他は
泳ぐことが日課で青い世界の中を行き来。
あまり他のしゅみをもつことをしていない。
ずっと同じことばかりする光景に、
そばで見ていた友だちのミキは目を丸くしている。
「やっぱり、動きがまるでちがう・・・。
向こうでどんな練習してきたの?」
「う~ん、特別な練習とかしてないかなぁ。
ただ、1年中泳いできただけ」
「そこら辺の施設で泳ぐのとちがうの?
今週でも50セット以上やってると思うし」
「う~ん、ここ最近はシックリこなくって。
冬はここで泳げないし、授業もむずかしくなってるから」
「そうくるか・・・でも、練習時間も減ったわ。
水泳の授業が半分なくなったしね。
あんたの実力も危なくなるんじゃない?」
「だいじょうぶ、水泳をするのはここだけじゃないし。
向こうでもおぎなってるからなんとかなるよ」
という会話の理由は泳ぎを得意とするチャンスが
減っていること。
学校でやる科目の内容が変わりつつある。
ウォーターバトルフィールドというスポーツが
最近体育の科目として毎年この時期に
行われるようになった。
最近の季節は本州も50℃に近づくくらいの暑さとなって、
全国で水鉄砲を使う授業が義務とばかり
割りこむように入れられている。
冷たくするとはいえ、なんで水鉄砲なのかといっても
分からない。
ここはカゴシマにある汰洋小学校。
私は1年前、オキナワから引っこしてきてきた。
ここで通っている学校はプールがあるので
ふつうに水泳だけできるものの、
時代の流れは色々と変わっているようだ。
しかし、地上で動き回るのはあまり得意ではない。
水鉄砲で打ち合うのはちょっと苦手。
体育の内容が代わりつつある時代の中で、
そう簡単に切りかえにくいのが女子。
鳴り物入りで入ってきた私を見てくれるのは
ありがたいけど、やることが増えた分、
能力も平均に近づいている感じがする。
先生が続行の有無を聞く。
「強化練習もたくさんやれる時間もへっちゃってるし。
もう終わりにする?」
「後5セットくらいやってみます」
「わお、さすが1位。OK、じゃあ3分後に再開しよ」
時間もおしむように、もう少しだけがんばろうと決める。
全国大会を意識しているのもそうだけど、
人の期待にこたえることが強く
この後はもう50mを5回ほど行って
今日の学校はこれで終わり、帰宅した。
垂水エリア ユイの自宅
「ただいま」
「おかえりなさい、ご飯もうできてるわ。
水泳はどうだった?」
「イマイチかも、ちょっとタイムが下がっちゃったみたい」
「あら、それは良くないわね。
学校で何か問題でもあったの? 指導が良くないとか」
「いや、だいじょうぶ。私の調子がよくなかっただけ」
台所で夕食の用意とタイムが上がらずに
更新記録ののびなやみが上がる話をする。
私と母だけの場ではほとんどがこういった会話だけで進む。
ゆいいつのとりえであるスポーツをほこりとして、
母は水泳だけを気にするような言い方をした。
「そうね・・・学校でふさわしくなければ
スイミングスクールも考えているんだけど、
近場で良いインストラクターがいれば」
「いいよ、また向こうへ行ってくるから。
明日は日曜だし、学校の部活もやってるはずだから
心配しないで」
私はこれといった専門学校に通っていない。
母子家庭ということで母は私のせなかをおしている。
親の世代でしていなかったスポーツがとつぜんやってきて、
わけも分からない中で科目の1つに入れられたから
納得いかないだろう。子どもは新しいものに
すぐに慣れるからどうということもない。
でも、大人にとって変わるというのはつらいことだろう。
後は向こうがわの設備にとよるしかないのが
小学生の立場だけど。
「あの、お父さんは――」
「仕事でしょ。
船の出港もあるから部活が終わったら
早めに帰ってきなさい」
母はそっけないように答える。
夕方前にはすぐもどるように言われた。
明日は600kmの海をわたって私1人で行く。
今日も父は帰ってこなかった。
しかし、母は一緒に来るつもりがない。
この会話はあまり口に出してはいけないふんいきが
間にただよう。
ちゃんとこちそうさまと言いつつ、
コップに入れた麦茶を半分だけのこして台所を出る。
そう、私の両親は今、いっしょにいない。
カゴシマとオキナワそれぞれに
別居してくらしていたからだ。
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