スプラヴァン!

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1章 中つ国編

第1話  水という芸術

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 美術の授業で透明の壁ごしで仕切られた教室で
10人の児童たちが絵を描いている。
中央のテーブルに置かれた赤いリンゴに向かって
円陣えんじんを形づくりつつイスにすわって筆を動かす。
ここにいる子どもたちは学年がそれぞれちがう。
1年生から6年生まで集められた
“絵が上手に描ける”子たちで、
部活ではなくれっきとした1つの授業として行っていた。
内の1人である金髪ポニーテールの男子も同じく
長方形の額縁がくぶちに顔を向けて
描いているが、他の子よりも進んでいなかった。

(・・・ムラがある)

ここはヒロシマにある曄園ようえん小学校。
公立ではなく私立で、ふつうの学校とは異なる
アートスクールだ。よって、みんな美術におぼえがある。
自分は小学4年生で同じく絵描きを得意とした
とりえをもってここにいた。
今、行っているのは今度のコンクールに出展するための
イラストで、小学生の部で最優秀賞をねらうために
授業の1つとして行っていた。
今の自分にとっては何度も同じことをしてきて
別に難しい事をしているわけではない。
しかし、今日ばかりは思うような色が出せずに
つい指を止めていた。
体調が悪いわけではなく、色付けというノリが悪いから
筆とパレットを両手に分けて高さをそろえて描くも
すんなりといかず、パレットに付けた絵の具に水を
にじませたのをジッと見つめる。
いつもと異なるモーションをとれば周りも気付くもの。
となりにいたクラスメイトのソウマから聞かれる。

「ラッセル、どうした?」
「ちょっと上手く付かない、色あせの部分」

今日は赤のノリが良くない。
絵描きの手順はいつもと同じようにやっているはずだけど、
手持ちのパレットに付けた絵の具のにじみがイマイチ。
思うように上手くいかないと、
ちがうことを始めてしまう他動さも子ども。
今、先生は席を外しているので、
周りもつい口が開いてくる。
マリが時期に合わせるような話題に変わった。

「そういえば、もう7月になるね。
 今年もアレを体育でやるのかな?」
「あ~、もうそんな季節か。ここもやるの?」

ソウマが今気づいたとばかりに答える。
マリの言うアレとはウォーターバトルフィールドのこと。
この時代の夏は科目に水鉄砲で打ち合う運動が
鳴り物入りで行われていた。
ここ中つ国でも数年前から体育で水冷行事のように
始めているが、
おせじにも自分たちの学校はその競技が優秀とはいえず、
1~6年生全員があまり良い成績を取った人がいなかった。
芸術を重要とするここにおいて
運動神経は大きくみなされない。
どちらかと言うと、美術センスが何よりとばかりに
どう体を活発に動かす機会は多くない所だ。

「そりゃあ、やるに決まってるだろ。
 数年前にひょっこりでてきた新スポーツだから、
 いきなり終了なんてならないし。
 こっちはあんまり目立ったことしてないけどさ」
「やりたくないものをムリにやらせなくたって良いわよね。
 だからって、この学校だけぬきってわけにはいかないし」
「美術関連でみんなもここに集まっているからね。
 元々体育でたいして良い成績もとれないのは
 当然だと思う。だけど・・・」

個人的に気になるのは、この水質がどの様な仕組みで
ルールに適用されているのかが気になる。
理由は年齢の区切りにしているところ。
ウォーターガンに用いる水がどうして
軟水なんすい硬水こうすいに分けているのか、
よく理解できなかった。
先生の説明では子どもにとってがいがあるから
硬水はダメで、結局小学生は軟水でのみ
ウオバトで用いることしかできず。
理解できる子もそれほどいない。
彼らも性格からして明確な仕組みでなければ
みとめないけど、すみずみまで分からないと
手足がまともに動かせられないからだ。

「あの2種類の水って何?」
「水鉄砲から出た水が体のどこに当たったのか
 細かく判定するために、
 亜空間バブルで水を変えてるんだって」
「でも、それで2種類に分けてる理由がよく分からない。
 どうして、小学生だけ軟水を使っているのかが
 納得いかないな」
「え~と、確か若い子だと硬水は肌の適性が合わなくて
 ヒットした時の判定がおかしくなる・・・だっけ?」

理由はただ、ルールを元にする仕組みを
1から頭に入れたかったから。
ふだんから意識していないせいで、答えられる子はいない。
これをきっかけに話題が身体エネルギーと代わり、
ソウマとマリの口数にいきおいが増してくる。
授業のふんいきから次第に外れて声があがってきた。

「水っていえばさ、あんたがこの前こぼしたジュースの件」
「いつの話だよ?」
「2か月前の調理実習で
 着色したトマトジュースを作ってたじゃない?
 でもそれはトマトじゃなくて
 別ビンに入れたケチャップで、
 転んだいきおいであんたの口に入っちゃってー」
「あれはお前がいきなり立ち上がって
 ビックリしたからだろ!?
 息を吸った時にタイミングよく入って――!」










ウィーン

「!?」
「みなさん、はかどっていますか?」

とつぜん、マチコ先生がもどってきた。
ろうかは教室からまる見えのはずだけど、
この先生はいつも死角[見づらい位置]から
歩いて入ってくる。
あわてたみんなはそれぞれの絵描きにもどる。
サボってはおこられると自分も続いて描きなおすものの、
先の話が終わっても、何か引っかかるような感じがした。

「・・・・・・」

まあ、仮に分かったとしてもどうということはない。
わずか数年前から始まった水打ちとして、これといった特技もなかった。
左手の筆、右手のパレット。
赤と黄緑のまざるリンゴの表面。
つやがある部分とそうでない部分の間に目線が
とまり続ける。
パレットにまざる赤色はまた望んだ色には変わらず。
食べ物にいろどられた色を見て、
自分は無言むごんのままパレットをにぎっていた。
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