67 / 131
1章 中つ国編
第1話 水という芸術
しおりを挟む
美術の授業で透明の壁ごしで仕切られた教室で
10人の児童たちが絵を描いている。
中央のテーブルに置かれた赤いリンゴに向かって
円陣を形づくりつつイスにすわって筆を動かす。
ここにいる子どもたちは学年がそれぞれちがう。
1年生から6年生まで集められた
“絵が上手に描ける”子たちで、
部活ではなくれっきとした1つの授業として行っていた。
内の1人である金髪ポニーテールの男子も同じく
長方形の額縁に顔を向けて
描いているが、他の子よりも進んでいなかった。
(・・・ムラがある)
ここはヒロシマにある曄園小学校。
公立ではなく私立で、ふつうの学校とは異なる
アートスクールだ。よって、みんな美術におぼえがある。
自分は小学4年生で同じく絵描きを得意とした
とりえをもってここにいた。
今、行っているのは今度のコンクールに出展するための
イラストで、小学生の部で最優秀賞をねらうために
授業の1つとして行っていた。
今の自分にとっては何度も同じことをしてきて
別に難しい事をしているわけではない。
しかし、今日ばかりは思うような色が出せずに
つい指を止めていた。
体調が悪いわけではなく、色付けというノリが悪いから
筆とパレットを両手に分けて高さをそろえて描くも
すんなりといかず、パレットに付けた絵の具に水を
にじませたのをジッと見つめる。
いつもと異なるモーションをとれば周りも気付くもの。
となりにいたクラスメイトのソウマから聞かれる。
「ラッセル、どうした?」
「ちょっと上手く付かない、色あせの部分」
今日は赤のノリが良くない。
絵描きの手順はいつもと同じようにやっているはずだけど、
手持ちのパレットに付けた絵の具のにじみがイマイチ。
思うように上手くいかないと、
ちがうことを始めてしまう他動さも子ども。
今、先生は席を外しているので、
周りもつい口が開いてくる。
マリが時期に合わせるような話題に変わった。
「そういえば、もう7月になるね。
今年もアレを体育でやるのかな?」
「あ~、もうそんな季節か。ここもやるの?」
ソウマが今気づいたとばかりに答える。
マリの言うアレとはウォーターバトルフィールドのこと。
この時代の夏は科目に水鉄砲で打ち合う運動が
鳴り物入りで行われていた。
ここ中つ国でも数年前から体育で水冷行事のように
始めているが、
おせじにも自分たちの学校はその競技が優秀とはいえず、
1~6年生全員があまり良い成績を取った人がいなかった。
芸術を重要とするここにおいて
運動神経は大きくみなされない。
どちらかと言うと、美術センスが何よりとばかりに
どう体を活発に動かす機会は多くない所だ。
「そりゃあ、やるに決まってるだろ。
数年前にひょっこりでてきた新スポーツだから、
いきなり終了なんてならないし。
こっちはあんまり目立ったことしてないけどさ」
「やりたくないものをムリにやらせなくたって良いわよね。
だからって、この学校だけぬきってわけにはいかないし」
「美術関連でみんなもここに集まっているからね。
元々体育でたいして良い成績もとれないのは
当然だと思う。だけど・・・」
個人的に気になるのは、この水質がどの様な仕組みで
ルールに適用されているのかが気になる。
理由は年齢の区切りにしているところ。
ウォーターガンに用いる水がどうして
軟水と硬水に分けているのか、
よく理解できなかった。
先生の説明では子どもにとって害があるから
硬水はダメで、結局小学生は軟水でのみ
ウオバトで用いることしかできず。
理解できる子もそれほどいない。
彼らも性格からして明確な仕組みでなければ
みとめないけど、すみずみまで分からないと
手足がまともに動かせられないからだ。
「あの2種類の水って何?」
「水鉄砲から出た水が体のどこに当たったのか
細かく判定するために、
亜空間バブルで水を変えてるんだって」
「でも、それで2種類に分けてる理由がよく分からない。
どうして、小学生だけ軟水を使っているのかが
納得いかないな」
「え~と、確か若い子だと硬水は肌の適性が合わなくて
ヒットした時の判定がおかしくなる・・・だっけ?」
理由はただ、ルールを元にする仕組みを
1から頭に入れたかったから。
ふだんから意識していないせいで、答えられる子はいない。
これをきっかけに話題が身体エネルギーと代わり、
ソウマとマリの口数にいきおいが増してくる。
授業のふんいきから次第に外れて声があがってきた。
「水っていえばさ、あんたがこの前こぼしたジュースの件」
「いつの話だよ?」
「2か月前の調理実習で
着色したトマトジュースを作ってたじゃない?
でもそれはトマトじゃなくて
別ビンに入れたケチャップで、
転んだいきおいであんたの口に入っちゃってー」
「あれはお前がいきなり立ち上がって
ビックリしたからだろ!?
息を吸った時にタイミングよく入って――!」
ウィーン
「!?」
「みなさん、はかどっていますか?」
とつぜん、マチコ先生がもどってきた。
ろうかは教室からまる見えのはずだけど、
この先生はいつも死角[見づらい位置]から
歩いて入ってくる。
あわてたみんなはそれぞれの絵描きにもどる。
サボってはおこられると自分も続いて描きなおすものの、
先の話が終わっても、何か引っかかるような感じがした。
「・・・・・・」
まあ、仮に分かったとしてもどうということはない。
わずか数年前から始まった水打ちとして、これといった特技もなかった。
左手の筆、右手のパレット。
赤と黄緑のまざるリンゴの表面。
つやがある部分とそうでない部分の間に目線が
とまり続ける。
パレットにまざる赤色はまた望んだ色には変わらず。
食べ物にいろどられた色を見て、
自分は無言のままパレットをにぎっていた。
10人の児童たちが絵を描いている。
中央のテーブルに置かれた赤いリンゴに向かって
円陣を形づくりつつイスにすわって筆を動かす。
ここにいる子どもたちは学年がそれぞれちがう。
1年生から6年生まで集められた
“絵が上手に描ける”子たちで、
部活ではなくれっきとした1つの授業として行っていた。
内の1人である金髪ポニーテールの男子も同じく
長方形の額縁に顔を向けて
描いているが、他の子よりも進んでいなかった。
(・・・ムラがある)
ここはヒロシマにある曄園小学校。
公立ではなく私立で、ふつうの学校とは異なる
アートスクールだ。よって、みんな美術におぼえがある。
自分は小学4年生で同じく絵描きを得意とした
とりえをもってここにいた。
今、行っているのは今度のコンクールに出展するための
イラストで、小学生の部で最優秀賞をねらうために
授業の1つとして行っていた。
今の自分にとっては何度も同じことをしてきて
別に難しい事をしているわけではない。
しかし、今日ばかりは思うような色が出せずに
つい指を止めていた。
体調が悪いわけではなく、色付けというノリが悪いから
筆とパレットを両手に分けて高さをそろえて描くも
すんなりといかず、パレットに付けた絵の具に水を
にじませたのをジッと見つめる。
いつもと異なるモーションをとれば周りも気付くもの。
となりにいたクラスメイトのソウマから聞かれる。
「ラッセル、どうした?」
「ちょっと上手く付かない、色あせの部分」
今日は赤のノリが良くない。
絵描きの手順はいつもと同じようにやっているはずだけど、
手持ちのパレットに付けた絵の具のにじみがイマイチ。
思うように上手くいかないと、
ちがうことを始めてしまう他動さも子ども。
今、先生は席を外しているので、
周りもつい口が開いてくる。
マリが時期に合わせるような話題に変わった。
「そういえば、もう7月になるね。
今年もアレを体育でやるのかな?」
「あ~、もうそんな季節か。ここもやるの?」
ソウマが今気づいたとばかりに答える。
マリの言うアレとはウォーターバトルフィールドのこと。
この時代の夏は科目に水鉄砲で打ち合う運動が
鳴り物入りで行われていた。
ここ中つ国でも数年前から体育で水冷行事のように
始めているが、
おせじにも自分たちの学校はその競技が優秀とはいえず、
1~6年生全員があまり良い成績を取った人がいなかった。
芸術を重要とするここにおいて
運動神経は大きくみなされない。
どちらかと言うと、美術センスが何よりとばかりに
どう体を活発に動かす機会は多くない所だ。
「そりゃあ、やるに決まってるだろ。
数年前にひょっこりでてきた新スポーツだから、
いきなり終了なんてならないし。
こっちはあんまり目立ったことしてないけどさ」
「やりたくないものをムリにやらせなくたって良いわよね。
だからって、この学校だけぬきってわけにはいかないし」
「美術関連でみんなもここに集まっているからね。
元々体育でたいして良い成績もとれないのは
当然だと思う。だけど・・・」
個人的に気になるのは、この水質がどの様な仕組みで
ルールに適用されているのかが気になる。
理由は年齢の区切りにしているところ。
ウォーターガンに用いる水がどうして
軟水と硬水に分けているのか、
よく理解できなかった。
先生の説明では子どもにとって害があるから
硬水はダメで、結局小学生は軟水でのみ
ウオバトで用いることしかできず。
理解できる子もそれほどいない。
彼らも性格からして明確な仕組みでなければ
みとめないけど、すみずみまで分からないと
手足がまともに動かせられないからだ。
「あの2種類の水って何?」
「水鉄砲から出た水が体のどこに当たったのか
細かく判定するために、
亜空間バブルで水を変えてるんだって」
「でも、それで2種類に分けてる理由がよく分からない。
どうして、小学生だけ軟水を使っているのかが
納得いかないな」
「え~と、確か若い子だと硬水は肌の適性が合わなくて
ヒットした時の判定がおかしくなる・・・だっけ?」
理由はただ、ルールを元にする仕組みを
1から頭に入れたかったから。
ふだんから意識していないせいで、答えられる子はいない。
これをきっかけに話題が身体エネルギーと代わり、
ソウマとマリの口数にいきおいが増してくる。
授業のふんいきから次第に外れて声があがってきた。
「水っていえばさ、あんたがこの前こぼしたジュースの件」
「いつの話だよ?」
「2か月前の調理実習で
着色したトマトジュースを作ってたじゃない?
でもそれはトマトじゃなくて
別ビンに入れたケチャップで、
転んだいきおいであんたの口に入っちゃってー」
「あれはお前がいきなり立ち上がって
ビックリしたからだろ!?
息を吸った時にタイミングよく入って――!」
ウィーン
「!?」
「みなさん、はかどっていますか?」
とつぜん、マチコ先生がもどってきた。
ろうかは教室からまる見えのはずだけど、
この先生はいつも死角[見づらい位置]から
歩いて入ってくる。
あわてたみんなはそれぞれの絵描きにもどる。
サボってはおこられると自分も続いて描きなおすものの、
先の話が終わっても、何か引っかかるような感じがした。
「・・・・・・」
まあ、仮に分かったとしてもどうということはない。
わずか数年前から始まった水打ちとして、これといった特技もなかった。
左手の筆、右手のパレット。
赤と黄緑のまざるリンゴの表面。
つやがある部分とそうでない部分の間に目線が
とまり続ける。
パレットにまざる赤色はまた望んだ色には変わらず。
食べ物にいろどられた色を見て、
自分は無言のままパレットをにぎっていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
Condense Nation
鳳
SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、
正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。
海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。
軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。
生存のためならルールも手段も決していとわず。
凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、
決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。
五感の界隈すら全て内側の央へ。
サイバーとスチームの間を目指して
登場する人物・団体・名称等は架空であり、
実在のものとは関係ありません。
怪獣特殊処理班ミナモト
kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
宇宙戦艦三笠
武者走走九郎or大橋むつお
SF
ブンケン(横須賀文化研究部)は廃部と決定され、部室を軽音に明け渡すことになった。
黎明の横須賀港には静かに記念艦三笠が鎮座している。
奇跡の三毛猫が現れ、ブンケンと三笠の物語が始まろうとしている。
深淵の星々
Semper Supra
SF
物語「深淵の星々」は、ケイロン-7という惑星を舞台にしたSFホラーの大作です。物語は2998年、銀河系全体に広がる人類文明が、ケイロン-7で謎の異常現象に遭遇するところから始まります。科学者リサ・グレイソンと異星生物学者ジョナサン・クインが、この異常現象の謎を解明しようとする中で、影のような未知の脅威に直面します。
物語は、リサとジョナサンが影の源を探し出し、それを消し去るために命を懸けた戦いを描きます。彼らの犠牲によって影の脅威は消滅しますが、物語はそれで終わりません。ケイロン-7に潜む真の謎が明らかになり、この惑星自体が知的存在であることが示唆されます。
ケイロン-7の守護者たちが姿を現し、彼らが人類との共存を求めて接触を試みる中で、エミリー・カーペンター博士がその対話に挑みます。エミリーは、守護者たちが脅威ではなく、共に生きるための調和を求めていることを知り、人類がこの惑星で新たな未来を築くための道を模索することを決意します。
物語は、恐怖と希望、未知の存在との共存というテーマを描きながら、登場人物たちが絶望を乗り越え、未知の未来に向かって歩む姿を追います。エミリーたちは、ケイロン-7の守護者たちとの共存のために調和を探り、新たな挑戦と希望に満ちた未来を築こうとするところで物語は展開していきます。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる