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桜花昇天之章
5話 帰郷の綿包花 壱
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植物は培った賜物を運ぶ役割をもつ。
実質には繁栄で花粉や種を蒔くだけの行為で、
成長の過程の分体を分かち合うのは生物と等しい。
本体は能動的に動けないものの、
媒介として花粉を昆虫に運ばせ、
また種を飛ばして同種の増殖に勤しみを欠かさない。
ただの増殖というならば、単純な分裂作用にみえる。
一般常識からすれば、植物は植物だけの一原理に過ぎず。
誰しもが地上に生える草むらとして下目で見るだけの
平原に染まる緑色の絨毯にすぎないだろう。
もし、運ぶものが人だとしたら?
意思が植物の央へ通じる異質があるならば、
翠の静者と融合する者達へそっと自然の原理を伝えている。
時に、遥か遠い所にまで根付かせる様な進言を
性質と共に添えて放つのかもしれない。
5月半ば、初夏に近づく温暖も肌に通じてくる時期。
時には半袖でいたくなるくらい暑い日が
じわじわと訪れてきた。
外を眺めれば元気よく遊ぶ子どもも見かけるようになる。
噴水で遊び、鬼ごっこやかくれんぼをして空間を
満たしたがるように駆け回り、楽しそうに活発するものだ。
“昼休みは外で遊びなさい”、小学校ならどこでも言われる
常套句だろう。
羽目を外さないよう見守るのが大人というもの。
見たくれは成長期の端々として見届けてゆくのみ。
ただ、余波は思いがけないところから
自分の身内にやってくる。
自然の不可思議な恩恵、いわば原理に乗っかる活動として、
意外な行動を起こす子もいた。
「じゃあ、出席をとりまーす!」
朝のホームルーム。
どこの地区でも義務教育課程を繰り返す日常を送ってゆく。
常に規則正しい生活を送る教員にとって、慣例の行事。
同じ規律を毎日行うのも大変だ。
14人の顔を前に対する表情を1人1人見守るのが役目。
他地方ほど多くないが、
身を預かる立場ではそう容易くない。
これも乗り越える試練だと思いつつ前方に目をやると、
席が1つ空になっていた。
「あれ、リオン君今日も休み?」
自分が受けもつ児童の1人、
富山リオンが今日もまた欠席していた。
ブロンドのボブカットヘアーで元気な子が来ていない。
ここ最近、出席簿の空欄が目立つくらいよく休んでいた。
怪我や病気にかかったのでもなく、
連日用事でちょくちょく間が空くのも変。
親御さんからきた電話は息子の都合という
簡素な理由しか言わず、
納得できるようなはっきりとした事情が分からなかった。
今日はまだ連絡がこないのでただの遅刻かと思っていたが、
出席をとる最中に様子がおかしい事に確認が止まる。
共にするクラスの男子達も疑わしい同行が目立つと言う。
あの子の行動が最近おかしいと伝えた。
「リオン、なんか落ち着きがないよな」
「学校が終わったらすぐに帰っちゃうし」
「習い事?」
「知らない、別に聞いてないよ」
「ん~?」
普段から大変元気で、じっとしてられない性格。
あまり隠し事をするような気にも思えず、
家の用事でもあるのかと思うも、藍が違うと言った。
「多分、家で何もしてないと思う。
塾や稽古に行ってるなんて、聞いてないし」
「旅行に行ってるとか・・・ないか」
「オレの家、理髪店やっててリオンがたまに来るんだ。
で、いつも何やってるのか聞くと、山に行ってるって」
「山?」
近隣の山で何かをしていると言う。
今まで農作業をしている話は聞いていないが、
仮にそうだとしても未成年者を労働させるのは御法度。
義務教育の決まり上、家の都合だけで済まされない。
本当にただのサボりなら、親の不注意もある。
一度馴れてしまうと不登校になるケースも
少なくないので、早急に解決しなければならないだろう。
また臨時の家庭訪問をする事になるとは。
なんだか親みたいな面倒見の分に近づく気がする。
他の先生より忙しいような慌ただしさを覚える気がした。
そして、放課後になってから直接家に行く。
柳碧町南部にある丑角区に、リオンの家がある。
住宅事情としてみるなら立地条件は町内でも好条件の方だ。
クリーム色の化粧漆喰とよばれる木骨造りと
交差切妻屋根の傾斜が急な建築仕様で外国風な感じだと
すぐに分かる。
現に、あの子は身なりで片方が外国人なのは知っていた。
イギリスのハーフらしく、
洋風な自由奔放気質まじりでよく遊び回って
ちょくちょく活発な行動をしていたのが印象的。
というのは、近年における情勢も関わる。
高度経済成長期に多くの外国の人達が仕事で
日本に拠点をもつので、稼ぎに勤しむ内でここに住居。
中には言葉も話せずに来る人もいるから、
付き合いの壁もあるだろう。
これからますます増えていくと思うと
胸の行き場が少し留まる。
到着すると、庭が自分の家と比べて4倍ほど広い。
特殊な現象が待っているのかと意識しつつ、
玄関口でチャイムを押した。
「こんにちは、大原という者ですが」
「柚子芽小学校の先生ですか、どうぞ」
エプロンを着たお手伝いの人に迎えられて中に入る。
英語しか話せなかったらどうしようかと迷ったが
そうでもないようで難を逃れた。
元はといえば、子が日本語を話せるから余計な事。
家の仕様を見るに、やはりお金持ち系統の家。
動物の顔面装飾品などに、ついキョロキョロしてしまう。
居間と思わしき場所に導かれると主人と思われる
父親がいた。
「突然お邪魔してすみません。
ちょっとリオン君の様子を伺いに来まして」
「こちらにどうぞ」
椅子に座るよう指示される。
父と思わしき人に落ち着いた雰囲気で迎えられた。
ついでに敷かれているクッションを触ってチェック、
異常はない。
これといって霊魂の類はみられなかった。
あんまり妙な仕草をすると怪しまれるので、早々と座る。
あくまで学校や自宅とは違うから
緊張の線を感じざるをえず。
コーヒー風味の飲み物を差し出されて遠慮できずに飲む。
そして、リオンの様子について聞いてみた。
「息子のリオンがご迷惑をおかけしています。
あの子は多動性で何度注意しても聞かず、
ふらっとどこかへ行ってしまう性格で」
「とても元気なお子さんですが、
近日の動向に不安を覚えました。
少々お休みがみられるのでどうなされたのが
心配になりまして」
あの子が多動行為をする習慣は家族も理解しているようだ。
父親も言い聞かせているものの、
変わらず気ままにどこかへ行ってしまい、
行動ばかり起こしているという。
朝起きてからランドセルを抱えてすぐに出ていったり、
昼食をとった後からは夜近くまで人知れずにいなくなる。
時には学校へ行った振りをして噓をつく。
話からして同行は親でも知らない素振りにみえた。
「何度も問い詰めましたが、
どこで何をしているのか話しません。
問答無用とばかり勝手で困りまして」
「そうですか、お家庭の事情と思っていましたけど、
親御さんにも内緒で不登校するのも相当ですね。
リオン君のお友達から聞いたのですが、
何やら山に行ってると」
「山ですか? それは初耳です、初めて聞きました」
親もそんな所に行ってるなんて知らなかったらしい。
農家の類ではなかったようで、強制労働とは違うようだ。
流石に子どもを従事させるわけがなく、
義務教育からの逸脱ではない模様。
リオン独自で勝手に遊んでいた。
ご飯の時に帰ってくるものの、また再び外出してゆく。
よっぽど楽しいのか、学校をほっぽりだしてまで
そこで何をしているのかすら言わないという。
しかし、山のどこなのか。
近場に木なり草なりいくらでもあるけど、
そこでできる事など限られる。
もしや、秘密基地を作って時間を費やしているのか。
どのような理由であれ、自然との親しみも限度がある。
ルール無視で有り余る行動を起こすのが
男子の特徴でもあった。
庭に小さな花が複数咲いている所に視線を向ける。
大人同士の会話で満足に進められそうにない。
今、この場では何も分からずに邸を後にした。
数時間経って今日の夜。
夕食後は疲れを癒すいつもの団らん。
TVを観てる傍らで亜彗が今日起きた出来事を話した。
「そうそう、今日帰る途中で箕佐紀君に会ったよ!」
「気になる事でもあったの?」
「うん、あったって。仕事の人とスゴイものを見たみたい」
「そう? UFOでも見たのかな」
ここ近年、周辺の街では新装開店のアドバルーンなどが
よく見られている。たまに千切れて飛ばされたり
どうせいつもの見当違いと続きを聞いていると。
「近くの山でなにか変なモノを見たって。
あの人だけじゃなく、他の人も見た」
「ふーん」
箕佐紀以外にも目撃者がいるようだ。
仮に何かあったとしても、リオンと関係があるとは限らず。
特に問題なしと思いながら、2人は共に寝る準備を始めた。
と、思いきや体内のある道管にもよおしがやってくる。
(ま、またか・・・)
さっきからずいぶんとトイレに行きたくなる。
どっちかというと、大より小。
なんだか今日は植物ではない方の道管の消化が
はやいようだ。
3月の時みたいな窮地に追いやられるよりはマシだが、
気にせずさっさと足して2人は布団を敷いて寝た。
しかし、体調は下半身だけの問題に留まらなかった。
(ね、眠れない・・・)
さらに、睡眠も妨げられて頭に安静を許してくれない。
どう考えてもカフェインの効果。
原因は体内に摂取したものによってすぐさま特定される。
夕方にコーヒーを飲むのは得しないと改めて
思い知らされた。
翌日、強烈な眠気が目の先まで襲われる。
昨日は結局寝付けずに登校。
脳内が半分寝ている状態で勤務する羽目になった。
ぼやけた視界で教壇に立ちながら出席をとろうとすると。
(ん、来ているな)
リオンは登校しにきた。
幻覚じゃない、本人の姿だ。
理由は今ここで聞くわけにはいかないので、
いつものように休み時間でじっくりと聞こうと待った。
「うーん、聞いてやる、聞いてやるぞぉ!」
という流れで数時間後、早速リオンの所へ行こうとした時、
那由多に今日の授業内容に不満を突かれた。
「先生、さっきの算数だけど、大雑把すぎます!」
「え、そう?」
「かけ算よりわり算を先に計算する事を
教えた方が良いですよ。
文字式を習わせる時に混乱しやすくなりますし。
塾の方が分かりやすいです、もう少し工夫して下さい!」
「わ、分かった」
クラスの優等生に不満を指摘される。
眠気交じりで教えるのも良くないが、
カフェインを摂るタイミングを誤ったのも過失だ。
だからといって、外国文化を断れず。
気休めに、ふと花壇の方へ目を向けると。
「・・・・・・」
「ん?」
ひょっこりと顔の上部を出すリオン。
こちらに気付くと分かると、すぐに引っ込めて離れてゆく。
せっかく聞こうと思っても、子どもの動きは視界に
収まらないくらい速く追いつける気力がもてなかった。
校内で花の力を児童に奮いかざすのは
校長から禁止されている。
まだ話すチャンスはあると、
次の休み時間に接近しようとした時だ。
「えっ、早退!?」
リオンはもう下校し、帰ってしまったという。
担任の自分に何も伝えずに、もてあそばれているかの様に
風の身のこなしで離れていってしまった。
結局、今日は実情の1つも聞けずに徒労。
近日の行いをしている理由は分からなかった。
弐に続く
実質には繁栄で花粉や種を蒔くだけの行為で、
成長の過程の分体を分かち合うのは生物と等しい。
本体は能動的に動けないものの、
媒介として花粉を昆虫に運ばせ、
また種を飛ばして同種の増殖に勤しみを欠かさない。
ただの増殖というならば、単純な分裂作用にみえる。
一般常識からすれば、植物は植物だけの一原理に過ぎず。
誰しもが地上に生える草むらとして下目で見るだけの
平原に染まる緑色の絨毯にすぎないだろう。
もし、運ぶものが人だとしたら?
意思が植物の央へ通じる異質があるならば、
翠の静者と融合する者達へそっと自然の原理を伝えている。
時に、遥か遠い所にまで根付かせる様な進言を
性質と共に添えて放つのかもしれない。
5月半ば、初夏に近づく温暖も肌に通じてくる時期。
時には半袖でいたくなるくらい暑い日が
じわじわと訪れてきた。
外を眺めれば元気よく遊ぶ子どもも見かけるようになる。
噴水で遊び、鬼ごっこやかくれんぼをして空間を
満たしたがるように駆け回り、楽しそうに活発するものだ。
“昼休みは外で遊びなさい”、小学校ならどこでも言われる
常套句だろう。
羽目を外さないよう見守るのが大人というもの。
見たくれは成長期の端々として見届けてゆくのみ。
ただ、余波は思いがけないところから
自分の身内にやってくる。
自然の不可思議な恩恵、いわば原理に乗っかる活動として、
意外な行動を起こす子もいた。
「じゃあ、出席をとりまーす!」
朝のホームルーム。
どこの地区でも義務教育課程を繰り返す日常を送ってゆく。
常に規則正しい生活を送る教員にとって、慣例の行事。
同じ規律を毎日行うのも大変だ。
14人の顔を前に対する表情を1人1人見守るのが役目。
他地方ほど多くないが、
身を預かる立場ではそう容易くない。
これも乗り越える試練だと思いつつ前方に目をやると、
席が1つ空になっていた。
「あれ、リオン君今日も休み?」
自分が受けもつ児童の1人、
富山リオンが今日もまた欠席していた。
ブロンドのボブカットヘアーで元気な子が来ていない。
ここ最近、出席簿の空欄が目立つくらいよく休んでいた。
怪我や病気にかかったのでもなく、
連日用事でちょくちょく間が空くのも変。
親御さんからきた電話は息子の都合という
簡素な理由しか言わず、
納得できるようなはっきりとした事情が分からなかった。
今日はまだ連絡がこないのでただの遅刻かと思っていたが、
出席をとる最中に様子がおかしい事に確認が止まる。
共にするクラスの男子達も疑わしい同行が目立つと言う。
あの子の行動が最近おかしいと伝えた。
「リオン、なんか落ち着きがないよな」
「学校が終わったらすぐに帰っちゃうし」
「習い事?」
「知らない、別に聞いてないよ」
「ん~?」
普段から大変元気で、じっとしてられない性格。
あまり隠し事をするような気にも思えず、
家の用事でもあるのかと思うも、藍が違うと言った。
「多分、家で何もしてないと思う。
塾や稽古に行ってるなんて、聞いてないし」
「旅行に行ってるとか・・・ないか」
「オレの家、理髪店やっててリオンがたまに来るんだ。
で、いつも何やってるのか聞くと、山に行ってるって」
「山?」
近隣の山で何かをしていると言う。
今まで農作業をしている話は聞いていないが、
仮にそうだとしても未成年者を労働させるのは御法度。
義務教育の決まり上、家の都合だけで済まされない。
本当にただのサボりなら、親の不注意もある。
一度馴れてしまうと不登校になるケースも
少なくないので、早急に解決しなければならないだろう。
また臨時の家庭訪問をする事になるとは。
なんだか親みたいな面倒見の分に近づく気がする。
他の先生より忙しいような慌ただしさを覚える気がした。
そして、放課後になってから直接家に行く。
柳碧町南部にある丑角区に、リオンの家がある。
住宅事情としてみるなら立地条件は町内でも好条件の方だ。
クリーム色の化粧漆喰とよばれる木骨造りと
交差切妻屋根の傾斜が急な建築仕様で外国風な感じだと
すぐに分かる。
現に、あの子は身なりで片方が外国人なのは知っていた。
イギリスのハーフらしく、
洋風な自由奔放気質まじりでよく遊び回って
ちょくちょく活発な行動をしていたのが印象的。
というのは、近年における情勢も関わる。
高度経済成長期に多くの外国の人達が仕事で
日本に拠点をもつので、稼ぎに勤しむ内でここに住居。
中には言葉も話せずに来る人もいるから、
付き合いの壁もあるだろう。
これからますます増えていくと思うと
胸の行き場が少し留まる。
到着すると、庭が自分の家と比べて4倍ほど広い。
特殊な現象が待っているのかと意識しつつ、
玄関口でチャイムを押した。
「こんにちは、大原という者ですが」
「柚子芽小学校の先生ですか、どうぞ」
エプロンを着たお手伝いの人に迎えられて中に入る。
英語しか話せなかったらどうしようかと迷ったが
そうでもないようで難を逃れた。
元はといえば、子が日本語を話せるから余計な事。
家の仕様を見るに、やはりお金持ち系統の家。
動物の顔面装飾品などに、ついキョロキョロしてしまう。
居間と思わしき場所に導かれると主人と思われる
父親がいた。
「突然お邪魔してすみません。
ちょっとリオン君の様子を伺いに来まして」
「こちらにどうぞ」
椅子に座るよう指示される。
父と思わしき人に落ち着いた雰囲気で迎えられた。
ついでに敷かれているクッションを触ってチェック、
異常はない。
これといって霊魂の類はみられなかった。
あんまり妙な仕草をすると怪しまれるので、早々と座る。
あくまで学校や自宅とは違うから
緊張の線を感じざるをえず。
コーヒー風味の飲み物を差し出されて遠慮できずに飲む。
そして、リオンの様子について聞いてみた。
「息子のリオンがご迷惑をおかけしています。
あの子は多動性で何度注意しても聞かず、
ふらっとどこかへ行ってしまう性格で」
「とても元気なお子さんですが、
近日の動向に不安を覚えました。
少々お休みがみられるのでどうなされたのが
心配になりまして」
あの子が多動行為をする習慣は家族も理解しているようだ。
父親も言い聞かせているものの、
変わらず気ままにどこかへ行ってしまい、
行動ばかり起こしているという。
朝起きてからランドセルを抱えてすぐに出ていったり、
昼食をとった後からは夜近くまで人知れずにいなくなる。
時には学校へ行った振りをして噓をつく。
話からして同行は親でも知らない素振りにみえた。
「何度も問い詰めましたが、
どこで何をしているのか話しません。
問答無用とばかり勝手で困りまして」
「そうですか、お家庭の事情と思っていましたけど、
親御さんにも内緒で不登校するのも相当ですね。
リオン君のお友達から聞いたのですが、
何やら山に行ってると」
「山ですか? それは初耳です、初めて聞きました」
親もそんな所に行ってるなんて知らなかったらしい。
農家の類ではなかったようで、強制労働とは違うようだ。
流石に子どもを従事させるわけがなく、
義務教育からの逸脱ではない模様。
リオン独自で勝手に遊んでいた。
ご飯の時に帰ってくるものの、また再び外出してゆく。
よっぽど楽しいのか、学校をほっぽりだしてまで
そこで何をしているのかすら言わないという。
しかし、山のどこなのか。
近場に木なり草なりいくらでもあるけど、
そこでできる事など限られる。
もしや、秘密基地を作って時間を費やしているのか。
どのような理由であれ、自然との親しみも限度がある。
ルール無視で有り余る行動を起こすのが
男子の特徴でもあった。
庭に小さな花が複数咲いている所に視線を向ける。
大人同士の会話で満足に進められそうにない。
今、この場では何も分からずに邸を後にした。
数時間経って今日の夜。
夕食後は疲れを癒すいつもの団らん。
TVを観てる傍らで亜彗が今日起きた出来事を話した。
「そうそう、今日帰る途中で箕佐紀君に会ったよ!」
「気になる事でもあったの?」
「うん、あったって。仕事の人とスゴイものを見たみたい」
「そう? UFOでも見たのかな」
ここ近年、周辺の街では新装開店のアドバルーンなどが
よく見られている。たまに千切れて飛ばされたり
どうせいつもの見当違いと続きを聞いていると。
「近くの山でなにか変なモノを見たって。
あの人だけじゃなく、他の人も見た」
「ふーん」
箕佐紀以外にも目撃者がいるようだ。
仮に何かあったとしても、リオンと関係があるとは限らず。
特に問題なしと思いながら、2人は共に寝る準備を始めた。
と、思いきや体内のある道管にもよおしがやってくる。
(ま、またか・・・)
さっきからずいぶんとトイレに行きたくなる。
どっちかというと、大より小。
なんだか今日は植物ではない方の道管の消化が
はやいようだ。
3月の時みたいな窮地に追いやられるよりはマシだが、
気にせずさっさと足して2人は布団を敷いて寝た。
しかし、体調は下半身だけの問題に留まらなかった。
(ね、眠れない・・・)
さらに、睡眠も妨げられて頭に安静を許してくれない。
どう考えてもカフェインの効果。
原因は体内に摂取したものによってすぐさま特定される。
夕方にコーヒーを飲むのは得しないと改めて
思い知らされた。
翌日、強烈な眠気が目の先まで襲われる。
昨日は結局寝付けずに登校。
脳内が半分寝ている状態で勤務する羽目になった。
ぼやけた視界で教壇に立ちながら出席をとろうとすると。
(ん、来ているな)
リオンは登校しにきた。
幻覚じゃない、本人の姿だ。
理由は今ここで聞くわけにはいかないので、
いつものように休み時間でじっくりと聞こうと待った。
「うーん、聞いてやる、聞いてやるぞぉ!」
という流れで数時間後、早速リオンの所へ行こうとした時、
那由多に今日の授業内容に不満を突かれた。
「先生、さっきの算数だけど、大雑把すぎます!」
「え、そう?」
「かけ算よりわり算を先に計算する事を
教えた方が良いですよ。
文字式を習わせる時に混乱しやすくなりますし。
塾の方が分かりやすいです、もう少し工夫して下さい!」
「わ、分かった」
クラスの優等生に不満を指摘される。
眠気交じりで教えるのも良くないが、
カフェインを摂るタイミングを誤ったのも過失だ。
だからといって、外国文化を断れず。
気休めに、ふと花壇の方へ目を向けると。
「・・・・・・」
「ん?」
ひょっこりと顔の上部を出すリオン。
こちらに気付くと分かると、すぐに引っ込めて離れてゆく。
せっかく聞こうと思っても、子どもの動きは視界に
収まらないくらい速く追いつける気力がもてなかった。
校内で花の力を児童に奮いかざすのは
校長から禁止されている。
まだ話すチャンスはあると、
次の休み時間に接近しようとした時だ。
「えっ、早退!?」
リオンはもう下校し、帰ってしまったという。
担任の自分に何も伝えずに、もてあそばれているかの様に
風の身のこなしで離れていってしまった。
結局、今日は実情の1つも聞けずに徒労。
近日の行いをしている理由は分からなかった。
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