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外伝 第2話 ビ・エンドの記録
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古来より、人は結晶に価値を見出し続けていた。
象徴、立場の付加、建築物とは異なる小さき塊でも
美しさを追求する気持ちはいつまでも消える事はない。
私にとっても、同じく光沢を放つ直接的な要素もあるが、
時を経ても不変という固体が何より惹きつけてやまない。
何故ならば生物はいずれ朽ちてゆく。
鉱石はいつまでも凝結を保ち、在り続けるから
人は永遠の美とばかり求め続けている。
自らと異なる質なのに金銭的価値と知れば安易に受け入れ、
ACとよばれる存在に宿るなど思いもよらず。
だが、私は違う。
画一的主観のみで価値を決定付けるなど甚だしい。
確かに今までは隣人と変わらぬ気持ちをもっていたが、
塊が身近にあるだけでは成立できない交えないもの。
ある人物との出会いが自分の価値観を大きく変えていった。
私の生まれはスペイン。
ヨーロッパ西部に位置するそこは由緒ある情熱の国で
隣接する国から関係をもっている。
貿易国として遠い海を隔てた場所も資源流通を
欠かさずに歴史を明け暮れる流線型。
そして、ACとの接点も非常に多い国だ。
紀元はメソポタミア、ウルの王と掘り下げても深く、
有権者達に仕えて世界の裏側で暗躍し続ける。
支配への悪魔放出、属性煌めきの誘惑。
利用は多様、表面的にはろくなイメージをもたず。
そこは魔術に精通する組織で、自分も青年期に加入した。
両親の顔など一度も見た事はない。
物心がついた頃には関与する孤児院にいた。
組織は親無し場から性質や才能をもちそうな子どもを
各地から集めていたようだ。
当然、立場など選べる身分はどこにもなく、
はぐれ人民たる集まりであたかも始めから決められた
運命の如く無意味に結晶へ寄せられていった。
ある日、幹部の1人から宝石店の惨状に頭を抱えていると
言われた。
ホールマーク制度の調整が期待値にまでとどかず、
他国に買い漁られていったようだ。
当時は目の攪乱でACと共に混ぜてしまい、
通常と刻印の区別もできずに流れてしまった。
話によると、主に日本が多く買い占めていったという。
貿易としてもそこと多く接してきた私達の国も、
日本は魅力ある所ではある。
動詞を二度も使う言い方をしてしまったが、
それだけ見所をもつ国である。
ただ、品質を見定めるセンスはないようで、
高度経済成長期に世界中から物資を買いあさり、
我が物顔で塊を収束させてゆく。
買い物に善悪などないが、ろくに精査せずに物資を
集めればどうなるのか理解しきれているだろうか。
結晶の内部に古代文字が書き込まれているのも知らずに。
ある日、組織内で大きな発見をもたらす。
その名はサンセットファイアオパールとよばれるACで
古代メキシコ時代に入手したという。
価値に気付いたのは1990年頃。
結晶内の刻印が近代科学の発達で解明され始め、
X線を取り入れて検査した結果、
時空に干渉できる性質の可能性を発見。
存在自体も相当希少な物で、ダイアモンドと同等か
以上の能力を秘めているらしい。
組織の長は世界征服の可能性も十分あり得ると言い、
適性への段取りを始めようとした。
しかし、幹部の1人が手違いで逃してしまったらしい。
日本で開催されているミネラルショー主催者によって
莫大な金額に目がくらみ売買。
15848ユーロもするACは瞬く間に東洋へ
流れてしまったようだ。
さらに晃京とよばれるエリアの地下にも貴重品が
多く埋まっている箇所もあるらしく、侵攻してでも
奪取してこいと命令された。
反対の意見もあったが、当時の幹部に逆らえる者はなく
強硬派がまだ多くいる所だ。
一度手に入れれば世界掌握も容易いだろう。
ヨーロッパも時代を経て隣国と併合し、組織の立場も
次第に弱小化してゆく。物欲まみれに満たされた
彼らに背中を押されて日本奇襲作戦は決行された。
しかし、全てが海から押し入っても成功できない。
事前に陸地から内通する役目も必要だ。
一番の目標でもあるサンセットファイアオパールも
近隣で売買された形跡も残っている。
選ばれたのは言うまでもなく私で、
日本語が話せる取り柄も乗じて向かう事になる。
潜入部隊としてまだこちらは安全性が高いものの、
内心では成功する見込みは十分あると思えなかった。
1992年、組織総出の日本侵攻を開始。
実働部隊をよそに私は数人と先に現地入り。
買い取りした神来杜という名の家に押し入り、
該当物を略奪した。
意外にも反応は一軒家で、住宅事情と変わらぬ場所。
ドアもまるごと破壊して押し入り。
絵の具セットらしき物が散乱していたガラス冊子の
中に目標が置かれてあっさりと手に入れる。
赤子が寝室にいて排除も考慮したが止める。
自国に帰還し、任務を達成した。
だが、縦浜部隊はほとんど壊滅したとの事。
いや、まるごと消滅したようで無線連絡も誰1人
返ってきた者はいなかったという。
やはり、日本もそれなりの対策を施していたのか、
アメリカに負けた極東の執念に返り討ちも受ける。
背筋が凍ったが、組織は元から死と隣り合わせだ。
結晶は濃くも薄くも様々。
目標物を抱えて主へ手渡すまで視界を確保し通す。
しかし、判定は偽物。
AC内部の刻印はスペイン語で書きこまれたものだが、
まるで子どもが書き入れた様にデタラメなもので、
組織内を混乱に陥れた。
サンセットファイアオパール自体も作り物ではないかと
誤った入手経路を見直すのに時間を費やし。
幹部達も会議を何度も通し、途方に明け暮れる。
本当に日本へ持ち込まれていたのか、
組織内で話し合いが入念に行われた。
容疑に何年も時間を費やした見当の中、
流通ルートを見直して結局答えは変わらず。
本部は本物がまだ日本にあると答えを出し、
再調査を余儀なくされた組織は再び私を指名して
晃京を訪れる事になった。
ただし、今回はもう武力行使で入れない。
1992年より自衛隊の海域偵察は強硬となり、
こちらも戦力を大きく削がれてしまったので、
潜入捜査官として行かなければならず。
よって、一ビジネスマンとして入国した。
2000年、再び日本へ入国。
まずは大使館を通して宝石業者に成りすまし、
以前とはまったく変わり気取られる事なく回れた。
調査でも高額で入手した都道府県は晃京のみで、
他地方に流れた形跡がないとすでに特定している。
見当人を考えれば金持ち、財閥企業を手繰れば
すぐに見つかると思っていた。
だが、どの線から辿ってもあの神来杜家くらいしか
履歴が載っておらずに、入手経路はどこも分断。
当時、私は確かに目標物を手にしたはずだ。
X線は刻印に反応してACと判定。
あの橙色の塊は確かに示しを与えて他の違いを見せた。
今度から組織は成果上げずに帰国を許していない。
堂々巡りができようと、返ってゴールが失う。
夜、2:00に神来杜家の前で再確認しに行っても
何も反応がない。明らかに無いはずの物を求めて、
気付けば特別に濃縮するミネラルしか頭に入れられず。
姿なき塊を求めて異国を彷徨い続けていった。
1人の男と出会いが私の運命を分けた。
正倉院蓮、後のオリハルコンオーダーズのリーダー。
毎年晃京ドームで開催するミネラルショーで巡り合う。
宝石商を続けていた最中で偶然彼と出会い、
特別な事情があるのか声をかけてみた。
最初はサンセットファイアオパールの購入者という
認識しかしておらず、1人でダイアモンドをぼうっと
眺めていた様子が目に留まった。
調べで、あの神来杜家の者だと発覚。
後の話でスキャンダルから逃れるために苗字を変えて
防衛省に務めていたという。
本人もACとあまり接していない風な素振りで、
私が強奪した対象者としかみなしていなかった。
現物は確かに私がこの手でつかみ取り、
持ち帰ったから見紛うはずもなかった。
だが、結局は偽物で余儀なく再調査。
もしかしたら偽物をつかまされた可能性もと、
もう一度コンタクトを試みて簡単に接触する事に成功。
家に押し入った事は気付かれていない。
あの男の赤ん坊も成長して娘と共に同居しているようだ。
以前から疑問に浮かんでいたが、家柄からして
これといった結晶と縁がある風には見えない。
母親はすでに死去をして3人だけなのが分かった。
今後も何とかして接触する機会を得なければならない。
ただの宝石関連では警戒されるかもしれないから、
薬用効果のある結晶配合案を提出。
理解を示してくれたようで懐に潜り込めた。
以来、防衛省装備庁を通して付き合いを続けていく内に、
思い切ってACの話を打ち明ける。
結晶に秘めた話を個人追求者として語った。
彼は受け入れてくれた。
結晶の在り方に悩み、過去の出来事も色々抱えて
もう一度、例の橙結晶についてうかがおうとすると、
ここで大きな転機を耳にする事となる。
彼、ボスはダイアモンドの性質を秘める者だと発覚。
なんと、彼は世界最高峰の硬度をもつ者で、
力の現象を直に見せてもらった。
何かを決起したようで自身の中から呼びかけられ、
発現したACがそれだったとの事。
家柄、血筋、そういった血統の類もなく生じた白き
風貌を取り込まれずに肉体の表面を自由に巡らせる。
組織の話、モース硬度が高い程扱いも難しく
8~10の位は相当な精神力や体内の血液との適性が
合わなければまともにコントロールできず。
世界でも1割いるかどうかの数らしい。
そこへ前触れもなく目前にいたのが彼だった。
言葉を失う。
あまりに突然の出来事で光景が呑み込めず。
数億分の一で誕生すると云われる伝説級の適性者が
人知られずにここにいたとは。
日本特有でも、地域限定性質でもない。
橙色の結晶を手に入れていた理由がこれで、
あたかも引き寄せられた運命だったのだろう。
小耳に挟んだ話であるが、極東にも適性者が流れた
経歴があってほんの小さな血筋が残っていた線も
あったという。しかし、遺伝子と結晶との接点は
見つからず、エドワードすら根拠をつかんでいない。
防衛大臣、元は自衛隊員を務めていたのも偶然で
確かに意識が高そうな雰囲気は感じていた。
そんな者が直にここにいる。
この事実を知った時、マグマに揺られて噴き出す如く
私の命運もここで大きく変わってゆく。
あれから度々訪れるようになった。
私も目標を見つける仕事は続けているものの、
相変わらず発見できないまま時だけが過ぎてゆく。
サンセットファイアオパールの件についても
彼は盗難されたとしか言わず。
もちろん強奪した当人がここにいるから、
状況など聞かずとも分かる。
組織と度々連絡しても経路は一点張りの連続。
入国以来、数十億の宝石売買はどこにも催しておらず、
安物の取引ばかりで大盤振る舞いだった好景気時代と
比べてろくな物がなかった。
やはり目標物はここにないのかと諦めの念が出始める。
やり場のない役目に元から気薄だった私の理念は、
いつの間にか彼の側に意識を向けていた。
ダイアモンドの性質で悪魔の影響はないかと聞く。
ボスは言った。
「ACの本質は内部の悪魔に魅入られるのではなく、
大いなる意思をもって反して魅せる」
当時、意味は不明だったが、悪魔の送る性質に頼らず
自身の気持ちを見せつけるものか。
大した身体能力も無しにこちらから送る理屈がなかった。
現物主義の私の国からすれば通常妄語で済まされるだけ。
ならば、大いなる何かを具現化してほしいと言ってしまう。
その時だ。
見る見るうちに半身が白金の輝きを見せ、
男性の筋肉をさらに上塗りする様な光岳。
いや、結晶と同化させた御体はまさに美。
穢れなき純白のボディは彫刻像のそれとばかり
人間美術の真骨頂を刮目する。
私は今まで誤解していたのかもしれない。
どれだけ無数の結晶を散りばめようとも、
欲に任せて頬張る様に手中に納めようとも、
1つの強硬な意思の石には及ばない。
成し遂げたいという気持ち、守りたいという気持ちが
体内の金属に強く影響を与えているのか。
防衛大臣だからこの性質が宿るとは限らず。
もっと大きな信念、何かがそうさせているだろう。
言葉では言い表せにくいが、魅惑の逆へ向かう
人側で培う塊の様な反意を含めたものなのだろう。
私の中で美しさの定義が揺らぐ。
人目線で外界の塊を意識していたばかりに、
自分側の塊まではほとんど考慮の一部も加えなかった。
この国で云う自己研鑽、己自身で
美を如何に形成するかが肝要だというのだ。
それに比べれば、ヨーロッパ連中の不甲斐なさときたら
ただ宝石を集めて悪魔で玩んでの繰り返し。
昔からそうだが、利用目的が何かの個しか観てなく
強すぎる実存主義で画一的な感性しかもてないのだろう。
人口の多い国はどこでもそうだ。
過多は塊ゆえに存在価値を強く優遇する傾向をもつ。
金銭だの綺麗さだの大きさだのそのままな感覚認識。
日本は波を視るか、間を識るか実に滑らか、
古くから侘び寂びという言葉があり、大掛かりで壮大な
ものでなくても風流的な表現が垣間見える時がある。
美とは色でも模様でもない、それらと周囲にある空間と
合わさって違和感なく備えているかどうか。
母国では主張の強さで決められていた感性がいかに
強引でミスマッチさが出ているか思い知る。
ミニマリズムに長けた国とは聞いていたが、
ただの自己主張の弱さではなく控えめな表示から始まる
夜空の星の輝きや虫の音色の様なもの。
今まで生きていた場所が、世界との差と違和感が
押し寄せて母国への気持ちが薄れてゆく。
私の居場所は? 役目は? 未来は? 存在理由は?
彼らへの移籍。
気が付けばいつしかそう考えるようになっていた。
人の気も時代が進めば変わってゆく。
オリハルコンオーダーズと名乗るこの組織は
防衛省の裏で暗躍を続けていた。
そして、私もここに身を寄せて世界の変わり様を
楽しみにしつつ加入。
ここの者達が全て支配下というわけでもなく、
ボスにとってやはりAC適性のみで人員を選出している。
ただ、ならず者だけは今後の時代より不要との事で、
夜間に紛れて排除して晃京一帯の人員を洗って
世界との出直しを図るという。
そして、今いるメンバーもある意味で特徴的。
立場や年齢差も広めで実に多様。
彼も闇雲に増やそうとする気がないようで、
慎重に検討する姿勢は良いといえば良い。
エドワードもヨーロッパからの移住者で、
1992年の縦浜抗争でボスと知り合ったようだ。
私の事は気付かれていない。
知られようものなら即身を砕かれてしまう。
確かに当時は向こうのために動いていたが、
旧組織との接触もそこそこに終えようとする。
定時連絡として向こうから様子を聞かれるが、
まともに受け答えしていない。しびれを切らして
刺客を送り込んでくるだろうが、
我々の力を前に太刀打ちできるはずがない。
EU発足で形骸化した連中も何もできないはず。
いつまでも続く組織、国などやはり存在できないのか。
自身も、もうここに身を置く決意があるから
忘却の彼方に流してゆく。
時代も少しずつ時の摩擦でかすめ取られつつ進む。
わずかながらもACの仕組みが徐々に解明されつつある。
レントゲンの様な技術でどのような性質に相応しいか
ある程度判別できるという。
細胞基質が金属の種類、分子構造のどれと合うか
適性検査も可能らしい。
彼が医者だから判明しただけでなく、科学発展も
拍車をかけて様々な要素が明らかになっていた。
悪魔という名称はあまり正確といえず。
結晶の幾何学作用より空間を超越し、力を貸してくれる。
ACを握ると“相応しい”と認めてもらい、
身体よりエネルギーや結晶体が生じる。
私は悪魔の扱いはあまり好みではない。
ヨーロッパの幹部達の拷問をむざむざと観てきて、
監視の辛さを味わってきた。
そんな過去の仕打ちを観ても、異界顔負けな悪魔頼りに
物を云わせたくない性分。
指示を受ければやらざるを得ないが、
本心としては体術で対抗する方が性に合っている。
そんな自分でも幸い結晶の適性があったようで、
私も肉体を精査してもらうと、
アメジストの適性をもっていると判定された。
宝石界では割と有名な結晶で“酔わせない”という
由来をもつ紫色の物と馴染んでいたようだ。
これぞ転機。
紫を身体に取り入れる憧れと正倉院に忠誠を誓う
場を与えられるとは夢にも思わなかった。
実に素晴らしい。
腕、脚、胴も頭も全てが包まれ、
紫の光陰が曲線美に拍車をかけている。
ボスとは異なり、剛ではなく柔で立ち向かう。
酔うのは私だけで良い。
薄紫の肉体美を惜しまず披露する時を迎えそうだ。
そして、時を経て時代は2011年。
私達は計画を実行に移す。
ボスは一度都庁を占拠して誰も立ち入りできない
領域を築き、金環日食の刻を待つ。
ただ、私達はまだ入ってはならないと言う。
あらゆる方向から監視され、すぐに身元が知られて
人脈を辿られるのでまだ介入不可。
それに5月21日に息子と再会する機会も
奪われてしまうので当日のみ現地入りする。
その間はポリカーボネートの補正とAC生成で
ダイアモンドサポートをする作戦に打つ。
刻の停止という計画は真の平和として
世界の結晶化へ君臨させる。
とても想像できる余地もないこの構築は
どう変わってゆくのか。
興味、興奮、興業とでも言うべきか地球より新たなる
異世界が到来するだろう。
ただ、その前に準備する事がある。
息子の覚醒がまだ不十分で、いくつかのACを手にさせ
ダイアモンドの適性を向上させる必要があるらしい。
例の赤子はすっかりと成長してボスの対を果たすまでに
体内で黒を成熟させていた。
もう1人のダイアモンド適性者、神来杜聖夜。
ボスと対を成すブラックダイアモンドの性質を
心臓に宿すという対を成す息子がいた。
あのベッドで寝ていた赤子がまさか重要素体だとは意外だ。
現在は昴峰学園に通っているようで、
エドワードが誤って学園に何かを送ってしまったらしく、
私が調査する事になった。
そして、わざと服を汚して現地に侵入し、
ホームレスの振りをして彼の様子をうかがいにいった。
疲れた演技もして一時だけ相手をする。
銀色の髪、私と同じ肌色をした息子がもう1つの
ダイアモンドの所有者。
外見とは対照的に白い髪、白人の肌をもつ。
あの時部屋で寝ていた子が最重要な役目をもつなど
当時は予想も微塵もなかった。
顔はおそらく母親似だろう。
本人はまだ自身の性質には気付いていないようで、
来たる日の覚醒まで様子見との事。
あの縦浜で起きた黒いヒルの群れも対消滅の理由で
息子に移植せざるをえなかったらしい。
ボスすら恐れる闇の力をもつ相手に、
手を出さなかった自分を称えたくなる。
ダイアモンド、ブラックダイアモンドの存在は
極地における結晶で誕生理由は未だに分かっていない。
白と黒の均衡は世界の狭間より宇宙の何たるかに
影響をもたらすという。やはり想像もつかないが。
拡散したACの回収と同時に気取られないよう
監視を続けてゆく。
都庁に張り巡らせたアブソルートを囮に、
周囲で結晶の再結成を行い続けてきた。
息子もACの存在に気が付き、警察機関の下で
回収作業に着手し始めたようだ。
本来なら直に与えるつもりだったが、自衛隊の手違いで
ケース内のACが都心部より拡散。
計画を迂回し直して変える必要がでてしまう。
なけなしの端材よりエドワードも独自に実験を施し、
失敗を繰り返しつつ来たる日に備える。
アメジストを生成して私がやると申し出するも、
すでにボスが防衛省に在籍する部下へ預けたようだ。
実はオリハルコンオーダーズに肩入れする信仰者がいて、
私のように同等の適性をもっていたらしく、
参加させようと会議終了後にすぐ戻る予定だった。
しかし、ここに持ち帰る前に女議員に捉まり、
手荷物検査と言いたげに身辺チェックされかけた。
1人の部下に袋を託したが、今度はひったくられたと言う。
調査の末、何故か女高校生が所持していたようで、
仕方なく私が奪還しに向かう。
当日は首都高速道路で暴れ回る輩の排除と、
ジネヴラと共にヒョウ型とコウモリ型を召喚して掃除。
報告では国から封鎖を一時解除するよう命令され、
高速道路から先に開ける段取りを施した。
バリケードについてはエドワードのポリカーボネートで
アブソルート制御しているから撤去ができずに、
政府から理由を説得させるにも一苦労したらしい。
私の紫は華麗に気付かれずに現地をくぐり抜ける。
闇夜に溶け込む方がどちらかと性に合っているので、
こういった仕事は以前より簡単なお手のもの。
アメジストを持ち出した女をスローダガーで狙撃し、回収。
追って始末するつもりだったが、
自衛隊も近くにいるので目立った動きをする余裕がなく、
予想外にもボスの息子がいて安易に手出しができなかった。
暗渠周辺のクリアリングはこのために10分遅らせて
もらったはずが、陸将補が早めて迂闊に近寄れない。
目標は回収したが、1つだけ足らない。
奇襲の最中でこの辺りに散乱したのは間違いないはずが、
どうしても見つけられなかった。
完璧な仕事をこなせずに帰還したのが心残りだ。
どうにか許してもらったが、ヘマが許されないのは
どこも同じで結晶の反映も楽ではない。
暗い闇の中では誰が潜んでいるのかなど
どんな適性者でも分かるはずもないだろう。
ボスの仰った武士道精神。
私の国の騎士道精神と似通った共通点より
ACを通じて異国文化を吸収していた。
もうすっかりとこの国に馴染んでしまったのは、
結晶と同化したのと似たようなもの。
箸の使い方、字、家の中は靴を脱ぐ。
色々と学んだつもりでも、文化は交ざりきれないと実感。
何が自分に合い、何が自分から必要とされないのか
東洋の気という波長の巡り合わせがそうさせるのだろう。
ACという共通した要素も、海外と混ざれば時に
歪で異形な存在も誕生するものだと実感。
比喩が混ざりすぎて言葉でどう表せば良いかすら迷う。
それはともかくとして計画を実行する日も近づいている。
世界の変革は新たな文化としてまた気色が垣間見える。
全身に宿るアメジストもどことなく疼いてくる。
私の本任務を発揮する機会が訪れる。
都庁付近のビル屋上からアブソルートを眺める。
古より伝わるACにより生み出された不壊なる結晶。
ボスのダイアモンドとジネヴラのシンナバーによって
生成された強硬な逸物。私も実物を観るのは初めてで、
古くから世界各地で発生させてきた。
破壊できる方法はダイアモンド系統者のみ。
ボスのようなとてつもない素質をもつ者は、
数百年の中で時折誕生すると言い伝えられている。
色は定まらず、角度で変化する七色の光は私にとって
何かを訴えている様な気もした。
確証を得ているわけでもないが、女の縄張り意識と似た
干渉するな、干渉するなといった拒絶反応の感じが
どことなく目より通してくる。
しかも、1人のみでなく無数にいるような気配もあり、
凝視するほど背筋が凍る気もする。
物理的には安易に裂ける肉体も、結晶と融合すれば
どこまでも硬く、文字通りの不可侵域を築けるのか。
ジネヴラも似た様な事を言っていた。
「女は身体は弱くても心身は男よりも強く、
1つの要素の助けがあればどこまでも永遠に
金属だろうと壁だろうと生み出し続ける」と。
シンナバーには女性の体液を用いている説もあるらしく、
過去において歴史でも侵略の連続から、
こういった執念で作られた産物なのだろう。
女は苦手だが、引け目から生み出す得体の知れない
可能性は侮るわけにはいかない。
ここまでくれば、男女の境すら及ばない領域なのか。
ボスの計画もいよいよ間近に迫っている。
刻の停止、適性者選抜を大きく実行に移す時がきた。
金環日食の到来でダイアモンド効力を最大にまで
高めて時間すら制御して一から正す。
私もそこからどうなるのか予測がつかない、
ただ、ACとさらなる美への出会いを求めるだけだ。
道中で奇妙な装甲を見かけた。
時は深夜、晃京内で人の姿をしたロボットが
人気のないエリアを行き来していた。
形状からして自衛隊の規格と疑うものの、
ボスも覚えがないというカラクリ兵という物は
外で製造された可能性がある。
民間企業の線も想定したが、ACの性質も熟知して
いないはずで易々と造れるわけがない。
どさくさ紛れの外国侵入者の線も浮かぶが、
エドワードは否定。接近戦主体と思わしき外装など
銃を重んじる海外で採用するはずがないと。
関係者で軍事かつ日本風習に気を入れている者が
関わっている線で、ボスが科学警察研究所にそのような
女主任がいると疑ったが証拠が見つからない。
子息の剣のみ製造していて義足の一片もそこになかった。
意外な伏兵も現れていずれ必ず我々にも弊害が及ぶ。
危険対象として新たに対処する事にした。
オリハルコンオーダーズで直に相手できるのは?
若造の白峰とジネヴラ、老体のエドワードと無影では
心許ない。
当然、ボス自身を盾に出すわけにもいかず。
よって、私の相手は彼に決まる。
思えば、数奇な出来事ばかり送ってきたような気がする。
世界のどこでも、結晶は人と着かず離れずにすぐそばに
在りながら円舞曲を謳歌してきた。
どこまで塊に成りきれるだろうか。
ようやく、使命らしい仕事が訪れてきた。
戦うのは自分だけだが、違和感など生じない。
個人的な和に内在する美と競いたくなる。
ここまで生きながらえてきたのだ。
日本色に染まろうと、己にまで染まった覚えなどない。
20年前の本当の決着をそこで付けるつもりだ。
象徴、立場の付加、建築物とは異なる小さき塊でも
美しさを追求する気持ちはいつまでも消える事はない。
私にとっても、同じく光沢を放つ直接的な要素もあるが、
時を経ても不変という固体が何より惹きつけてやまない。
何故ならば生物はいずれ朽ちてゆく。
鉱石はいつまでも凝結を保ち、在り続けるから
人は永遠の美とばかり求め続けている。
自らと異なる質なのに金銭的価値と知れば安易に受け入れ、
ACとよばれる存在に宿るなど思いもよらず。
だが、私は違う。
画一的主観のみで価値を決定付けるなど甚だしい。
確かに今までは隣人と変わらぬ気持ちをもっていたが、
塊が身近にあるだけでは成立できない交えないもの。
ある人物との出会いが自分の価値観を大きく変えていった。
私の生まれはスペイン。
ヨーロッパ西部に位置するそこは由緒ある情熱の国で
隣接する国から関係をもっている。
貿易国として遠い海を隔てた場所も資源流通を
欠かさずに歴史を明け暮れる流線型。
そして、ACとの接点も非常に多い国だ。
紀元はメソポタミア、ウルの王と掘り下げても深く、
有権者達に仕えて世界の裏側で暗躍し続ける。
支配への悪魔放出、属性煌めきの誘惑。
利用は多様、表面的にはろくなイメージをもたず。
そこは魔術に精通する組織で、自分も青年期に加入した。
両親の顔など一度も見た事はない。
物心がついた頃には関与する孤児院にいた。
組織は親無し場から性質や才能をもちそうな子どもを
各地から集めていたようだ。
当然、立場など選べる身分はどこにもなく、
はぐれ人民たる集まりであたかも始めから決められた
運命の如く無意味に結晶へ寄せられていった。
ある日、幹部の1人から宝石店の惨状に頭を抱えていると
言われた。
ホールマーク制度の調整が期待値にまでとどかず、
他国に買い漁られていったようだ。
当時は目の攪乱でACと共に混ぜてしまい、
通常と刻印の区別もできずに流れてしまった。
話によると、主に日本が多く買い占めていったという。
貿易としてもそこと多く接してきた私達の国も、
日本は魅力ある所ではある。
動詞を二度も使う言い方をしてしまったが、
それだけ見所をもつ国である。
ただ、品質を見定めるセンスはないようで、
高度経済成長期に世界中から物資を買いあさり、
我が物顔で塊を収束させてゆく。
買い物に善悪などないが、ろくに精査せずに物資を
集めればどうなるのか理解しきれているだろうか。
結晶の内部に古代文字が書き込まれているのも知らずに。
ある日、組織内で大きな発見をもたらす。
その名はサンセットファイアオパールとよばれるACで
古代メキシコ時代に入手したという。
価値に気付いたのは1990年頃。
結晶内の刻印が近代科学の発達で解明され始め、
X線を取り入れて検査した結果、
時空に干渉できる性質の可能性を発見。
存在自体も相当希少な物で、ダイアモンドと同等か
以上の能力を秘めているらしい。
組織の長は世界征服の可能性も十分あり得ると言い、
適性への段取りを始めようとした。
しかし、幹部の1人が手違いで逃してしまったらしい。
日本で開催されているミネラルショー主催者によって
莫大な金額に目がくらみ売買。
15848ユーロもするACは瞬く間に東洋へ
流れてしまったようだ。
さらに晃京とよばれるエリアの地下にも貴重品が
多く埋まっている箇所もあるらしく、侵攻してでも
奪取してこいと命令された。
反対の意見もあったが、当時の幹部に逆らえる者はなく
強硬派がまだ多くいる所だ。
一度手に入れれば世界掌握も容易いだろう。
ヨーロッパも時代を経て隣国と併合し、組織の立場も
次第に弱小化してゆく。物欲まみれに満たされた
彼らに背中を押されて日本奇襲作戦は決行された。
しかし、全てが海から押し入っても成功できない。
事前に陸地から内通する役目も必要だ。
一番の目標でもあるサンセットファイアオパールも
近隣で売買された形跡も残っている。
選ばれたのは言うまでもなく私で、
日本語が話せる取り柄も乗じて向かう事になる。
潜入部隊としてまだこちらは安全性が高いものの、
内心では成功する見込みは十分あると思えなかった。
1992年、組織総出の日本侵攻を開始。
実働部隊をよそに私は数人と先に現地入り。
買い取りした神来杜という名の家に押し入り、
該当物を略奪した。
意外にも反応は一軒家で、住宅事情と変わらぬ場所。
ドアもまるごと破壊して押し入り。
絵の具セットらしき物が散乱していたガラス冊子の
中に目標が置かれてあっさりと手に入れる。
赤子が寝室にいて排除も考慮したが止める。
自国に帰還し、任務を達成した。
だが、縦浜部隊はほとんど壊滅したとの事。
いや、まるごと消滅したようで無線連絡も誰1人
返ってきた者はいなかったという。
やはり、日本もそれなりの対策を施していたのか、
アメリカに負けた極東の執念に返り討ちも受ける。
背筋が凍ったが、組織は元から死と隣り合わせだ。
結晶は濃くも薄くも様々。
目標物を抱えて主へ手渡すまで視界を確保し通す。
しかし、判定は偽物。
AC内部の刻印はスペイン語で書きこまれたものだが、
まるで子どもが書き入れた様にデタラメなもので、
組織内を混乱に陥れた。
サンセットファイアオパール自体も作り物ではないかと
誤った入手経路を見直すのに時間を費やし。
幹部達も会議を何度も通し、途方に明け暮れる。
本当に日本へ持ち込まれていたのか、
組織内で話し合いが入念に行われた。
容疑に何年も時間を費やした見当の中、
流通ルートを見直して結局答えは変わらず。
本部は本物がまだ日本にあると答えを出し、
再調査を余儀なくされた組織は再び私を指名して
晃京を訪れる事になった。
ただし、今回はもう武力行使で入れない。
1992年より自衛隊の海域偵察は強硬となり、
こちらも戦力を大きく削がれてしまったので、
潜入捜査官として行かなければならず。
よって、一ビジネスマンとして入国した。
2000年、再び日本へ入国。
まずは大使館を通して宝石業者に成りすまし、
以前とはまったく変わり気取られる事なく回れた。
調査でも高額で入手した都道府県は晃京のみで、
他地方に流れた形跡がないとすでに特定している。
見当人を考えれば金持ち、財閥企業を手繰れば
すぐに見つかると思っていた。
だが、どの線から辿ってもあの神来杜家くらいしか
履歴が載っておらずに、入手経路はどこも分断。
当時、私は確かに目標物を手にしたはずだ。
X線は刻印に反応してACと判定。
あの橙色の塊は確かに示しを与えて他の違いを見せた。
今度から組織は成果上げずに帰国を許していない。
堂々巡りができようと、返ってゴールが失う。
夜、2:00に神来杜家の前で再確認しに行っても
何も反応がない。明らかに無いはずの物を求めて、
気付けば特別に濃縮するミネラルしか頭に入れられず。
姿なき塊を求めて異国を彷徨い続けていった。
1人の男と出会いが私の運命を分けた。
正倉院蓮、後のオリハルコンオーダーズのリーダー。
毎年晃京ドームで開催するミネラルショーで巡り合う。
宝石商を続けていた最中で偶然彼と出会い、
特別な事情があるのか声をかけてみた。
最初はサンセットファイアオパールの購入者という
認識しかしておらず、1人でダイアモンドをぼうっと
眺めていた様子が目に留まった。
調べで、あの神来杜家の者だと発覚。
後の話でスキャンダルから逃れるために苗字を変えて
防衛省に務めていたという。
本人もACとあまり接していない風な素振りで、
私が強奪した対象者としかみなしていなかった。
現物は確かに私がこの手でつかみ取り、
持ち帰ったから見紛うはずもなかった。
だが、結局は偽物で余儀なく再調査。
もしかしたら偽物をつかまされた可能性もと、
もう一度コンタクトを試みて簡単に接触する事に成功。
家に押し入った事は気付かれていない。
あの男の赤ん坊も成長して娘と共に同居しているようだ。
以前から疑問に浮かんでいたが、家柄からして
これといった結晶と縁がある風には見えない。
母親はすでに死去をして3人だけなのが分かった。
今後も何とかして接触する機会を得なければならない。
ただの宝石関連では警戒されるかもしれないから、
薬用効果のある結晶配合案を提出。
理解を示してくれたようで懐に潜り込めた。
以来、防衛省装備庁を通して付き合いを続けていく内に、
思い切ってACの話を打ち明ける。
結晶に秘めた話を個人追求者として語った。
彼は受け入れてくれた。
結晶の在り方に悩み、過去の出来事も色々抱えて
もう一度、例の橙結晶についてうかがおうとすると、
ここで大きな転機を耳にする事となる。
彼、ボスはダイアモンドの性質を秘める者だと発覚。
なんと、彼は世界最高峰の硬度をもつ者で、
力の現象を直に見せてもらった。
何かを決起したようで自身の中から呼びかけられ、
発現したACがそれだったとの事。
家柄、血筋、そういった血統の類もなく生じた白き
風貌を取り込まれずに肉体の表面を自由に巡らせる。
組織の話、モース硬度が高い程扱いも難しく
8~10の位は相当な精神力や体内の血液との適性が
合わなければまともにコントロールできず。
世界でも1割いるかどうかの数らしい。
そこへ前触れもなく目前にいたのが彼だった。
言葉を失う。
あまりに突然の出来事で光景が呑み込めず。
数億分の一で誕生すると云われる伝説級の適性者が
人知られずにここにいたとは。
日本特有でも、地域限定性質でもない。
橙色の結晶を手に入れていた理由がこれで、
あたかも引き寄せられた運命だったのだろう。
小耳に挟んだ話であるが、極東にも適性者が流れた
経歴があってほんの小さな血筋が残っていた線も
あったという。しかし、遺伝子と結晶との接点は
見つからず、エドワードすら根拠をつかんでいない。
防衛大臣、元は自衛隊員を務めていたのも偶然で
確かに意識が高そうな雰囲気は感じていた。
そんな者が直にここにいる。
この事実を知った時、マグマに揺られて噴き出す如く
私の命運もここで大きく変わってゆく。
あれから度々訪れるようになった。
私も目標を見つける仕事は続けているものの、
相変わらず発見できないまま時だけが過ぎてゆく。
サンセットファイアオパールの件についても
彼は盗難されたとしか言わず。
もちろん強奪した当人がここにいるから、
状況など聞かずとも分かる。
組織と度々連絡しても経路は一点張りの連続。
入国以来、数十億の宝石売買はどこにも催しておらず、
安物の取引ばかりで大盤振る舞いだった好景気時代と
比べてろくな物がなかった。
やはり目標物はここにないのかと諦めの念が出始める。
やり場のない役目に元から気薄だった私の理念は、
いつの間にか彼の側に意識を向けていた。
ダイアモンドの性質で悪魔の影響はないかと聞く。
ボスは言った。
「ACの本質は内部の悪魔に魅入られるのではなく、
大いなる意思をもって反して魅せる」
当時、意味は不明だったが、悪魔の送る性質に頼らず
自身の気持ちを見せつけるものか。
大した身体能力も無しにこちらから送る理屈がなかった。
現物主義の私の国からすれば通常妄語で済まされるだけ。
ならば、大いなる何かを具現化してほしいと言ってしまう。
その時だ。
見る見るうちに半身が白金の輝きを見せ、
男性の筋肉をさらに上塗りする様な光岳。
いや、結晶と同化させた御体はまさに美。
穢れなき純白のボディは彫刻像のそれとばかり
人間美術の真骨頂を刮目する。
私は今まで誤解していたのかもしれない。
どれだけ無数の結晶を散りばめようとも、
欲に任せて頬張る様に手中に納めようとも、
1つの強硬な意思の石には及ばない。
成し遂げたいという気持ち、守りたいという気持ちが
体内の金属に強く影響を与えているのか。
防衛大臣だからこの性質が宿るとは限らず。
もっと大きな信念、何かがそうさせているだろう。
言葉では言い表せにくいが、魅惑の逆へ向かう
人側で培う塊の様な反意を含めたものなのだろう。
私の中で美しさの定義が揺らぐ。
人目線で外界の塊を意識していたばかりに、
自分側の塊まではほとんど考慮の一部も加えなかった。
この国で云う自己研鑽、己自身で
美を如何に形成するかが肝要だというのだ。
それに比べれば、ヨーロッパ連中の不甲斐なさときたら
ただ宝石を集めて悪魔で玩んでの繰り返し。
昔からそうだが、利用目的が何かの個しか観てなく
強すぎる実存主義で画一的な感性しかもてないのだろう。
人口の多い国はどこでもそうだ。
過多は塊ゆえに存在価値を強く優遇する傾向をもつ。
金銭だの綺麗さだの大きさだのそのままな感覚認識。
日本は波を視るか、間を識るか実に滑らか、
古くから侘び寂びという言葉があり、大掛かりで壮大な
ものでなくても風流的な表現が垣間見える時がある。
美とは色でも模様でもない、それらと周囲にある空間と
合わさって違和感なく備えているかどうか。
母国では主張の強さで決められていた感性がいかに
強引でミスマッチさが出ているか思い知る。
ミニマリズムに長けた国とは聞いていたが、
ただの自己主張の弱さではなく控えめな表示から始まる
夜空の星の輝きや虫の音色の様なもの。
今まで生きていた場所が、世界との差と違和感が
押し寄せて母国への気持ちが薄れてゆく。
私の居場所は? 役目は? 未来は? 存在理由は?
彼らへの移籍。
気が付けばいつしかそう考えるようになっていた。
人の気も時代が進めば変わってゆく。
オリハルコンオーダーズと名乗るこの組織は
防衛省の裏で暗躍を続けていた。
そして、私もここに身を寄せて世界の変わり様を
楽しみにしつつ加入。
ここの者達が全て支配下というわけでもなく、
ボスにとってやはりAC適性のみで人員を選出している。
ただ、ならず者だけは今後の時代より不要との事で、
夜間に紛れて排除して晃京一帯の人員を洗って
世界との出直しを図るという。
そして、今いるメンバーもある意味で特徴的。
立場や年齢差も広めで実に多様。
彼も闇雲に増やそうとする気がないようで、
慎重に検討する姿勢は良いといえば良い。
エドワードもヨーロッパからの移住者で、
1992年の縦浜抗争でボスと知り合ったようだ。
私の事は気付かれていない。
知られようものなら即身を砕かれてしまう。
確かに当時は向こうのために動いていたが、
旧組織との接触もそこそこに終えようとする。
定時連絡として向こうから様子を聞かれるが、
まともに受け答えしていない。しびれを切らして
刺客を送り込んでくるだろうが、
我々の力を前に太刀打ちできるはずがない。
EU発足で形骸化した連中も何もできないはず。
いつまでも続く組織、国などやはり存在できないのか。
自身も、もうここに身を置く決意があるから
忘却の彼方に流してゆく。
時代も少しずつ時の摩擦でかすめ取られつつ進む。
わずかながらもACの仕組みが徐々に解明されつつある。
レントゲンの様な技術でどのような性質に相応しいか
ある程度判別できるという。
細胞基質が金属の種類、分子構造のどれと合うか
適性検査も可能らしい。
彼が医者だから判明しただけでなく、科学発展も
拍車をかけて様々な要素が明らかになっていた。
悪魔という名称はあまり正確といえず。
結晶の幾何学作用より空間を超越し、力を貸してくれる。
ACを握ると“相応しい”と認めてもらい、
身体よりエネルギーや結晶体が生じる。
私は悪魔の扱いはあまり好みではない。
ヨーロッパの幹部達の拷問をむざむざと観てきて、
監視の辛さを味わってきた。
そんな過去の仕打ちを観ても、異界顔負けな悪魔頼りに
物を云わせたくない性分。
指示を受ければやらざるを得ないが、
本心としては体術で対抗する方が性に合っている。
そんな自分でも幸い結晶の適性があったようで、
私も肉体を精査してもらうと、
アメジストの適性をもっていると判定された。
宝石界では割と有名な結晶で“酔わせない”という
由来をもつ紫色の物と馴染んでいたようだ。
これぞ転機。
紫を身体に取り入れる憧れと正倉院に忠誠を誓う
場を与えられるとは夢にも思わなかった。
実に素晴らしい。
腕、脚、胴も頭も全てが包まれ、
紫の光陰が曲線美に拍車をかけている。
ボスとは異なり、剛ではなく柔で立ち向かう。
酔うのは私だけで良い。
薄紫の肉体美を惜しまず披露する時を迎えそうだ。
そして、時を経て時代は2011年。
私達は計画を実行に移す。
ボスは一度都庁を占拠して誰も立ち入りできない
領域を築き、金環日食の刻を待つ。
ただ、私達はまだ入ってはならないと言う。
あらゆる方向から監視され、すぐに身元が知られて
人脈を辿られるのでまだ介入不可。
それに5月21日に息子と再会する機会も
奪われてしまうので当日のみ現地入りする。
その間はポリカーボネートの補正とAC生成で
ダイアモンドサポートをする作戦に打つ。
刻の停止という計画は真の平和として
世界の結晶化へ君臨させる。
とても想像できる余地もないこの構築は
どう変わってゆくのか。
興味、興奮、興業とでも言うべきか地球より新たなる
異世界が到来するだろう。
ただ、その前に準備する事がある。
息子の覚醒がまだ不十分で、いくつかのACを手にさせ
ダイアモンドの適性を向上させる必要があるらしい。
例の赤子はすっかりと成長してボスの対を果たすまでに
体内で黒を成熟させていた。
もう1人のダイアモンド適性者、神来杜聖夜。
ボスと対を成すブラックダイアモンドの性質を
心臓に宿すという対を成す息子がいた。
あのベッドで寝ていた赤子がまさか重要素体だとは意外だ。
現在は昴峰学園に通っているようで、
エドワードが誤って学園に何かを送ってしまったらしく、
私が調査する事になった。
そして、わざと服を汚して現地に侵入し、
ホームレスの振りをして彼の様子をうかがいにいった。
疲れた演技もして一時だけ相手をする。
銀色の髪、私と同じ肌色をした息子がもう1つの
ダイアモンドの所有者。
外見とは対照的に白い髪、白人の肌をもつ。
あの時部屋で寝ていた子が最重要な役目をもつなど
当時は予想も微塵もなかった。
顔はおそらく母親似だろう。
本人はまだ自身の性質には気付いていないようで、
来たる日の覚醒まで様子見との事。
あの縦浜で起きた黒いヒルの群れも対消滅の理由で
息子に移植せざるをえなかったらしい。
ボスすら恐れる闇の力をもつ相手に、
手を出さなかった自分を称えたくなる。
ダイアモンド、ブラックダイアモンドの存在は
極地における結晶で誕生理由は未だに分かっていない。
白と黒の均衡は世界の狭間より宇宙の何たるかに
影響をもたらすという。やはり想像もつかないが。
拡散したACの回収と同時に気取られないよう
監視を続けてゆく。
都庁に張り巡らせたアブソルートを囮に、
周囲で結晶の再結成を行い続けてきた。
息子もACの存在に気が付き、警察機関の下で
回収作業に着手し始めたようだ。
本来なら直に与えるつもりだったが、自衛隊の手違いで
ケース内のACが都心部より拡散。
計画を迂回し直して変える必要がでてしまう。
なけなしの端材よりエドワードも独自に実験を施し、
失敗を繰り返しつつ来たる日に備える。
アメジストを生成して私がやると申し出するも、
すでにボスが防衛省に在籍する部下へ預けたようだ。
実はオリハルコンオーダーズに肩入れする信仰者がいて、
私のように同等の適性をもっていたらしく、
参加させようと会議終了後にすぐ戻る予定だった。
しかし、ここに持ち帰る前に女議員に捉まり、
手荷物検査と言いたげに身辺チェックされかけた。
1人の部下に袋を託したが、今度はひったくられたと言う。
調査の末、何故か女高校生が所持していたようで、
仕方なく私が奪還しに向かう。
当日は首都高速道路で暴れ回る輩の排除と、
ジネヴラと共にヒョウ型とコウモリ型を召喚して掃除。
報告では国から封鎖を一時解除するよう命令され、
高速道路から先に開ける段取りを施した。
バリケードについてはエドワードのポリカーボネートで
アブソルート制御しているから撤去ができずに、
政府から理由を説得させるにも一苦労したらしい。
私の紫は華麗に気付かれずに現地をくぐり抜ける。
闇夜に溶け込む方がどちらかと性に合っているので、
こういった仕事は以前より簡単なお手のもの。
アメジストを持ち出した女をスローダガーで狙撃し、回収。
追って始末するつもりだったが、
自衛隊も近くにいるので目立った動きをする余裕がなく、
予想外にもボスの息子がいて安易に手出しができなかった。
暗渠周辺のクリアリングはこのために10分遅らせて
もらったはずが、陸将補が早めて迂闊に近寄れない。
目標は回収したが、1つだけ足らない。
奇襲の最中でこの辺りに散乱したのは間違いないはずが、
どうしても見つけられなかった。
完璧な仕事をこなせずに帰還したのが心残りだ。
どうにか許してもらったが、ヘマが許されないのは
どこも同じで結晶の反映も楽ではない。
暗い闇の中では誰が潜んでいるのかなど
どんな適性者でも分かるはずもないだろう。
ボスの仰った武士道精神。
私の国の騎士道精神と似通った共通点より
ACを通じて異国文化を吸収していた。
もうすっかりとこの国に馴染んでしまったのは、
結晶と同化したのと似たようなもの。
箸の使い方、字、家の中は靴を脱ぐ。
色々と学んだつもりでも、文化は交ざりきれないと実感。
何が自分に合い、何が自分から必要とされないのか
東洋の気という波長の巡り合わせがそうさせるのだろう。
ACという共通した要素も、海外と混ざれば時に
歪で異形な存在も誕生するものだと実感。
比喩が混ざりすぎて言葉でどう表せば良いかすら迷う。
それはともかくとして計画を実行する日も近づいている。
世界の変革は新たな文化としてまた気色が垣間見える。
全身に宿るアメジストもどことなく疼いてくる。
私の本任務を発揮する機会が訪れる。
都庁付近のビル屋上からアブソルートを眺める。
古より伝わるACにより生み出された不壊なる結晶。
ボスのダイアモンドとジネヴラのシンナバーによって
生成された強硬な逸物。私も実物を観るのは初めてで、
古くから世界各地で発生させてきた。
破壊できる方法はダイアモンド系統者のみ。
ボスのようなとてつもない素質をもつ者は、
数百年の中で時折誕生すると言い伝えられている。
色は定まらず、角度で変化する七色の光は私にとって
何かを訴えている様な気もした。
確証を得ているわけでもないが、女の縄張り意識と似た
干渉するな、干渉するなといった拒絶反応の感じが
どことなく目より通してくる。
しかも、1人のみでなく無数にいるような気配もあり、
凝視するほど背筋が凍る気もする。
物理的には安易に裂ける肉体も、結晶と融合すれば
どこまでも硬く、文字通りの不可侵域を築けるのか。
ジネヴラも似た様な事を言っていた。
「女は身体は弱くても心身は男よりも強く、
1つの要素の助けがあればどこまでも永遠に
金属だろうと壁だろうと生み出し続ける」と。
シンナバーには女性の体液を用いている説もあるらしく、
過去において歴史でも侵略の連続から、
こういった執念で作られた産物なのだろう。
女は苦手だが、引け目から生み出す得体の知れない
可能性は侮るわけにはいかない。
ここまでくれば、男女の境すら及ばない領域なのか。
ボスの計画もいよいよ間近に迫っている。
刻の停止、適性者選抜を大きく実行に移す時がきた。
金環日食の到来でダイアモンド効力を最大にまで
高めて時間すら制御して一から正す。
私もそこからどうなるのか予測がつかない、
ただ、ACとさらなる美への出会いを求めるだけだ。
道中で奇妙な装甲を見かけた。
時は深夜、晃京内で人の姿をしたロボットが
人気のないエリアを行き来していた。
形状からして自衛隊の規格と疑うものの、
ボスも覚えがないというカラクリ兵という物は
外で製造された可能性がある。
民間企業の線も想定したが、ACの性質も熟知して
いないはずで易々と造れるわけがない。
どさくさ紛れの外国侵入者の線も浮かぶが、
エドワードは否定。接近戦主体と思わしき外装など
銃を重んじる海外で採用するはずがないと。
関係者で軍事かつ日本風習に気を入れている者が
関わっている線で、ボスが科学警察研究所にそのような
女主任がいると疑ったが証拠が見つからない。
子息の剣のみ製造していて義足の一片もそこになかった。
意外な伏兵も現れていずれ必ず我々にも弊害が及ぶ。
危険対象として新たに対処する事にした。
オリハルコンオーダーズで直に相手できるのは?
若造の白峰とジネヴラ、老体のエドワードと無影では
心許ない。
当然、ボス自身を盾に出すわけにもいかず。
よって、私の相手は彼に決まる。
思えば、数奇な出来事ばかり送ってきたような気がする。
世界のどこでも、結晶は人と着かず離れずにすぐそばに
在りながら円舞曲を謳歌してきた。
どこまで塊に成りきれるだろうか。
ようやく、使命らしい仕事が訪れてきた。
戦うのは自分だけだが、違和感など生じない。
個人的な和に内在する美と競いたくなる。
ここまで生きながらえてきたのだ。
日本色に染まろうと、己にまで染まった覚えなどない。
20年前の本当の決着をそこで付けるつもりだ。
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