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3章 東西都市国家大戦編
第9話 白濁
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ホッカイドウCN拠点 ロビー
「中部の方で奇怪な死体遺棄が発生してるだと?」
ヘルマンが椅子に座りながらヨハンの知らせを聞き返す。
謎の事件は瞬く間に最北のCNにまで広まっていた。
中部地方のシガCNとギフCNの事件を耳にしたホッカイドウ兵も
異様すぎる話でもちきり。
ヨハンとヘルマンも身の毛がよだつ出来事に慣れているはずの
環境下より背筋を凍らせようとする。
「らしいな。詳細は分からんが、各CNが襲われている。
しかも誰にやられたのかすら分からんらしい」
「こっちも動員するか?」
「いずれそうなるだろうが、こっちに危害がない上に勝手に出られん。
まだレイチェル司令からの指示は来ていない。
来るべき指示が来るまで待機だ」
司令の動向について、どうなるのか予測するのはいつも困難だが、
彼女が関東の総司令官にまで上り詰めるのは予想できていた。
軍備管理についてレイチェル以上に務まる者などいない。
自分達が一番身近にいるから少しくらい実感が湧いていた。
それでも、あの事故、事件までは彼女でも予測できなかった。
ホッカイドウの重鎮の1人として、いたたまれずにはいられない。
自分の体すらも。
テーブルの上に置いてあるカップの中身は空、
ホットミルクはヨハンの好物ですぐに代わりを入れにいくはずが、
今日だけは取りにいこうとしない。
聞こうと思ったが、そうする前に別の話に変え始めた。
「ああ・・・天気は晴れ、雪の予想はほとんどなしか。
ただ、今日は太陽の電子風の影響が強いらしい」
「・・・えーと、オーロラか?」
「そうだ、もうそんな季節だからな。というか常識だぞ。
そういった日は偵察を控えた方が良い、以前も赤外線センサーに
誤作動が起きて間違えて人影を撃とうとしただろ」
「ああ、幽霊が出たとか皆で騒いでガブリエル隊長に怒られた時もな。
別にいつもの現象だろ。なんだ、その話?」
「通信切れなどあの様に大事になるかもしれない、
夜間などの哨戒に影響出るだろう?」
「?」
急に話題を変えたヨハンの様子の変化をうかがう。
ここで直感。
俺はこういった時、気まずい何かを避ける時に使う方法だと気付いていた。
何か言いたい話があって“急に内容を言い換えた”と予想。
ミロンの物忘れとは違う、オーロラへのつなぎがおかしいのはみえみえで
そんなどうでも良い情報を突然話すわけがないのを知っていた。
本心を知るべく、彼の異変をストレートに聞いてみる。
「・・・・・・何かあったんだろ、話してみろ」
「私はもう歩けない、兵としての役割はなくなる」
「・・・・・・」
右足は完全に壊死して歩けなくなっていた。
徒歩訓練という敵もいない行為でこんな代償を負う羽目になる。
疲労や怪我などすでに癒えている時期のはずが、
いつまでも座り続けているから妙だと思っていた。
「そうか・・・ミルクのおかわりをしないワケがそんなので。
さすがに読んでいなかった・・・イキナリすぎるな」
「すまなかった」
医療班の話だと壊死してしまったから関節部まで切除する予定、
今はズボンで覆われて見えないが、見たくもない程酷いのだろう。
当時は生還しただけでも奇跡で兵としてまともに続行できる方がおかしい、
メンバーをあれだけ失って無事に助かった者ですら、やはり後遺症があった。
拳ダコにヒビが入るのとは違う、歩けないというのは兵でも生き物でも
あってはならないくらい苦痛に感じるものだ。
確かに、同時にもう実働部隊としていられない。
今日限りでCNから身を引くのか? エリートAクラスの席を1つ
無くなる報告を聞いてすぐに返事ができなかった。
いや、どうにか即席事をできるだけ考えて言いたい。
目を閉じたヨハン、そこを空かさずヘルマンは彼に語る。
「そうだな、ならば今度は生き字引きなトーチカ役ももっと要るだろ。
これから若い奴らが入ってくんだ、もう二度とあんな目に遭わねえ
思いをさせない示しを・・・教育か? なんつうか、アレだ。
あんたがホッカイドウの司令官ってことにもなるな」
「私がか?」
「司令官と総司令官って、別物だろ?
レイチェル司令官が東列島総合管轄するんだ、ここどころか
他のCNの面倒もみなきゃならなくなるし、御庭番も要るはずだ。
あの人をサポートする副司令官みたいなポジションみたいなもんだ。
今まで通りそうだし、座りながらでも色々できる事とかあるだろうし、
いつもと同じ様にやってけば良いんじゃねえのか」
「そういうものか」
それは役立たずだから辞めろという意味ではなかった。
座りながらでも、何かの役目を果たせる事。
歩けなくとも、仲間の支えになれるような立場を諭し、
道標を示すヘルマンに自信をつけさせられたヨハンの眼差しに
輝きがわずかに蘇っていた。
宵丘駐屯地
ミロンは1人で宵丘の基地にいた。
今日は訓練もなく、なんとなく暇だったので個人的に気になる
ここで配置されているホワイトベルーガを観に来ていた。
(うーん、僕も早く操縦したいな)
およそ20人乗りで10mの横長いこれは戦闘も運搬もできて、
底に4つのプロペラで空を飛び、時には地上で滑り降りられる。
見た目ではほとんど雪山での活用を考えて造った物だ。
フライングフィッシュを武装化、装甲強化した物だけに、
操縦する時の一体感は格別だろう。
僕はまだ乗った事すらない。
全てレイチェルの管理下にあるこれらのライオットギアで
Aクラスといえど、これに乗れる機会はそうそうない。
エリザベートが関東の兵と戦闘した時に乗ったらしく、
早く自分にも出番を回してほしいと内心せがんでいた。
もちろん操縦資格は与えられるからいずれはできるわけだけど、
数機だけでヨハンさんがなかなか出番をもらえずにいた。
今、ここには誰もいない。整備する時間じゃないからヒッソリとして
自由に触ったりできる、鍵がかかって機体の中には入れないけど。
別に悪い事はしていないからバチが当たるわけじゃないので、
もっと近くで見ようと機体に寄っていくと。
「ん?」
そっと耳を傾けると何やら話し声が聴こえてくる。
辿ってみると、ベルーガの保管庫の奥の壁から出ているようだ。
しかし、壁の向こう側には何もない。
反対側は雪山の傾斜だけのはずだ。
「「なななんで・・・ここに部屋はないはずなのに、ヒイイイイイッ!」」
ダダダダ
怖くて逃げ出した。
小柄な体格の割に、秒速9m程の速さで去ってゆく。
数分後
「壁から声が?」
「確かに聴こえたんだ、本当だってば!」
ヘルマンは引っ張られながら連れてこられる。
ミロンは今度は一緒に確認しようと言う。
しかし、どれだけ耳を澄まして聞いてみても何一つ聴こえない。
「何もねーぞ?」
「おかしいな・・・」
「どうせ、聴き間違えたんだろ?
キツネの遠吠えでもあったんだろ」
「そんなバカなぁ」
数分間その場にいても、物音1つしない様子で戸惑うミロン。
駐屯地をグルっと1周しても原因は見つけられない。
埒が明かずに呆れたヘルマンが帰ろうとした時だ。
ピピッ
「うわっ、びっくりした!?」
「司令からか・・・」
無線からレイチェル司令の声が聴こえる。
耳を澄ましていた分だけあり、突如の通信音に驚かされた。
彼女から今後の告知を受け、応答する。
「「今後の動向についてお話があります。
1時間後にミーティングを行いますので」」
「了解です」
1時間後 拠点会議室
その後、ホッカイドウ兵達による会議が始まる。
ラボリを行う今後の方針を打ち出した。
総司令官レイチェルの動向について説明を受けるメンバー達。
「私達はこれから南方への対策を主に活動する方針にでます。
東北一帯への安否がある程度保障されたので、哨戒範囲をさらに
遠方まで延ばす事を決定しました」
「例の中部で起きているという事件の関連ですか?」
「いいえ、南方からの敵性CNに対する作戦です。
同盟CNと会議により、ここホッカイドウは安全圏拡大にともない
西部エリア端への対応を担当する事になりました。
よって、活動範囲は海側が対象となります」
彼女曰く、内陸部は同盟CNの守備があるので、
隙の多い海の領域に力を注ぐと言う。
裏取り対策として最低限のサポートができるよう最北端から
緊急出動するポジションとなった。
ミロンがビークル旋回手段を聞く。
「海域展開という事は船や潜水艇での活動ですね」
「ええ、さすがに陸内での待ち伏せでは地元に被害が及びます。
極力上陸を抑えるようホッカイドウ周辺に巡洋艦、
侵攻はホワイトベルーガ、潜水艇で向かいます」
さっそく例の新型を実践運用し始めようとする。
今までできなかった空域と海域双方の軍事を行って黒兵捜索や
資源回収により大きく手を伸ばせるようになった。
しかし、機動力としては全エリアを回れる程十分でもないはず。
遠方するのは分かるが、2機を活かせる場所も限定されるだろう。
続けてヨハンが対象CNがどこか聞く。
「侵攻の相手についてですが、すでにどこか決定打や
その対象とするCNとはありますか?」
「ええ、目標地域はオキナワCNです」
「!?」
オキナワCN、ホッカイドウCNにとって最も最南端に位置する
エリアを指摘する。総司令官は関東の代表就任の後、
ここで独自に作戦を実行しようとしていた。
それがこのオキナワへの展開だ。
「何故、わざわざそのような遠いCNを?」
「内陸部は東北、関東の方々が対処してくれています。
理由は先の内容に付随しますが、敵性も同様に
海域展開を行う可能性が高いと推測。
最北端の私達が最南端を攻略する事により有利な
ポジションを取れるでしょう。まるで丸め込む様に・・・」
戦略でいう裏取りをしようと指摘したのだ。
端から端まで伸びるのはそこまで予想できていない。
しかし、その数人はオキナワの名を聞いた途端に
不調な顔をするようになる。
「オキナワか・・・」
「ヨハンさん」
「?」
一部の兵士達は理由を知っているようだが、何も言わない。
別にオキナワ兵がここにやってきた経歴はないはずなのに、
ダンマリを決め込む白い集まり。
そこへ、1人の女性がドアの隙間から中を観ている。
エリザベート「・・・・・・」
その後、作戦の詳細を計画して会議は終了した。
早速、Bクラスのまとめ役で待ち構えていたヘルマンが横に位置。
オキナワ攻略を伝えたヨハンの側、ミロンが先程の件を聞く。
「ヨハンさん、さっきの雰囲気って・・・?」
「お前達がAクラスに上がる前の話だ」
5年前、ガブリエル隊長とオキナワ海域攻略を行った時の話だ。
敵性CNの海上移動が頻繁に起きていて、資源が大量にアブダクトされ
レイチェル司令の反対を押し切って一度遠征していた。
機雷の漂う海を乗り越えて、なんとか辿り着けたものの
現地まで後数kmにまで届いたら、戦艦に異常が発生。
スクリューが突然止まってしまったんだ。
何が原因かと水面を見たら鎖の様な形をしたヘビに襲われた。
10機中わずかながに命からがら脱出できたが、
結局それが何なのか分からなかった。
「以来、南方に遠征する機会もなくなった。
今、対策したものといえばベルーガくらいだから、
オキナワの突破口は見いだせていないだろう」
「そんな事が・・・」
上手に説明できていないものの、“場の存在感”が他CNとは違う。
おいそれと遠距離で簡単にこなせない北とは仕様の異なる兵装に、
ホッカイドウの重鎮達も攻略を確立できていなかった。
19:00
夕食後、外で何か騒ぎ声が聴こえてくる。
拠点の外で喚き散らす兵が1人いた。
「嫌だあああ、オキナワ怖ひいぃい!」
「怖いのはお前だけじゃないんだよ! いい加減に腹をくくれ!」
モブ兵Mが木柱にしがみついていてオキナワ侵攻を拒み、
もう1人の兵Sが説得している。
今回はBチームも参加が決まってAB共同作戦が決行。
しかし、全員がやる気に満ちているとも限らず。
オキナワの恐怖で拒否する者もそこそこ見かける。
ミロンとヘルマンも騒ぎに気付いて向かう。
駄々をこねる気弱な兵士がわめき散らす中、1発の射撃音が聴こえた。
ズドン
「お嬢?」
「エリザさん」
エリザベートが屋上に立っていた。
銃声音が立つよう、わざとサプレッサーを外していたのか
彼女はすぐに注目される。わざわざあんな所に上るなんてほとんどない。
様子をうかがっていると何か言い始めた。
「私達はホッカイドウ兵。
何者にも惑わされず、如何なる理不尽にも屈しない」
「お嬢・・・」
空の極光を背に銃を掲げた彼女は勇み、高々とした声が
気弱な兵士に、いや、さらに周辺に響いてきかせた。
「この世界は理不尽に満ちている。
自然の中、人の中、機械の中、どんな所であろうと1つの過ちで
未来を絶たされる。ゴーグルに見えるのはどこまでも道。
誰であっても確実への道なんてみえる事などできない。
先の遭難事故で多くの仲間が失った事も」
「・・・・・・」
「私も父を失った・・・でも、私はまだ生きている。
こんな細く、弱まった体なのに組織の中にひっそりと。
そして、誰にも見えないところで疑問を追い続けていた。
手も、足も、これらが動かせる意味や理由を考えている内に思った。
生きる事は動く事、命への証。うずくなっていた時で感覚が教えて。
だから、もう何もせずにこのまま終わりたくはない。
佇みは止まる事、その分他への干渉を与えさせる。
次はあなた達の親族を失わせるの?」
兵士Mは彼女に直視され、姿勢がピタリと止まる。
女に説得されたなんてみっともないと思われるかもしれない。
だが、ただの女性のはずもない周りの男達すら凌ぐ者によって
立場を超えた有り様を問われている。
一考から数秒間、口を開き応じた。
「「俺は・・・ぐすっ・・・・嫌です。
それは・・・もっと嫌なんです!」」
「・・・そうだな、それでこそ俺達はここにいられるんだ」
Sも続けて返事をした。見たくれはただの説得、
Mもホッカイドウ最高峰の兵に言われてなけなしの信念をもち直す。
その時、周囲から大勢の声が上がる。
「おおおおおおおおおおおっ!」
「お前ら!?」
「いつの間に来てたの!?」
驚く2人の周囲に集まっていたホッカイドウ兵達。
1人のリーダーシップをもつ者に慕う彼女への結束力を改めて感じる瞬間だ。
しばらくなかったそんな気概をもっていたという気持ちなのは要らぬ心配で、
多くの不満感を表す者はいなかった。
それも当然か、エリザベートというカリスマの復活を前に
そんなのはもう言わずと知れていたのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
無意味な長文よりも、意味のある短文。
まさに小説の理想ですが、ありきたりな情景描写でも色濃く文で表すには、
ある程度の字数も必要になる時があると思います。
説教的な作品も、どうしても長い時間を必要とする場合もあるので、
1000ページを超えた今、これは長編にたる良い小説といえるかどうか
心配になってきましたが、最後までやっていきます。
「中部の方で奇怪な死体遺棄が発生してるだと?」
ヘルマンが椅子に座りながらヨハンの知らせを聞き返す。
謎の事件は瞬く間に最北のCNにまで広まっていた。
中部地方のシガCNとギフCNの事件を耳にしたホッカイドウ兵も
異様すぎる話でもちきり。
ヨハンとヘルマンも身の毛がよだつ出来事に慣れているはずの
環境下より背筋を凍らせようとする。
「らしいな。詳細は分からんが、各CNが襲われている。
しかも誰にやられたのかすら分からんらしい」
「こっちも動員するか?」
「いずれそうなるだろうが、こっちに危害がない上に勝手に出られん。
まだレイチェル司令からの指示は来ていない。
来るべき指示が来るまで待機だ」
司令の動向について、どうなるのか予測するのはいつも困難だが、
彼女が関東の総司令官にまで上り詰めるのは予想できていた。
軍備管理についてレイチェル以上に務まる者などいない。
自分達が一番身近にいるから少しくらい実感が湧いていた。
それでも、あの事故、事件までは彼女でも予測できなかった。
ホッカイドウの重鎮の1人として、いたたまれずにはいられない。
自分の体すらも。
テーブルの上に置いてあるカップの中身は空、
ホットミルクはヨハンの好物ですぐに代わりを入れにいくはずが、
今日だけは取りにいこうとしない。
聞こうと思ったが、そうする前に別の話に変え始めた。
「ああ・・・天気は晴れ、雪の予想はほとんどなしか。
ただ、今日は太陽の電子風の影響が強いらしい」
「・・・えーと、オーロラか?」
「そうだ、もうそんな季節だからな。というか常識だぞ。
そういった日は偵察を控えた方が良い、以前も赤外線センサーに
誤作動が起きて間違えて人影を撃とうとしただろ」
「ああ、幽霊が出たとか皆で騒いでガブリエル隊長に怒られた時もな。
別にいつもの現象だろ。なんだ、その話?」
「通信切れなどあの様に大事になるかもしれない、
夜間などの哨戒に影響出るだろう?」
「?」
急に話題を変えたヨハンの様子の変化をうかがう。
ここで直感。
俺はこういった時、気まずい何かを避ける時に使う方法だと気付いていた。
何か言いたい話があって“急に内容を言い換えた”と予想。
ミロンの物忘れとは違う、オーロラへのつなぎがおかしいのはみえみえで
そんなどうでも良い情報を突然話すわけがないのを知っていた。
本心を知るべく、彼の異変をストレートに聞いてみる。
「・・・・・・何かあったんだろ、話してみろ」
「私はもう歩けない、兵としての役割はなくなる」
「・・・・・・」
右足は完全に壊死して歩けなくなっていた。
徒歩訓練という敵もいない行為でこんな代償を負う羽目になる。
疲労や怪我などすでに癒えている時期のはずが、
いつまでも座り続けているから妙だと思っていた。
「そうか・・・ミルクのおかわりをしないワケがそんなので。
さすがに読んでいなかった・・・イキナリすぎるな」
「すまなかった」
医療班の話だと壊死してしまったから関節部まで切除する予定、
今はズボンで覆われて見えないが、見たくもない程酷いのだろう。
当時は生還しただけでも奇跡で兵としてまともに続行できる方がおかしい、
メンバーをあれだけ失って無事に助かった者ですら、やはり後遺症があった。
拳ダコにヒビが入るのとは違う、歩けないというのは兵でも生き物でも
あってはならないくらい苦痛に感じるものだ。
確かに、同時にもう実働部隊としていられない。
今日限りでCNから身を引くのか? エリートAクラスの席を1つ
無くなる報告を聞いてすぐに返事ができなかった。
いや、どうにか即席事をできるだけ考えて言いたい。
目を閉じたヨハン、そこを空かさずヘルマンは彼に語る。
「そうだな、ならば今度は生き字引きなトーチカ役ももっと要るだろ。
これから若い奴らが入ってくんだ、もう二度とあんな目に遭わねえ
思いをさせない示しを・・・教育か? なんつうか、アレだ。
あんたがホッカイドウの司令官ってことにもなるな」
「私がか?」
「司令官と総司令官って、別物だろ?
レイチェル司令官が東列島総合管轄するんだ、ここどころか
他のCNの面倒もみなきゃならなくなるし、御庭番も要るはずだ。
あの人をサポートする副司令官みたいなポジションみたいなもんだ。
今まで通りそうだし、座りながらでも色々できる事とかあるだろうし、
いつもと同じ様にやってけば良いんじゃねえのか」
「そういうものか」
それは役立たずだから辞めろという意味ではなかった。
座りながらでも、何かの役目を果たせる事。
歩けなくとも、仲間の支えになれるような立場を諭し、
道標を示すヘルマンに自信をつけさせられたヨハンの眼差しに
輝きがわずかに蘇っていた。
宵丘駐屯地
ミロンは1人で宵丘の基地にいた。
今日は訓練もなく、なんとなく暇だったので個人的に気になる
ここで配置されているホワイトベルーガを観に来ていた。
(うーん、僕も早く操縦したいな)
およそ20人乗りで10mの横長いこれは戦闘も運搬もできて、
底に4つのプロペラで空を飛び、時には地上で滑り降りられる。
見た目ではほとんど雪山での活用を考えて造った物だ。
フライングフィッシュを武装化、装甲強化した物だけに、
操縦する時の一体感は格別だろう。
僕はまだ乗った事すらない。
全てレイチェルの管理下にあるこれらのライオットギアで
Aクラスといえど、これに乗れる機会はそうそうない。
エリザベートが関東の兵と戦闘した時に乗ったらしく、
早く自分にも出番を回してほしいと内心せがんでいた。
もちろん操縦資格は与えられるからいずれはできるわけだけど、
数機だけでヨハンさんがなかなか出番をもらえずにいた。
今、ここには誰もいない。整備する時間じゃないからヒッソリとして
自由に触ったりできる、鍵がかかって機体の中には入れないけど。
別に悪い事はしていないからバチが当たるわけじゃないので、
もっと近くで見ようと機体に寄っていくと。
「ん?」
そっと耳を傾けると何やら話し声が聴こえてくる。
辿ってみると、ベルーガの保管庫の奥の壁から出ているようだ。
しかし、壁の向こう側には何もない。
反対側は雪山の傾斜だけのはずだ。
「「なななんで・・・ここに部屋はないはずなのに、ヒイイイイイッ!」」
ダダダダ
怖くて逃げ出した。
小柄な体格の割に、秒速9m程の速さで去ってゆく。
数分後
「壁から声が?」
「確かに聴こえたんだ、本当だってば!」
ヘルマンは引っ張られながら連れてこられる。
ミロンは今度は一緒に確認しようと言う。
しかし、どれだけ耳を澄まして聞いてみても何一つ聴こえない。
「何もねーぞ?」
「おかしいな・・・」
「どうせ、聴き間違えたんだろ?
キツネの遠吠えでもあったんだろ」
「そんなバカなぁ」
数分間その場にいても、物音1つしない様子で戸惑うミロン。
駐屯地をグルっと1周しても原因は見つけられない。
埒が明かずに呆れたヘルマンが帰ろうとした時だ。
ピピッ
「うわっ、びっくりした!?」
「司令からか・・・」
無線からレイチェル司令の声が聴こえる。
耳を澄ましていた分だけあり、突如の通信音に驚かされた。
彼女から今後の告知を受け、応答する。
「「今後の動向についてお話があります。
1時間後にミーティングを行いますので」」
「了解です」
1時間後 拠点会議室
その後、ホッカイドウ兵達による会議が始まる。
ラボリを行う今後の方針を打ち出した。
総司令官レイチェルの動向について説明を受けるメンバー達。
「私達はこれから南方への対策を主に活動する方針にでます。
東北一帯への安否がある程度保障されたので、哨戒範囲をさらに
遠方まで延ばす事を決定しました」
「例の中部で起きているという事件の関連ですか?」
「いいえ、南方からの敵性CNに対する作戦です。
同盟CNと会議により、ここホッカイドウは安全圏拡大にともない
西部エリア端への対応を担当する事になりました。
よって、活動範囲は海側が対象となります」
彼女曰く、内陸部は同盟CNの守備があるので、
隙の多い海の領域に力を注ぐと言う。
裏取り対策として最低限のサポートができるよう最北端から
緊急出動するポジションとなった。
ミロンがビークル旋回手段を聞く。
「海域展開という事は船や潜水艇での活動ですね」
「ええ、さすがに陸内での待ち伏せでは地元に被害が及びます。
極力上陸を抑えるようホッカイドウ周辺に巡洋艦、
侵攻はホワイトベルーガ、潜水艇で向かいます」
さっそく例の新型を実践運用し始めようとする。
今までできなかった空域と海域双方の軍事を行って黒兵捜索や
資源回収により大きく手を伸ばせるようになった。
しかし、機動力としては全エリアを回れる程十分でもないはず。
遠方するのは分かるが、2機を活かせる場所も限定されるだろう。
続けてヨハンが対象CNがどこか聞く。
「侵攻の相手についてですが、すでにどこか決定打や
その対象とするCNとはありますか?」
「ええ、目標地域はオキナワCNです」
「!?」
オキナワCN、ホッカイドウCNにとって最も最南端に位置する
エリアを指摘する。総司令官は関東の代表就任の後、
ここで独自に作戦を実行しようとしていた。
それがこのオキナワへの展開だ。
「何故、わざわざそのような遠いCNを?」
「内陸部は東北、関東の方々が対処してくれています。
理由は先の内容に付随しますが、敵性も同様に
海域展開を行う可能性が高いと推測。
最北端の私達が最南端を攻略する事により有利な
ポジションを取れるでしょう。まるで丸め込む様に・・・」
戦略でいう裏取りをしようと指摘したのだ。
端から端まで伸びるのはそこまで予想できていない。
しかし、その数人はオキナワの名を聞いた途端に
不調な顔をするようになる。
「オキナワか・・・」
「ヨハンさん」
「?」
一部の兵士達は理由を知っているようだが、何も言わない。
別にオキナワ兵がここにやってきた経歴はないはずなのに、
ダンマリを決め込む白い集まり。
そこへ、1人の女性がドアの隙間から中を観ている。
エリザベート「・・・・・・」
その後、作戦の詳細を計画して会議は終了した。
早速、Bクラスのまとめ役で待ち構えていたヘルマンが横に位置。
オキナワ攻略を伝えたヨハンの側、ミロンが先程の件を聞く。
「ヨハンさん、さっきの雰囲気って・・・?」
「お前達がAクラスに上がる前の話だ」
5年前、ガブリエル隊長とオキナワ海域攻略を行った時の話だ。
敵性CNの海上移動が頻繁に起きていて、資源が大量にアブダクトされ
レイチェル司令の反対を押し切って一度遠征していた。
機雷の漂う海を乗り越えて、なんとか辿り着けたものの
現地まで後数kmにまで届いたら、戦艦に異常が発生。
スクリューが突然止まってしまったんだ。
何が原因かと水面を見たら鎖の様な形をしたヘビに襲われた。
10機中わずかながに命からがら脱出できたが、
結局それが何なのか分からなかった。
「以来、南方に遠征する機会もなくなった。
今、対策したものといえばベルーガくらいだから、
オキナワの突破口は見いだせていないだろう」
「そんな事が・・・」
上手に説明できていないものの、“場の存在感”が他CNとは違う。
おいそれと遠距離で簡単にこなせない北とは仕様の異なる兵装に、
ホッカイドウの重鎮達も攻略を確立できていなかった。
19:00
夕食後、外で何か騒ぎ声が聴こえてくる。
拠点の外で喚き散らす兵が1人いた。
「嫌だあああ、オキナワ怖ひいぃい!」
「怖いのはお前だけじゃないんだよ! いい加減に腹をくくれ!」
モブ兵Mが木柱にしがみついていてオキナワ侵攻を拒み、
もう1人の兵Sが説得している。
今回はBチームも参加が決まってAB共同作戦が決行。
しかし、全員がやる気に満ちているとも限らず。
オキナワの恐怖で拒否する者もそこそこ見かける。
ミロンとヘルマンも騒ぎに気付いて向かう。
駄々をこねる気弱な兵士がわめき散らす中、1発の射撃音が聴こえた。
ズドン
「お嬢?」
「エリザさん」
エリザベートが屋上に立っていた。
銃声音が立つよう、わざとサプレッサーを外していたのか
彼女はすぐに注目される。わざわざあんな所に上るなんてほとんどない。
様子をうかがっていると何か言い始めた。
「私達はホッカイドウ兵。
何者にも惑わされず、如何なる理不尽にも屈しない」
「お嬢・・・」
空の極光を背に銃を掲げた彼女は勇み、高々とした声が
気弱な兵士に、いや、さらに周辺に響いてきかせた。
「この世界は理不尽に満ちている。
自然の中、人の中、機械の中、どんな所であろうと1つの過ちで
未来を絶たされる。ゴーグルに見えるのはどこまでも道。
誰であっても確実への道なんてみえる事などできない。
先の遭難事故で多くの仲間が失った事も」
「・・・・・・」
「私も父を失った・・・でも、私はまだ生きている。
こんな細く、弱まった体なのに組織の中にひっそりと。
そして、誰にも見えないところで疑問を追い続けていた。
手も、足も、これらが動かせる意味や理由を考えている内に思った。
生きる事は動く事、命への証。うずくなっていた時で感覚が教えて。
だから、もう何もせずにこのまま終わりたくはない。
佇みは止まる事、その分他への干渉を与えさせる。
次はあなた達の親族を失わせるの?」
兵士Mは彼女に直視され、姿勢がピタリと止まる。
女に説得されたなんてみっともないと思われるかもしれない。
だが、ただの女性のはずもない周りの男達すら凌ぐ者によって
立場を超えた有り様を問われている。
一考から数秒間、口を開き応じた。
「「俺は・・・ぐすっ・・・・嫌です。
それは・・・もっと嫌なんです!」」
「・・・そうだな、それでこそ俺達はここにいられるんだ」
Sも続けて返事をした。見たくれはただの説得、
Mもホッカイドウ最高峰の兵に言われてなけなしの信念をもち直す。
その時、周囲から大勢の声が上がる。
「おおおおおおおおおおおっ!」
「お前ら!?」
「いつの間に来てたの!?」
驚く2人の周囲に集まっていたホッカイドウ兵達。
1人のリーダーシップをもつ者に慕う彼女への結束力を改めて感じる瞬間だ。
しばらくなかったそんな気概をもっていたという気持ちなのは要らぬ心配で、
多くの不満感を表す者はいなかった。
それも当然か、エリザベートというカリスマの復活を前に
そんなのはもう言わずと知れていたのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
無意味な長文よりも、意味のある短文。
まさに小説の理想ですが、ありきたりな情景描写でも色濃く文で表すには、
ある程度の字数も必要になる時があると思います。
説教的な作品も、どうしても長い時間を必要とする場合もあるので、
1000ページを超えた今、これは長編にたる良い小説といえるかどうか
心配になってきましたが、最後までやっていきます。
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