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3章 東西都市国家大戦編
第3話 人種という壁
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トウキョウCN 上層階
「様子はどうだ?」
「はい、バイタルもいたって正常。
命に別条はなく素直に大人しくしているようです」
グラハムが見張りの部下に収容した男の様子を聞く。
囚われていたクリフは上層階の一室にいた。
最下層階の牢獄ではなく、少しは快適さがある部屋。
営倉ではない客室的な余裕のある個室であるが、
トウキョウ兵やPD達の監視下におかれ、軟禁状態だった。
最初は抵抗していたが、過ぎれば大人しくなっている。
No2は悠然とドアを開けて部屋に入り、息子に様子を聞きだす。
ウィーン
「どうだ、トウキョウの空気は?」
「・・・最悪、よどんでいて臭えな」
素直に答えないクリフ。
ここに連れてきてから一向に話す気がないようだ。
数年の空白でお互い変わっていたのは分かっていた。
当然と言わんばかりに冷静に対処するグラハム。
「お前は然程嗅覚がなかったろう?
電離技術の発達で公害は減少しつつあるぞ」
「んなストレートな臭さじゃねーっての。
チラチラ様子ばかりうかがってる連中ばかりで、姑息な臭さだわ」
「相変わらず耳ばかりで周囲を見極めておらんな。
ここに連行させればそんな能力も無意味だと思い知ると思ってたが、
規模を直に観れば理解できるはずだろう、分からず屋め」
「取り柄っつうのは場を乗り切る大事な手に決まってんだろ、
場所なんざたまたまで最後に活かせるのは自身なんだよ」
「耳だけで軍事行動が賄えると思ったら大間違いだ。
どんな少数精鋭でも超大人数には勝てん。
そんなんだから、見す見すアブダクトされたんだ。
少しは立場も考えろ、バーカ」
「お前もバーカ、ついでにハゲ」
ガシャン
クリフを掴み上げ、壁に叩きつける様に張り付けた。
「この後に及んで、まだ強がってるのか?
私がああまでしてお前を連れてきたというのに、身の程知らずが」
「強がりはお互い様じゃねーか、チバから逃げたクセによ!
どこに行ったかと思えばよりによってトウキョウだなんてな。
裏切って勝手に亡命しやがって」
「ここに来なければならなかったんだ、当時の私は向こうにいられず
命辛々どうにか生き残れた」
「ビビッてトンズラしただけだろうよ、ガタイの割に足だけ速えし。
俺も昔はそうだった、だから20代で内地に入れたんだろうな。
あーあ、どっかの誰かさんに似ちまってるのかもなー!」
「お前は母親似だ、似た者同士で何よりだろう?
ならば、あいつに物申させれば良かったかもな」
「もういねえぞ、俺1人じゃ無理だった。
なんなんだよ、あの時は? 敵性反応もなくイキナリ銃声がして。
必死に耳かざそうが距離感も近すぎて味方が襲ってるみてえだった。
どっから弾が飛んでくっかなんて分かるわけねえしな」
「あの時は――!」
「壮大なる内輪揉めでお袋を助けられなかったからな!
あん時、俺は俺ながら必死に抵抗した。
親父がいれば助けられたんだ!」
「ああそうだ。だが、ああなった根本の源を解決せねば、
何度も同じ過ちを繰り返すぞ!
今のチバはさぞやそんな身内揉めが無くなったろう?
だから、人種選別が必要なのをいい加減に分かれ」
「分かんねえな!
人種だとか、イチイチくだらねえ差別にこだわってる気持ちなんぞ!」
「なに?」
「トウキョウが今まで動いた理由はそんなんだったのか?
なら、さっさと支配してパッパと人種とやらの
整理などなんでもすりゃあ良いじゃねえか!!??」
「・・・・・・」
ドサッ
グラハムはクリフを放り捨てる。
部屋の外で部下も様子をうかがっていた。
息子に正論を突かれて部屋の空気が静まる。
また怒鳴られると思いきや、静かに語りだした。
「人口過多は混沌を生み出すのが常だ。
整理整頓はなにも物だけに限った話ではない」
「・・・・・・」
「最も膨大な数のここより、乱れ無き整列を目指している。
いい加減に諦めてこちら側に来い。
今日はもう良い・・・猶予を与えてやる」
グラハムはいつもこんな感じでクリフと押し問答をしている。
トウキョウまで連行してわざわざここで待遇表現しようとも、
彼の説法は息子の耳には届いていないようだ。
出ていく寸前、クリフに一言のみ言い放った。
「選別、それは国にとって重要性の高い決断設計だ。
叶わなくば、真の統合は永久に来ないぞ」
ウィーン
父親は立ち去った、こんな憂鬱になるのも久しぶりだ。
部屋の広さは7mそこいらの世界に変わり、営巣に入れられる気分。
内心にチバの皆の事を気にかける俺の中には
レッドも内側の1人として案じていた。
(レッド・・・)
上層階 とある端末室
(やはりおかしい)
ベルティナがデータベースのページを観て目を細めてゆく。
端末で確認する度に不可解さがにじみ出てくる。
内容はアメリア副司令の書類の盗難の件で持ちだされた経緯が
あまりにも大胆すぎて影だけ行動している様なやり方だった。
監視PDの停止、入室履歴の改ざん、中層の誰もできるはずのない
手口にありえる線は明らかに普段からそこにいる者の犯行。
下水道に侵入された時もアメリア副司令の製造したゲッコのセンサーのみ
抜き取られていたのも現場配置させた者の中にいたはず。
当然、下級兵は機体構造を知らない。強引に外そうものなら警告ブザーが
鳴ってPDに取り押さえられるようになっているから。
つまり、盗みだせるのは権限あるNoのついた者だけという事だ。
しかし、これ以上の証拠がいつまでも見つけられない。
洗いだそうにもそこから一歩先がどうしても不明で監視の目に捉えられない。
直接的な姿を発見できないのなら周辺に携わる者の動きを観たら?
トウキョウ全兵の言動を改めて目を通していると、ある者が見つかった。
(ん、こいつは軍備計画局の?)
トーマスチームに所属している工作兵の発言を目にして疑惑、
ログを調べていると知りえていないはずの内容を同僚に語っている。
ヒデキも知らない事を何故知っているのか?
これはかなり大きな手掛かりとなる可能性があるとマークした。
横のPDから連絡。
「「No8、ヴェインから連絡が届きました」」
「後で連絡する」
直の上司や同僚にすら相談するのも危険と判断。
同僚の知らせを無視してまで入念に調べ上げていく思惑はとめどなく、
他人を当てにしない方へ向く。
(疑似餌が必要だな)
ある1つの作戦に打って出ようとする。
内側に疑いをもった私は連絡網をさらに縮める必要性有りと、
独自の行動を取り始める算段にもっていこうとした。
あのアメリア副司令にですら内密に行動をとるのは、
自身意外の全てに疑いをもってしまっていたからだ。
中層階 交通局廊下
「G-114のエリア、ここね」
セレーネは中層階のあるフロアへ向かう。
モブ兵Aから教えてもらった赤いライオットギアの所在を知っているという
人がいるらしいここ、交通局に来ていた。
ラボリのないほんのわずかな期間を機に、個人的好奇心を抱えつつ
1人だけで目的の一角へとたどり着いた、が。
「うっ」
頭痛がする、最近になってからは時々痛むようになっていた。
医療班に診察してもらっても原因は分からない。
神経質の多いここで起こる偏頭痛は何も珍しい事ではなく、
少々無理しすぎているだけだろうと、自分に言いきかせながら行動を続ける。
人の少ない部署に入り、デスクワークしている男に近づく。
「あなたがラメッシュさん?」
情報屋とよばれる男に接近した彼女。
名はラメッシュといい、トウキョウ中層兵兼情報屋の肩書きを
もっている者だ。
「俺の事をどこで知った?」
「3年前のラボリの記録からです。
あなたが的確に敵性CNの経路を当てた事、
元土地開発整備の隊長を務めていた事。
それで、噂話も加えて知ったので・・・」
自分はAから教わったのを一度秘密にして、
過去の記録からキューブセクションに詳しい人物を探していた。
とても上層部にかけあえるはずもなく、妹に聞いても知らぬ存ぜぬの
一点張りで他にあてもなく、自分の介入が容易い
“横や下の者達”から探すしか方法がなかった。
実働部隊の多い中兵ならばと、しらみつぶしに調べて
行き着いたと言えば疑われにくと推測。
「ああ、あの赤いタイプの話か・・・知ってるぜ」
「そ、その話についてですが・・・え~と」
続きを話したかったが、背後にはPDが張り付いている。
ベルティナより機密事項とまで言われたものだけあって、
1つでも余計な口を挟むと上に通報されてしまう。
ここに来たものの、そこから何の対策を考えていなかったので
口ごもってしまった。勘取った男は何かをしている。
「後ろにいる奴だろ? そいつはこうすれば良い」
ブシューッ
「これは!?」
男が置いた人形の風船を膨らませた。
次の瞬間、彼女のPDの顔が横向きに変わったのだ。
「ただの風船じゃない、有機ガスデコイ、ミミックオクトパスだ。
PDの検知センサーを任意に向けさせるモンだ」
「すごい・・・」
PDは人間と違い、意志をもたない。
情報の目を別に向けさせる事で、余計な詮索をさせなくする。
指向性マイクも誘導させ、声も拾えないという。
奇妙な技術をもつ男は一時の発言する自由を彼女に与えた。
「もう好きなだけ話しても良いぜ」
「は、はい。赤いライオットギアがキューブセクションの
どこかにあるらしくて見つけたいのですが?」
「教えてやっても良いが、タダじゃないぜ?」
「何P必要ですか?」
「そうだな、報酬は・・・お前だ」
「わ、私!?」
「おっとと、言葉が足りなかったな。
お前の所属する部署から上に関する内容の情報だ。
それが報酬だな」
「「個人情報・・・・・」」
トーマスチームの情報と引き換えだと言った。
同じ部署に関する者達について何かを流すのを迫られた。
自分に気の迷いが漂い始める。
しかし、頭痛を足した己の利に判断力を低下させてゆく。
言いようのない機械的欲求が心臓部分を高まらせて、
好奇心が上回ってしまったのだ。
「・・・分かりました、エンジンS型に関しての書類を送っておきます」
「S型?」
「私の規格したドキュメントですが、これで良いですか?」
「こりゃあ、スゴイ。こんな動力源など俺でも初めて見る。
交渉成立だな、このコードだ」
「ありがとうございました」
結局、渡してしまった。
上層から携わる技術の設計図を差し出して、
見返りにパスワードが書かれたメモを受け取った自分はさっそく
下のエリアへ向かって行った。
下層階 キューブセクション
言われた通りにセルガーデンの一角に着く。
立方体の部屋の集まりで、操作すると丸ごと移動する仕組みだ。
ゴミ置き場、資材置き場、兵器の保管、様々な用途にある。
区画の端末から入力、そしてその一室に侵入する。
そこには1つの機体が置かれていた。
「「これが・・・赤いライオットギア」」
目の前には雑に置かれた深紅色のライオットギアがある。
期待の赤い機体は確かに存在していた。
幾何学かつ奥深い複雑な階層に潜んでいた物の話は本当に実在。
色はおろか、質も違う表面の艶からして姿形は明らかに
トウキョウ製造とは異なるフレームだ。
「理由は分からないけど・・・惹かれる」
ここで秘密裏に製造されていたのか、
こんな小さな一角で従来のタイプとは逸する存在感に
自分は息を呑み、鼓動も高まってゆく。
表面からは見えないボディの内部はきっと綿密な制御基盤や動力源が
備えられているに違いない。いつの時代か、工程はどの手順か、
ただの姿によらず製造過程も思慮に入れて気持ちが交えている。
それをこの手で分解してみたい、誰かが構築したのにそう思ってしまう。
フレーム端を手で触れて、高まる感じが治まらなくなる。
まるで別世界の来訪者の様に見続けている内に、
予想もしない出来事が起きてしまう。
「姉さん」
「ヘスティア!?」
そこにいたのはヘスティアだった。
軍事執行局実働第1部隊長、そして自分の妹でもある。
最近、ほとんど顔を見せずに仕事を続けていたのはここ、
キューブセクションを調査するためでずっと籠りきりだったらしい。
彼女の表情は険しく、あたかも見られては不都合な顔で叫ぶ。
「どうしてあなたがここに!?」
「「え・・・私は・・・」」
応えられるはずがなかった。
半ば興味本位でに侵入してしまっただけに、
今更こんな勝手な行動を明かせられない。
とはいえ、軍事執行局もなぜ巡回していたのかも不審で
せめて、妹がここにいる理由を聞き返して逆に場を凌ぐしかないのだ。
「ヘスティアこそなんでここに・・・?」
「ラボリでここの管理を任されていただけです!
No7のロスト、スパイ容疑、下層階侵入、近日の事件が相次いで
トウキョウ内部の汚職が発生していたのは分かっているでしょう?」
「それをどうして軍事執行局が?」
「私はただ指示に従ってやってきただけの事、管轄外の内容で
そんなのあなたには関係ない事です!」
妹は断固して理由を話そうとしない。
軍事執行局も色々と不審な動きをしていたのに、
姉妹どうしのお互い様事情は平行線をたどるかと思っていた時、
自分の意見をのまずに、強硬手段に打ってでた。
「それは違うわ、私はこんな所で――!」
「こんな所でコード入力してすんなり入室したと?
それに、ここはNo管轄の一室で私達ですら開けられなかったルーム。
軍備計画局No5の部屋をどうしてあなたが?」
「え・・・アーゲイル副司令の!?」
「とぼけないで下さい!
このレッドカラータイプは未だかつてトウキョウ、サイタマ、カナガワ
でも製造されていない物で100年もの期間ですら一切なかったはず」
妹の発言を耳に自分も唖然とする。
この深紅なる機体は所属最高責任者の所有物だった。
確かにヒストペディアでもどこのCNでもこんなタイプはなく、
元からトウキョウでこれを造る計画なんて公開されてもいない。
でも、こんな所でひっそりと保管されていたのは本当だ。
ならば、噂は誰が広めたのか、中層兵がおいそれと入れないなら
実際広めたのはNoの誰かしかいないはずだ。
アーゲイルが隠していたのなら噂にするなんていうのもおかしい。
ならば交通局で捜査している内に偶然発見したとしか思えなかった。
ラメッシュより引用して関わる誰かが、でも、そんな事は話せない。
これ以上言葉も出ずに立ちすくんでしまう。
次に情け無用な言葉を通してきた。
「密造はCN法より違反行為の1つです。
キューブセクション内部にてスパイ活動、No7ロスト関与容疑より、
これより査察、検察を行います!」
「待って!」
ヘスティアはエレベーターで上がっていってしまった。
間もなく数人の兵とPDが駆けつけ、
自分はバインドされて連れていかれてしまう。
部屋内には残された赤い機体のみが依然と敷かれている。
連行してしばらくするとそこの区画はまるごと動き、
別の場所へと移動して向かって行った。
「様子はどうだ?」
「はい、バイタルもいたって正常。
命に別条はなく素直に大人しくしているようです」
グラハムが見張りの部下に収容した男の様子を聞く。
囚われていたクリフは上層階の一室にいた。
最下層階の牢獄ではなく、少しは快適さがある部屋。
営倉ではない客室的な余裕のある個室であるが、
トウキョウ兵やPD達の監視下におかれ、軟禁状態だった。
最初は抵抗していたが、過ぎれば大人しくなっている。
No2は悠然とドアを開けて部屋に入り、息子に様子を聞きだす。
ウィーン
「どうだ、トウキョウの空気は?」
「・・・最悪、よどんでいて臭えな」
素直に答えないクリフ。
ここに連れてきてから一向に話す気がないようだ。
数年の空白でお互い変わっていたのは分かっていた。
当然と言わんばかりに冷静に対処するグラハム。
「お前は然程嗅覚がなかったろう?
電離技術の発達で公害は減少しつつあるぞ」
「んなストレートな臭さじゃねーっての。
チラチラ様子ばかりうかがってる連中ばかりで、姑息な臭さだわ」
「相変わらず耳ばかりで周囲を見極めておらんな。
ここに連行させればそんな能力も無意味だと思い知ると思ってたが、
規模を直に観れば理解できるはずだろう、分からず屋め」
「取り柄っつうのは場を乗り切る大事な手に決まってんだろ、
場所なんざたまたまで最後に活かせるのは自身なんだよ」
「耳だけで軍事行動が賄えると思ったら大間違いだ。
どんな少数精鋭でも超大人数には勝てん。
そんなんだから、見す見すアブダクトされたんだ。
少しは立場も考えろ、バーカ」
「お前もバーカ、ついでにハゲ」
ガシャン
クリフを掴み上げ、壁に叩きつける様に張り付けた。
「この後に及んで、まだ強がってるのか?
私がああまでしてお前を連れてきたというのに、身の程知らずが」
「強がりはお互い様じゃねーか、チバから逃げたクセによ!
どこに行ったかと思えばよりによってトウキョウだなんてな。
裏切って勝手に亡命しやがって」
「ここに来なければならなかったんだ、当時の私は向こうにいられず
命辛々どうにか生き残れた」
「ビビッてトンズラしただけだろうよ、ガタイの割に足だけ速えし。
俺も昔はそうだった、だから20代で内地に入れたんだろうな。
あーあ、どっかの誰かさんに似ちまってるのかもなー!」
「お前は母親似だ、似た者同士で何よりだろう?
ならば、あいつに物申させれば良かったかもな」
「もういねえぞ、俺1人じゃ無理だった。
なんなんだよ、あの時は? 敵性反応もなくイキナリ銃声がして。
必死に耳かざそうが距離感も近すぎて味方が襲ってるみてえだった。
どっから弾が飛んでくっかなんて分かるわけねえしな」
「あの時は――!」
「壮大なる内輪揉めでお袋を助けられなかったからな!
あん時、俺は俺ながら必死に抵抗した。
親父がいれば助けられたんだ!」
「ああそうだ。だが、ああなった根本の源を解決せねば、
何度も同じ過ちを繰り返すぞ!
今のチバはさぞやそんな身内揉めが無くなったろう?
だから、人種選別が必要なのをいい加減に分かれ」
「分かんねえな!
人種だとか、イチイチくだらねえ差別にこだわってる気持ちなんぞ!」
「なに?」
「トウキョウが今まで動いた理由はそんなんだったのか?
なら、さっさと支配してパッパと人種とやらの
整理などなんでもすりゃあ良いじゃねえか!!??」
「・・・・・・」
ドサッ
グラハムはクリフを放り捨てる。
部屋の外で部下も様子をうかがっていた。
息子に正論を突かれて部屋の空気が静まる。
また怒鳴られると思いきや、静かに語りだした。
「人口過多は混沌を生み出すのが常だ。
整理整頓はなにも物だけに限った話ではない」
「・・・・・・」
「最も膨大な数のここより、乱れ無き整列を目指している。
いい加減に諦めてこちら側に来い。
今日はもう良い・・・猶予を与えてやる」
グラハムはいつもこんな感じでクリフと押し問答をしている。
トウキョウまで連行してわざわざここで待遇表現しようとも、
彼の説法は息子の耳には届いていないようだ。
出ていく寸前、クリフに一言のみ言い放った。
「選別、それは国にとって重要性の高い決断設計だ。
叶わなくば、真の統合は永久に来ないぞ」
ウィーン
父親は立ち去った、こんな憂鬱になるのも久しぶりだ。
部屋の広さは7mそこいらの世界に変わり、営巣に入れられる気分。
内心にチバの皆の事を気にかける俺の中には
レッドも内側の1人として案じていた。
(レッド・・・)
上層階 とある端末室
(やはりおかしい)
ベルティナがデータベースのページを観て目を細めてゆく。
端末で確認する度に不可解さがにじみ出てくる。
内容はアメリア副司令の書類の盗難の件で持ちだされた経緯が
あまりにも大胆すぎて影だけ行動している様なやり方だった。
監視PDの停止、入室履歴の改ざん、中層の誰もできるはずのない
手口にありえる線は明らかに普段からそこにいる者の犯行。
下水道に侵入された時もアメリア副司令の製造したゲッコのセンサーのみ
抜き取られていたのも現場配置させた者の中にいたはず。
当然、下級兵は機体構造を知らない。強引に外そうものなら警告ブザーが
鳴ってPDに取り押さえられるようになっているから。
つまり、盗みだせるのは権限あるNoのついた者だけという事だ。
しかし、これ以上の証拠がいつまでも見つけられない。
洗いだそうにもそこから一歩先がどうしても不明で監視の目に捉えられない。
直接的な姿を発見できないのなら周辺に携わる者の動きを観たら?
トウキョウ全兵の言動を改めて目を通していると、ある者が見つかった。
(ん、こいつは軍備計画局の?)
トーマスチームに所属している工作兵の発言を目にして疑惑、
ログを調べていると知りえていないはずの内容を同僚に語っている。
ヒデキも知らない事を何故知っているのか?
これはかなり大きな手掛かりとなる可能性があるとマークした。
横のPDから連絡。
「「No8、ヴェインから連絡が届きました」」
「後で連絡する」
直の上司や同僚にすら相談するのも危険と判断。
同僚の知らせを無視してまで入念に調べ上げていく思惑はとめどなく、
他人を当てにしない方へ向く。
(疑似餌が必要だな)
ある1つの作戦に打って出ようとする。
内側に疑いをもった私は連絡網をさらに縮める必要性有りと、
独自の行動を取り始める算段にもっていこうとした。
あのアメリア副司令にですら内密に行動をとるのは、
自身意外の全てに疑いをもってしまっていたからだ。
中層階 交通局廊下
「G-114のエリア、ここね」
セレーネは中層階のあるフロアへ向かう。
モブ兵Aから教えてもらった赤いライオットギアの所在を知っているという
人がいるらしいここ、交通局に来ていた。
ラボリのないほんのわずかな期間を機に、個人的好奇心を抱えつつ
1人だけで目的の一角へとたどり着いた、が。
「うっ」
頭痛がする、最近になってからは時々痛むようになっていた。
医療班に診察してもらっても原因は分からない。
神経質の多いここで起こる偏頭痛は何も珍しい事ではなく、
少々無理しすぎているだけだろうと、自分に言いきかせながら行動を続ける。
人の少ない部署に入り、デスクワークしている男に近づく。
「あなたがラメッシュさん?」
情報屋とよばれる男に接近した彼女。
名はラメッシュといい、トウキョウ中層兵兼情報屋の肩書きを
もっている者だ。
「俺の事をどこで知った?」
「3年前のラボリの記録からです。
あなたが的確に敵性CNの経路を当てた事、
元土地開発整備の隊長を務めていた事。
それで、噂話も加えて知ったので・・・」
自分はAから教わったのを一度秘密にして、
過去の記録からキューブセクションに詳しい人物を探していた。
とても上層部にかけあえるはずもなく、妹に聞いても知らぬ存ぜぬの
一点張りで他にあてもなく、自分の介入が容易い
“横や下の者達”から探すしか方法がなかった。
実働部隊の多い中兵ならばと、しらみつぶしに調べて
行き着いたと言えば疑われにくと推測。
「ああ、あの赤いタイプの話か・・・知ってるぜ」
「そ、その話についてですが・・・え~と」
続きを話したかったが、背後にはPDが張り付いている。
ベルティナより機密事項とまで言われたものだけあって、
1つでも余計な口を挟むと上に通報されてしまう。
ここに来たものの、そこから何の対策を考えていなかったので
口ごもってしまった。勘取った男は何かをしている。
「後ろにいる奴だろ? そいつはこうすれば良い」
ブシューッ
「これは!?」
男が置いた人形の風船を膨らませた。
次の瞬間、彼女のPDの顔が横向きに変わったのだ。
「ただの風船じゃない、有機ガスデコイ、ミミックオクトパスだ。
PDの検知センサーを任意に向けさせるモンだ」
「すごい・・・」
PDは人間と違い、意志をもたない。
情報の目を別に向けさせる事で、余計な詮索をさせなくする。
指向性マイクも誘導させ、声も拾えないという。
奇妙な技術をもつ男は一時の発言する自由を彼女に与えた。
「もう好きなだけ話しても良いぜ」
「は、はい。赤いライオットギアがキューブセクションの
どこかにあるらしくて見つけたいのですが?」
「教えてやっても良いが、タダじゃないぜ?」
「何P必要ですか?」
「そうだな、報酬は・・・お前だ」
「わ、私!?」
「おっとと、言葉が足りなかったな。
お前の所属する部署から上に関する内容の情報だ。
それが報酬だな」
「「個人情報・・・・・」」
トーマスチームの情報と引き換えだと言った。
同じ部署に関する者達について何かを流すのを迫られた。
自分に気の迷いが漂い始める。
しかし、頭痛を足した己の利に判断力を低下させてゆく。
言いようのない機械的欲求が心臓部分を高まらせて、
好奇心が上回ってしまったのだ。
「・・・分かりました、エンジンS型に関しての書類を送っておきます」
「S型?」
「私の規格したドキュメントですが、これで良いですか?」
「こりゃあ、スゴイ。こんな動力源など俺でも初めて見る。
交渉成立だな、このコードだ」
「ありがとうございました」
結局、渡してしまった。
上層から携わる技術の設計図を差し出して、
見返りにパスワードが書かれたメモを受け取った自分はさっそく
下のエリアへ向かって行った。
下層階 キューブセクション
言われた通りにセルガーデンの一角に着く。
立方体の部屋の集まりで、操作すると丸ごと移動する仕組みだ。
ゴミ置き場、資材置き場、兵器の保管、様々な用途にある。
区画の端末から入力、そしてその一室に侵入する。
そこには1つの機体が置かれていた。
「「これが・・・赤いライオットギア」」
目の前には雑に置かれた深紅色のライオットギアがある。
期待の赤い機体は確かに存在していた。
幾何学かつ奥深い複雑な階層に潜んでいた物の話は本当に実在。
色はおろか、質も違う表面の艶からして姿形は明らかに
トウキョウ製造とは異なるフレームだ。
「理由は分からないけど・・・惹かれる」
ここで秘密裏に製造されていたのか、
こんな小さな一角で従来のタイプとは逸する存在感に
自分は息を呑み、鼓動も高まってゆく。
表面からは見えないボディの内部はきっと綿密な制御基盤や動力源が
備えられているに違いない。いつの時代か、工程はどの手順か、
ただの姿によらず製造過程も思慮に入れて気持ちが交えている。
それをこの手で分解してみたい、誰かが構築したのにそう思ってしまう。
フレーム端を手で触れて、高まる感じが治まらなくなる。
まるで別世界の来訪者の様に見続けている内に、
予想もしない出来事が起きてしまう。
「姉さん」
「ヘスティア!?」
そこにいたのはヘスティアだった。
軍事執行局実働第1部隊長、そして自分の妹でもある。
最近、ほとんど顔を見せずに仕事を続けていたのはここ、
キューブセクションを調査するためでずっと籠りきりだったらしい。
彼女の表情は険しく、あたかも見られては不都合な顔で叫ぶ。
「どうしてあなたがここに!?」
「「え・・・私は・・・」」
応えられるはずがなかった。
半ば興味本位でに侵入してしまっただけに、
今更こんな勝手な行動を明かせられない。
とはいえ、軍事執行局もなぜ巡回していたのかも不審で
せめて、妹がここにいる理由を聞き返して逆に場を凌ぐしかないのだ。
「ヘスティアこそなんでここに・・・?」
「ラボリでここの管理を任されていただけです!
No7のロスト、スパイ容疑、下層階侵入、近日の事件が相次いで
トウキョウ内部の汚職が発生していたのは分かっているでしょう?」
「それをどうして軍事執行局が?」
「私はただ指示に従ってやってきただけの事、管轄外の内容で
そんなのあなたには関係ない事です!」
妹は断固して理由を話そうとしない。
軍事執行局も色々と不審な動きをしていたのに、
姉妹どうしのお互い様事情は平行線をたどるかと思っていた時、
自分の意見をのまずに、強硬手段に打ってでた。
「それは違うわ、私はこんな所で――!」
「こんな所でコード入力してすんなり入室したと?
それに、ここはNo管轄の一室で私達ですら開けられなかったルーム。
軍備計画局No5の部屋をどうしてあなたが?」
「え・・・アーゲイル副司令の!?」
「とぼけないで下さい!
このレッドカラータイプは未だかつてトウキョウ、サイタマ、カナガワ
でも製造されていない物で100年もの期間ですら一切なかったはず」
妹の発言を耳に自分も唖然とする。
この深紅なる機体は所属最高責任者の所有物だった。
確かにヒストペディアでもどこのCNでもこんなタイプはなく、
元からトウキョウでこれを造る計画なんて公開されてもいない。
でも、こんな所でひっそりと保管されていたのは本当だ。
ならば、噂は誰が広めたのか、中層兵がおいそれと入れないなら
実際広めたのはNoの誰かしかいないはずだ。
アーゲイルが隠していたのなら噂にするなんていうのもおかしい。
ならば交通局で捜査している内に偶然発見したとしか思えなかった。
ラメッシュより引用して関わる誰かが、でも、そんな事は話せない。
これ以上言葉も出ずに立ちすくんでしまう。
次に情け無用な言葉を通してきた。
「密造はCN法より違反行為の1つです。
キューブセクション内部にてスパイ活動、No7ロスト関与容疑より、
これより査察、検察を行います!」
「待って!」
ヘスティアはエレベーターで上がっていってしまった。
間もなく数人の兵とPDが駆けつけ、
自分はバインドされて連れていかれてしまう。
部屋内には残された赤い機体のみが依然と敷かれている。
連行してしばらくするとそこの区画はまるごと動き、
別の場所へと移動して向かって行った。
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