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1章 トウキョウ編

第8話  電子箱

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中層階 軍備計画局 トーマス部署

(装備はいっぱい持っていきたい。だけど、スピーディーに立ち回りたい。
 収納スペースをもっとどうにかできないかな~)

 ヒデキは前回の作戦の反省点を振り返っていた。
不可能を可能に換える過程を導き出すのも頭脳労働。
どうにもならない事をどうにかするのが、情報収集国家である
トウキョウCNの最大の強みだ。
手で奇妙な収縮的ポーズの仕草を気付かずにしてしまい、
隣の席から見ていたセレーネがこちらを振り向く。

「コードに異常でもあったの?」
「うえっ、な、なんでもないってば!」

ボクの苦虫をみ潰したような表情を観られていたようだ。
ライオットギアのAIプログラムを組みながら、
ちゃっかりそんな事を考えている自分も自分だ。
今はトーマス部署の皆には聞かないでおこう。


上層階 特別医療室

「この青いのはオーロっていうんだ?」
「そうさ、最近導入した優れモノの物質だ。
 エネルギーかつ情報も含むスゴイ物なんだ」

 今日もアルビノの子らとコミュニケーション。
自分が造ったわけでもないのに、さも自慢げに語る。
今、トウキョウで話題のAUROについて話すと、
ロールという子が関心を示す態度にでた。
この子は科学に関して興味があるみたいだ。
そこを逃さす説明して促してあげよう。

「エネルギーだから火みたいに燃えてるの?」
「火というか電気だね、情報を含むものだから。
 機工的に融通が利きやすいみたい」
「どうして電気なのにCPUが入ってるの?」

CPUは知っていたのか。
しかし、ボクもAUROを完全に理解していないから、
専門用語なんて話してもできるはずもない。
彼女達でも分かりそうな例えで最もらしい答えを言う。

「電気には+-があるから、情報の基の0と1を
 粒子状態中に詰めているものなんだ・・・っけな」
「どれくらい、いっぱい入ってるんだろうね」
「目に見えないくらい多いね、
 原子レベルに小さいから、それはもういっぱいさ。もういっぱい♪」
「それを、小さな箱にいっぱい詰めたらどうなるのかな?」
「小さな?」
「うん、情報って物事を覚える事でしょ?
 でも文字や数字に形が見えないからどれだけ入るのかなって」

ストレージ容量の事を聞いてきたようだ。
0と1の置き場も当然電気素子だからAUROでも元は同じだろう。
でも、ロールの言い方はなんだか妙。
さり気ない会話の中で不意に引っかかるものを感じる。

 (密閉・・・狭い・・・ぎゅうぎゅう詰め)
「時間だ、今日はこれで終わりにする」
「はーい」

ベルティナが制限通告する。いつもの定時で、部屋を後にした。
だが、何かが心に残る。なんだろう、さっきの彼女の言葉。
理由はないのに、引っ掛かる感じがする。


翌日 軍備計画局 トーマス部署

 また今日もプログラミング作業だ。
あまりにも同じ毎日で少し退屈に感じる時がある。
たまにはこの前のように違う雰囲気を味わいたい。
敵兵の侵攻がやってこないかなと不吉ながらも期待してしまう。
セレーネがとあるコードに疑問を持ちだした。

「今更だけど、データ圧縮って不思議よね」
「軽くしないと、すぐにフリーズして重くなるしね」
「新型CPUボード開発よりもアップデート処理の数の方が
 多すぎるんだよな。上はこっちをどうにかしろっての」
「「ちょっと、PDに――!」」
「「やばっ!」」
「AUROの力でもっと圧縮できれば良いのに」
(AURO・・・圧縮)

脳内で何かが弾けた。ロールとセレーネの言葉が重なり、
ボクの頭の中で新たな創造物が生み出そうと脳内物質が産声を上げた。

ガタッ

「物質を折りたためるケースを造ってみるか!」
「え!?」

立ち上がって叫ぶ。
メンバー達は呆然とした顔でこっちを見続けた。
また周囲もはばからずにうっかりして発言してしまう。

「ゴメンゴメン、気にしないで作業を続けてねー」
「また何か良いアイデアでも浮かんだのかい?」
「まあ、そんなものです。詳しくは今度で♪」

主任に適当なはぐらかしをする。
今は単なる妄想設定という扱いで済ませておく。
とはいえ、本当に実現できたら運搬業界もひっくり返せそうだ。
中に物をありったけ詰められるカバン。
夢の様な技術が彼女達のワードによって叶えられそうになる。

ただ、これに関しては十分な資料が足りなすぎる。
AUROすら、ろくに見識が深まっていないんだから、
アメリアチームにボクのアイデアを聞いてもらうしかない。
アルビノ3人衆の世話ついでにまた相談してみようと
作業が終わり次第、すぐに上層階へ向かった。


また上層階

「AURO収納ケース?」
「はい、備品収縮についてちょっと考案していまして。
 仮説ですが、分子構造をAUROと併用して質量圧縮。
 カバン程度の大きさの中に装備品を膨大な量に詰め込められる物です」

 ボクはアメリア副司令にさっそく提案。
ヒストペディアでカイラル理論について少し調べてみた。
物質とエネルギーの対称性は完全に等しくなく少しのズレが生じて
折りたたんだり、片方がはみ出したりする。
てのひらを合わせて長さが少しズレるみたいなもの。
AUROは物質であり情報の電気エネルギーでもある。
つまり、装備品の電子情報を解析整理して粒子状から制御された
箱内に装備品そのものを圧縮してたくさん入れる。
それが可能な技術が、ここトウキョウCNならできそうなのだ。
副司令はボクが作成した書類をジーッと見つめている。

「・・・・・・なるほどなるほど」
「・・・・・・できそうですか?」
「やっぱりアンタをこっちに呼んで正解だったわね、ホントに可愛い子♪」
「うぐっ!?」

No3に抱き着かれた、アレが柔らかくて力が抜けそうになる。
顔が自分のすぐほおまで近づく。
美貌びぼうだから嬉しいようで・・・撤回、やっぱり少し怖い。
こんな状態で彼女はボクに注意を促した。

「「すぐには無理ね、AUROを管轄するのはNo5だから
  彼に許可を取ってからよ」」
「「そ、そうですか」」
「「1つ言っておくけど、彼とは接触してはダメよ」」
「「その人に何か問題が?」」
「「身元出身が不明なのよ。
  しかもAUROの技術を提携ていけいしたのも彼。
  下手に関わると何をされるか分からないから、十分に気を付けなさい」
「・・・・・・」

ここで意外な事実が発覚した。
AUROの発案者が副司令官の5人目であるNo5だったのだ。
発電に関する研究に秀でた者らしく、最近になって上層階へ
鳴り物入りで上り詰めてきた新星だという。
どのような成り行きでここに来たのか分からないものの、
その人物こそ近日のトウキョウCNを発展させた張本人であった。

 (直接本人に聞きたいけど、危険人物なのか。
 トウキョウ遠征の数が減ったのもこれの影響?)

それでもボクの収納ケースも十分ぶっ飛び設定で、
すぐには実現できないなんて分かっていた。
AUROを研究する手立てのキッカケさえつかめば、
発明までの道はどうにでもなる。
このアメリアチームに移籍するのもあとわずか。
新規格に関しては後でジックリとやっていけば良い。

 (えへへ、これでNo10に成るまでリーチだな、ムヒヒ)

栄光の階段が見えてくる気がした。出世するのは気分が良い。
自分の手で生み出す世界程素晴らしいものはないのだ。
いっそのこと独自で新たな局を造ってみるのも考えてみる、
トウキョウトッキョキョカキョクでも設立しようか。
誰もいない所で調子にのってPDに手を振る。
そんなボクを無機物の人型は何も言わずに監視し続けていた。
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