ただ1枚の盾に。

小隈 圭

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2章 成長

二人だけの時間。

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 墓地に着いたハミィはそのまま奥へと進んで行くと、片隅に建てられている一つの墓の前で立ち止まってゆっくりと座り込んでそっと手で埃を払う様に撫でていく。

 「ここがそうなの……?」

 「うん、ここがみんなの眠っている場所……」

 俺の質問に答えながらも周辺の掃除をしていくハミィを手伝う為に隣にしゃがみ込み、雑草に手を伸ばしながら墓に視線を向けるが、特に名前などが刻まれている事もなく、ただただ墓石が置かれている様にしか見えない、本当にここに昔の仲間が眠っているのかと思ってしまうが、墓自体やその周辺は手入れをされているのがなんとなくではあるが解るぐらいに綺麗な状態で、彼女が何度も足を運んで管理をしてきていたのが窺える。

 「付き合ってくれてありがとうね……」

 草をむしり始めた俺の様子を見ながら手を止める事無くそう呟いた彼女は、優しく微笑んで本当に喜んでくれているのが伝わって来るが、今の俺の心境としては自分がここにいていいのか? とも思ってしまう、彼女の言葉通りなら今日は昔の仲間が亡くなった日で、会いに来るにしても俺は邪魔になってしまうのではないかと思うのだ。

 「ここまで来ておいてなんだけど、本当に俺が一緒で良かったのか? 仲間との時間に部外者が立ち入る事になるし、やっぱり遠慮した方がよかったかな……?」

 「そんなことないよ、一緒に来てほしいって言ったのは私だし、勝ってな事だけどコウの事を皆に紹介しておきたかったの、と言ってもここには一人しかいないんだけどね……」

 ハミィの昔の事はギルドのラミアスさんから少しだけ聞いた程度で、仲間が何人いたのかは聞いていない、確かその亡骸はかなりひどいものだったと言っていたし、回収する事が出来ないほどの状態だとその場に置いておくしかなかったのだろうか。

 「ここに眠っている人の名前はなんていうの……?」

 「名前はレイ、アレス、トウっていうの、そこに私も入って四人で組んでたんだけど、三年前の事があって、私以外は皆死んじゃって……ここに埋葬出来たのはレイの遺体だけ、後の二人はダンジョンの奥でそのまま処理されたとしか聞かされてないの、だからここに眠っているのは一人だけなの」

 「そう……なんだ……」

 話終わった後でそっと墓石に手を触れさせて悲しい顔をする彼女の頬を涙がゆっくりと流れ落ちているのが見え、自分自身でさえも何故こんな事をしたのか解らないが、自然とその涙を手で優しく拭ってから頭を優しく撫でている俺がいた。

 
 「コウ……?」

 頬に手を触れさせた時に驚き、そのまま頭を撫でられる時には呆然としていた彼女からは自分の名前が出ていて、おそらくこの行為の意図を聞かれているのだろう、しかし俺自身なぜこんな事をしてしまったのかが解らないのだ、胸の奥を締め付けられる様な感覚以外には……。

 「ごめん、なんかこうしたかったみたい、勝手に手が動いてたって言えば信じる……?」

 「フフ、何それ、でも今はその勝手に動いてくれた手に感謝しようかな、すごく……胸の奥が温かくなる気がするの、それはそうとあまり女の子にこんな事しちゃ駄目だよ? 勘違いする子もいると思うからね!」

 頭を撫でられながら少し頬を赤く染めて目を瞑り、気持ちよさそうにしていたのだが、急に真面目な顔になってそんな事を言い出したハミィだが、昔の仲間とはこういった接触がなかったのだろうか? いい期会ではあるし聞いてみるのもいいかもしれない。

 「あのさ、昔の事を聞く様で悪いけど、他の三人とはこういった接触はなかったの? 聞いた感じだと男三人の中に女の子一人だし、色々あったんじゃないかと思ったんだけど……」

 「そんな事はないよ? 接触っていっても肩組んだりはした事あるけど、今みたいに頭撫でるのは誰もしてこなかったし、まぁ何かしらの協定みたいな物があったのかもしれないけどね」

 「協定?」

 「あぁ……えっとね、その~なんというか……」

 急に歯切れが悪くなったハミィは先ほど涙を拭った頬を指先で掻く様になんどか動かして俺を見ているが、見られている俺としてはどういう事なのかも解らないわけで、そんなに見られても困ってしまうのだ。

 「えっとね、昔の事、昔の事だから! 気分悪くしないでね! えっとね、私以外は男の子なわけで、私も今とは違ってちゃんと女の子だったから……三人から告白はされたの」

 まぁこの世の中には基本的には男と女しかいないわけで、なにかしらの特殊な人物以外は当然、そういった感情が出て来るのは当たり前だろう、しかしそう何度も前置きをしなくても大丈夫なのにな。

 「いや、まぁ大丈夫だよ、それで結局は誰を選んだんだ?」

 「……誰も選べなかった、もし誰か一人を選んでしまうとその時の私達の関係が壊れてしまいそうで怖くて、結局選べないままお別れしちゃったの」

 「そっか……」

 「だから次はちゃんと答えたい、その時になってみないと解らないし、この呪いをどうにかしないと女の子に戻る事もできないけど、次はちゃんと相手に答えたい」

 真っすぐに俺の目を見ながらそう伝えてくれた彼女の言葉はどう考えても俺に言っているみたいで、それを思うと自分の顔がまるで燃える様に熱くなっていくのを感じて、彼女の顔を直視出来なくなってしまった、中身が女の子ではあるがその外見は男なわけで、そんな彼女にひかれてしまう自分自身の事ももはやなんだか解らない。

 「あ、え、えっと……そ、そのね、そういう事だから! だから、ちゃんと……私の事も見てて欲しいの!」

 「う、うん……解った」

 傍から見れば墓地で顔を真っ赤にしている二人が体は向き合っているものの、お互いに顔を見せない様に背けていて、どうしたら墓地でそんな状態になるのかなんて理解出来ない事かもしれない。

 「えっと、とりあえずは呪いの事も調べて、戻る事を考えて行こう、今のままだとお互いにどうする事も出来ないしな」

 仮にもし今の姿のままどうにかなってしまう事を想像すると、それはそれでなんとも言えない気持ちになってしまうし、その後でハミィが元の姿に戻りでもした場合、もはや俺自身わけがわからなくなってしまう気がする。

 「そ、そうだね! とりあえず、今日はありがとう付き合ってくれてありがとう! コウも疲れてるだろうし、今日は帰ろう!」

 なんとなくお互いに気まずくはあるが心地よい雰囲気を感じて二人で並びながら墓地を後にして、その日はそのまま宿へと戻り、ハミィとのひと時を思い出して身悶えながら眠りについた。




 翌日、待ち合わせ場所であるギルドの前まで来るとやけに中が騒がしく、何かあったのかと覗き見るがその先に広がっていた光景に俺は――。
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