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その37
しおりを挟む待っている間に寝てしまっていたのか、目覚めたら強く抱きしめられていた。その腕が鳴り続けるアラームを止め、再び眠りにつこうとする。
赤みがかった髪は、金髪の時よりも少し硬くてコシがある。よく見れば、すっぴんでもまつ毛が長くて、薄い唇は赤かった。童顔よりの顔立ちだから、眠っていると美少年に見えた。
「えー、めっちゃ可愛いじゃん。」
千歳は、柔軟にこの状況を受け入れていた。
ー今度、光大さんにも抱いてもらおう。交互にするのもありだし、さえちゃん先生に嫉妬されてる体もいいよね。
さすが美月の親友、文芸サークルに所属しているだけある思考だった。
ストーカー事件が落ち着き、西両親への報告も済ませ、あとは美月に伝えるだけ。
千歳は大学のカフェで事のあらましを話していた。
「うっそ、本当に?!えっ?!」
美月は頬を赤く染めて、驚きつつも大喜びしていた。
「うん、私もびっくりした。」
「やだあ、ちいったら!最高のネタをありがとう。たまんないね!」
可愛い顔がゲスの表情を浮かべている。
「それにしても、もうこれからは安心だね。バイトもできるじゃん!」
「うん!やっと金欠からの卒業だよ!」
「あれ?登下校はもう一人?」
「今日から一人で来たよ。」
「寂しいんじゃない?」
「うん、それはまあ。でも、家に帰ったらいるし…」
「そうだよね、思い立ったらすぐえっちできるもんね。」
ニヤニヤしている美月を無視し、紙コップを捨て立ち上がった。
「西くんにも改めてお礼しようと思ってて、今から行くんだけど来る?」
「暇だから行くー!」
美月も紙コップを捨て、千歳の後について行った。
久しぶりに西のいる研究室に入ると、資料や道具が散乱しており、なかなかの光景になっていた。
「わお。」
「これが修羅場か。」
立ち尽くす二人に、西が笑って答える。
「いや、ちょうど終わったところだよ。」
ボサボサの髪はそのままにして、マグカップからコーヒーを飲んでいた。
「俺も手伝わされたんだよ。」
奥から聞こえた声に反応すれば、ソファにグッタリと横たわる姿があった。
「光大さん?!」
「えっ、本体?!」
ゆっくり起き上がり、柔らかく笑って手を振る。
美月が千歳を肘で突いた。
「ちょっと!面影無しな上に、クソオシャのイケじゃん。」
「そうなんだよね、だから私もめっちゃびっくりしたんだよ。」
「あれが美少女になって、千歳を犯すのね…たまらん。」
騒つく二人をよそに、光大がそばに立った。
「俺、安楽椅子探偵なのに、何でも屋みたいに使われるんだよね。」
白いワイシャツに長い丈のカジュアルジャケット、ライトブルーのオーバーサイズのズボンから、細い足首がチラ見えしている。
明らかに爆モテ系のオーラが出ていた。
「何で光大さんの方で来てるんですか。」
「この部屋でふわふわの服を着てたら、引っ掛けたり汚したりするでしょ。さえちゃんに怒られる。」
にこっと笑ってそう言うと、千歳を引っ張り腕の中に閉じ込めた。
「わっ!えっ、何?!」
「きゃー!ここでラブシーン始まっちゃうー?!」
「おい、そういうことは家でやってくれ。」
三者三様の反応に、声を出して笑った。
「ねえ、優雅。星乃のこと、話してもいい?」
「光大がいいなら、構わないよ。」
グッと腕に力が入り、光大のアゴが千歳の肩に乗った。
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