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その12
しおりを挟むさらりとした長い金髪が、頬に触れるほど近づいてくる。
こんな事態に遭遇するのは初めてで、心臓は痛いし顔は熱いし、変な汗をかいてきた。
「まっ、まだ会ったばかりなのでダメですよ!!」
動揺して口から出たのは、そんな言葉だった。
「ブッ!」
クックッと声も出さずに笑う、さえちゃん先生は悪い顔をしていた。
「時間をかけてお互いを知ったら、良いの?」
「えっと、えっと…」
確かに言われた通りだ。
会ったばかりでなければ、親交を深めていけば、自分は彼女とそういう関係になっても良いと思っているのだろうか。
「ストーカーは千歳のそういうところを、好意だと勘違いしたのかも。キモすぎて地獄に落ちろって感じだけど。」
「そ、そうですか…」
もしそうだったら、本当に迷惑でしかない。
「ま、私は勘違いしないから安心して。」
「色々、気をつけます。」
「それがいい。あ、1週間の時間割、教えて。あと今日は何時に出る?」
「今日は、あと1時間もしたら出る予定です。」
さえちゃん先生は静かに頷き、デスクに戻った。
話はもう終わりなのだろうと思い、預かった領収書を抱え、大学へ向かう準備を始めた。
さえちゃん先生に見送られ講義室に入ると、待ってましたとばかりに美月がやってきた。
「ねえねえ、ちい!私、気づいちゃったんだけど!」
「え?」
バッグを下ろしてテキストを机に置く。ルーズリーフが終わりそうだから、購買で買わなければ。
「さえちゃん先生って、ちいが探してた何でも屋さんじゃない?」
謎は全て解けた!という顔で、美月が仁王立ちをしている。
「西くんが話してた、何でも屋さん!探しても見つからない、何でも引き受ける、代金は時価!ね?ね?」
どんな人物がやっているのか分からない、店舗もない、ホームページもなければSNSもやっていない。
あるのは、西くんの情報のみだった。
「…そうかも、えっ、そうじゃん!何で気づかなかったんだろう!」
「ちいは、テンパってたから仕方ないよ。灯台下暗しだったねえ。」
「時価って言われた時点でピンと来ないんかいって感じ。」
察しが悪い自分に呆れる。
隣の席に着いた美月は、ニヤニヤしている。
「で、報酬の支払いは何になったの?」
「領収書の整理です!」
「ええー!キスもえっちも無し?!美少女と貝合わせはー?」
「ちょっと、声が大きいってば!」
普段は千歳の言葉警察をするくせに、自分は卑猥なことをポンポン明け透けに言うのが美月だ。
「つまんないよー!もっと倒錯的な感じになったら良かったのに。」
「…からかわれはしたけど。」
「どんな?!」
嬉しそうに声が弾む。
「えっ、キスしたいならしてあげるけどって言われて、ふざけられて笑われた。」
「してもらえば良かったじゃん!あんな美少女とできるチャンスないよ!?」
「いや、私、ストレートだし。」
ドキドキしたのは本当だけど。
「もったいない。次、もしからかわれることがあったら、体験してきて。そして感想を教えて。」
「ないない!」
そんな話をしていると、教授が部屋に入ってきた。
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