【R18】新入社員ヤンデレエルフの、教育係になりました！

第48話

　しばらくよしよししていると涙も止まり、少し鼻をぐずつかせながらもまた話し出す。
「あの男は、春を覚えたての猿のように手を出し、あまつさえ可愛らしいサーヤに対して無礼を働き……ああやはり、この手で消し去れば良かった」
「ダメだから、法的にも倫理的にもダメだから！」
「私の力を持ってすれば、証拠を残さず消し去ることも可能なのですよ、サーヤ」
　にっこりと微笑むティルが怖い。
「うんうん、気持ちは分かったから。私の為に手を汚すのはやめようね。それにしても、何で就職してるの？お金あるなら働かなくてよくない？」
　あの家で過ごしていた時は、お金に困っていそうな雰囲気はなかった。
「サーヤの近くにいませんと、また変な人間が寄り付きます！私が守らなければ」
　十分、変なのが寄り付いている、と沙彩は思った。でも、目覚める前と後だと生まれる感情が違う。今はどちらかと言えば嬉しい。
「えっと、うん……そっか」
　ゆるむ口元を隠すようにティルの胸元へ顔をつける。
「サーヤの仕事をずっと見ていましたから、大体のことは分かりますし、あとは実践あるのみというところでしたので、業務自体は問題ないかと思いました」
「うん、覚え早いなって思ってた。何年も私の業務見てたら、そうなるかあ」
　今更ながら、ティルの持つ力と年月に途方もなさを感じた。
「ねえ、ティルって二つの力を持ってるって言ってたでしょ。もう一つって何？それで仕事ができてるとか、そういうこと？」
　沙彩の背中をティルの指がトントンと優しく叩く。
「そちらは一族の力でして……サーヤをこちらの世界に戻すことができるほど、強いのです。使い方を間違うと、とんでもないことになるので、普段はあまり使いません。サーヤに対して使ったのは、初めて出会った時に言語が認識できるようにしただけです」
「へー……」
　沙彩の気の抜けた返しに、ティルが自嘲気味に笑う。
「願いを込めて歌うだけで、他人を思い通りに動かせるのです。恐ろしいでしょう」
「あー、そういうやつか。政治的に利用されそうだね、あと迫害受けたりとか。スーパーパワー持ち主人公のアクション映画にありそう」
「ふふ、そうですね」
　沙彩が思い出したのは、ティルがあの寂しい湖畔で一人、暮らしていた景色だった。料理くらいしか楽しみがないと言っていたことに、切なさを覚える。
「ティルは、私に対してちょっとおかしいけど、静かに100年も生きてたの？」
「そうですね、サーヤが来るまではそうでした」
「おっと、私のせいか」
「はい、サーヤのおかげで楽しい日々です」
　楽しいなら良いのか。
　ほっとしたところで、疲れが出たのか眠くなってきた。
「話の続きはまた後で、明日も仕事だから寝て良い？」
「もちろん。おやすみなさい」
　ティルの声を聞き終わる前に、気絶するように眠りに落ちた。