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第2話
しおりを挟む上司が沙彩を呼び、ダークエルフらしき新入社員と引き合わせる。
「今日からしばらく、七五三木(しめき)さんが研修を受け持ちます」
「七五三木です、よろしくお願いします」
顔を上げると、やっぱりダークエルフにしか見えない。
中肉中背の上司より背が高く、すらっとしたモデル体型。顔もエルフよろしくヨーロッパ寄りの造形をしており、長めの髪はオールバックに整えられている。
バーガンディのスリーピースを着こなし、穏やかに微笑んでいるダークエルフが、私の手を握った。
「どうぞよろしくお願いします」
挨拶もヨーロッパスタイル。
「午後の研修について、簡単な説明をしますので、こちらへどうぞ」
周りの女性社員達の視線が、ダークエルフへと向かっているのを感じながら、ミーティング用の席へ移動する。社内はオープンスペースのため、どこからでも見ることが可能だ。
沙彩は不思議でならない。
どうして周りの人は、彼に対して違和感を持たないのか。ダークエルフが現実に存在するなんて、あり得ないことなのに。
まだ、なりきりという選択肢も捨てきれないが。
準備をしておいたノートパソコンを渡し、向かい合って席に着く。
「七五三木さん、下の名前を伺っても?」
予想もしない問いかけに、一瞬詰まった。
「…沙彩です」
「サーヤ!素敵な名前ですね」
なぜか嬉しそうに笑っている。
「ありがとうございます。では、さっそく説明を……」
「はい!よろしくお願いします」
それぞれのパソコンで資料を見ながら、基本的な業務フローと、これから研修していく内容を項目別にザッと紹介する。
覚えることはたくさんあるから、今はまだ無理して詰め込まなくてもいい。
「えっと、リングールさん」
「ティルと呼んでください」
沙彩をじっと見つめ、首を傾げて微笑む。
やりづらい……
「では、ティルさん」
「はい!」
滑らかに広がるような声は、透き通っていて聞き取りやすい。こんなところで会社員をするよりも、歌手になった方がいいのではないだろうか。
ダークエルフ歌手……ヴィジュアル系バンドのボーカルっぽい。人気が出そうだ。
ファンタジー色の強い歌詞とバラードの曲調でバンギャ達の心を震わせ、見た目よろしくダークでロックな曲では狂ったようにヘドバンを行う。
そんなヴィジュアル系バンド……
「サーヤ、どうしました?」
ボーカルの呼び掛けに意識が現実へと戻ってくる。
「あ、いえ。どうやって説明しようか考えてました」
うっかり妄想の世界に入ってしまうのが悪い癖。
沙彩は大きく息を吐いて切り替えた。
そういえば今、名前を呼び捨てされなかっただろうか。
「私の為に考えてくださって、ありがとうございます。サーヤは優しいですね」
やっぱり、呼び捨てされていた。
ヨーロッパスタイルなんだろうな、沙彩はそう思うことにした。
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