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しおりを挟む「前に日晴くんが、私がなりたい自分になったらいいって言ってくれたでしょ。なりたい自分って何だろうなって思った時に、色んな人と話せたら見えてくるんじゃないかなって思ったの」
今までは、私の隣に立つなら鏡を見て出直して来いって、数多の男どもに対して思ってきた。
でも、私はどうだろうか?
顔は自信あるけど、日晴くんが褒めてくれるほど、中身が詰まってないような気がして。隣に立っても恥ずかしくない自分でいたいって思った。
だったら、かっこいい私に変わらなくちゃ。
「すごく素敵だね」
「ありがとう、日晴くんのおかげなんだよ。まだまだ全然だけど、頑張りたい」
宣言してしまったからには、もっと気合入れてかなくちゃ!トライリンガルくらいを目指そう!
「倫音さんが頑張ってる姿ってかっこよくて、良いなって思うんだけど。こんなに綺麗でかっこよくて誰とでも話せたら、世界中がみんな倫音さんのこと、好きになっちゃうね」
「いや、それはない。美醜の価値観は千差万別だし、個人の好みだってバラバラだから」
アフリカとか南米に行ったら、また違ってくると思う。それに、私はゆうくんの顔が好きだけど、母親は父親が一番だと思ってるし、灯里は私の父親よりも、男装した私が良いと言っている。好みは人それぞれなのだ。
真剣に話していると、日晴くんが堪えきれずに笑い出した。
「え、何で?」
ウィンカーを出して路肩に停め、一頻り笑い終わるまで待機させられる。
「はー…倫音さんていいね」
「全然伝わらないけど、ありがとう」
車を停めたまま、日晴くんが私の方を向いて嬉しそうに笑う。
「倫音さんが倫音さんらしく、楽しそうにしてるのが一番だよ」
「そう?」
「絶対そう。それをね、俺はそばで見てたいなって思う」
急に胸がドクドク言い出した。
「倫音さんが笑ってると嬉しいんだ」
こ、これは…これは、もしかして…
首まで真っ赤になって俯いていると、エンジンがかかった。
「さ、帰ろっか」
「あ、うん」
家に着くまでの間、お互いに一言も喋ることなく静かに進んでいった。
春がやってきた。
桜は散り、コートは薄手になり、サークル勧誘が激しくなり、学内の男女が乱痴気騒ぎを起こす季節。
私と灯里は、学食の窓際の席を陣取って、オリエンテーションの資料を広げている。
「灯里、授業何取るか決めた?」
「うーん、まだ悩んでる。抽選次第って感じかな」
灯里は人気の講義を選択しているため、そこがどうなるかによって組み合わせを決めたいらしい。
「倫音ちゃーん!」
相も変わらず、懲りることなく、元気に星野がやって来た。
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