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ほとり編

(8) 気の周り過ぎる友人を持つということ前編

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乗り物って、乗ってるだけでも疲れるものなんだよ。と言っていたのは、母だったかな。
帰りの新幹線であんなに寝ていたのに、目覚まし時計が鳴るまで、一度も起きずに熟睡した。
お肌ツルツル、元気いっぱい、化粧のノリもバッチリです。
服装はもちろん、この前末ちゃんと買った赤いカーディガンに花柄のワンピース、濃いブラウンのレースアップショートブーツに、合わせた革のショルダーバッグでレトロ風。耳には花モチーフのイヤリングもつけてる。


さすがに、当日になるとちょっと緊張する。
灘くんとの、ちゃんとしたデートって初めてだから。
一応、髪も整えてきたし、服も末ちゃんと選んだから可愛いコーディネートだし。
あとは、胸張って姿勢良くして、笑って歩いてこ!
ガラスの反射に向かって、ニコリと笑ってみる。ちょっと引きつってるのは、緊張してるってことで一つ。
あー、動悸がドキドキ止まらなくて、手がブルブルする。やばい人だよこれ。

「お嬢さん、誰かと待ち合わせ?」

ビクッとして振り向くと、かっこよさ史上最高を更新した人が立ってました。
かっこよすぎてちゃんと見られません。すごくキラキラ輝いてます、太陽背負っちゃう男だわ。
思わず、顔を覆う。

「あ、はーい。待ち合わせしてるんで、ナンパは間に合ってまーす。」
「えー?どんな人、俺よりかっこいい?」
「あ、はーい。」
「本当?ちゃんと見てよ。」

顔を覆っている手を優しくどかされると、目の前に微笑む灘くんが見えました。
無理、死んだ。さようなら今世の私。

「あんたが大将だわ。」
「そりゃどうも。」

掴んだ手をそのままつないで、歩き出す。
体温高めで、がっしり肉厚で硬い手にギュッとされてると思うと、ドキドキしすぎて吐きそう。それにしても、肌がすべすべで気持ちいいな。

灘くんに連れられるままに歩いているが、このままだと遊園地の入場門に着いてしまう。
「灘くん、そっちじゃないの。レセプションに行くんだって。」
「え?そうなの?チケット引き換え券じゃないんだ。」
「うん、特別優待券なんだって。」
「ふうん。」
進行方向を変えて、レセプションに向かう。
ちゃんと会話してるんだけど、どっか違う方を見ていて、さっきから灘くんと目が合わない。

「灘くん、もしかしてさっきの茶番、自分でやっておいて照れてる?」
「いや、まぁ、うん。思ってたのと違う反応だったから。」
チラッとこちらを見て、口をモゴモゴさせている。
可愛いかよ…
「正直に言うけど、黒縁眼鏡は反則。」
「末さんが、絶対にかけて行けって言うから。」
末ちゃん…!!ナイスアシスト。さすが私の好みを熟知されてらっしゃる。

灘くんの服装は、赤いスニーカー、白いソックスがチラッと見えて、9分丈の太めジーンズに、白地に黒ボーダーのカットソー、インナーはネイビーのカッターシャツ、黒いリュックを背負ってる。
そして黒縁眼鏡、理知的ー!
スタイルお化けだから、シンプルなコーディネートでも、ハイブランド着てるみたいですね。
普段のスーツも素敵で好きだけど、カジュアルな私服もすごく素敵です。
はい、死んだー。

「木実だって…会社にいる時と違って…可愛いじゃん。」
こっちを上から下まで見ながら、タレ眉で微笑む灘くん。
やめて、恥ずかしいから!
息が止まって苦しい。空いてる手で胸を押さえる。
服、悩んで選んで良かった…頑張って良かった。嬉しくて泣きそう、化粧崩れるから泣かないけど!
「あ…ありがと…」
本当、無理。今日が人生最後の日なんだなって悟った。
末ちゃん、重ね重ねありがとう。

「灘くんだってかっこいいから。スーツも良いけど、カジュアルも似合うね。本当、かっこいい。」
「…言われ慣れないから、照れる。」
「えっ??言われてるでしょ?」
「俺以外にもいるし。それに性格がガキっぽいし。」
「いや、いや、それも含めてでしょ。何度か言ってるけど、仕事してる時なんて、はちゃめちゃにかっこいいよ?!」
「もう、いいって。ほら、レセプション着いたよ!」
今までで1番、はにかんでる。可愛い!これからも正直に誉め殺していこう。

空いているカウンターで、特別優待券を出す。
スタッフのお姉さんがバーコードを読み込み、チケットと首から下げるカードケースを渡してくれた。

「お待たせいたしました、木実ほとり様、2名様ですね。
こちら、本日のオープンフリーチケットと、オフィシャルホテルご宿泊の方用カード、及び専用ケースになります。チェックインの際は、こちらのカードをフロントにお渡しください。」

「えっ、宿泊ですか?」
「はい、木実様のお名前でご予約いただいております。」
にっこり笑顔のお姉さんを、ぽかんと見つめていると、灘くんが横からチケットとカードケースを受け取った。
「ありがとうございます。」
「どうぞ、良いひとときを。いってらっしゃい。」
びっくりしたままの状態で、手を引かれてレセプションを後にする。

「えっと、えー?あれ?宿泊って言ってたよね。」
「うん、そうだね。特別招待券だし、末さんがサプライズで予約してくれたんでしょ。」
「え、灘くん分かってたの?!」
「レセプションって言われて気づいた。」
「さすが詳しい。…あっ!」
「なに?」
「末ちゃん、下着を持って行けってずっと言ってた。」
だから前日まで、執拗に言われてたのか。納得。
「さすが末さん、木実のこと熟知してるだけあるな。」
「忘れっぽいと言いたいのかね」
無言でニヤニヤされた。
自分では大雑把だと思っていたんだけど、周りから言わせると、大雑把で忘れっぽい、らしい。

「灘くん、急遽泊まりになっちゃったけど、大丈夫?明日の予定とか…」
「うん、何にも予定ないよ。むしろ遅くまでいられるのと、オフィシャルホテルに泊まれることにテンション上がってるよね。」
確かに、ワクワクしてる顔。
感情が表情に現れやすいけど、常に一定の機嫌を維持して、且つ穏やかなのは、灘くんのすごいところだと思う。
「そっか、良かった。」
「木実こそ、明日大丈夫なの?その、女の子って色々あるでしょ?」
「あ、うん。予定ない。泊まりも、メイク道具は一通りあるし、下着あるし、明日の着替えくらいかな。何か足りなくても最低限はコンビニに売ってるから大丈夫。」
「そっか、着替えね…俺もだわ。」

入場門を通って、機械にチケットのバーコードをかざす。
スタッフさんに手を振られて、ご機嫌でモニュメントを通過。
季節ごとに変わるデコレーションは、今はピンクや黄色の花でいっぱい。すごく可愛い。

「どこいこっか?乗りたいアトラクションある?」
ニコニコ笑顔の灘くんが、顔を覗き込んできた。
ちょっと考えてから答える。
「クマが歌うのを見るやつ。」
灘くん大笑い。
「本当に?本当にそれ?いや、良いんだけど。待って、面白い。」
空いた手で目を拭う。そんなに笑う?
「子どもの頃、家族で行くと絶対にそれ見に行ってたんだよね。」
「思い出の場所ってことね。」
「いや、覚えてないし、なんで行ったのかも分からない。理由を知りたい。」
「んー、なら、それは夕方あたりに行こうか。」
「分かった!しばらく来てないし、灘くんのおすすめ連れてって。」
「よーし、張り切って行こう!」

ワクワクしてる灘くんに連れられて、まず向かったのがショーの抽選ブース。ショーを見ても見なくてもいいなら、取り敢えず引いた方が良い、引き得なんだよ!って言ってるのを見て、この人本当に好きなんだなって思った。
結果、15時開演のミニショーが当たった。
「これ、最近リニューアルしたやつだよ。ラッキーだね。」
「そうなんだ。ショーってあんまり見たことないんだけど。」
「んー、楽しみにしてて。」
ニカッと笑うご機嫌な灘くん、可愛い。

それから、ジェットコースターに乗ったり、4Dシアターを見たり、ポップコーンを分け合いっこして食べたりした。
待機時間が長めだったけど、全覚えしりとりや、思ったより面白かった阿部くんの冗談ランキングを作ったり、カタカナ語の使用禁止制限を設けておしゃべりしたり、普段通りずっとふざけていたから、あっという間だった。

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