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番外編2

リリーの恋・7

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 昨夜は眠れなかった。
 ジョーゼットが作ってくれた美味しいハンバーグを食べても、学校で流行りの動画を見ても、クローゼットファッションショーをしても、ずっと動揺が収まらなかった。
「リリー、大丈夫?」
「…うん、ごめん。」
 顔を上げれば、ジョーゼットの手が額に触れた。
「なんか、知恵熱出てない?」
「そうかな…」
「熱いよ。横になってれば、今レモネード持ってくる。」
「ありがとう。」
 お言葉に甘えてベッドで横になる。
 あれからずっと、頭の中でグルグルと巡っているのだ。
 彼の官能的な眼差し、いつもとは全く違う低い声、奥方様を支える力強く頼もしい腕や背中。美しさの中に滾るような熱があった。
 衝撃的な現場。
 大好きな人の、性行為。
 森の中で行われる、本能むき出しの乱交。
 自分にとって、それがどれだけ苦しく悲しい事なのか、分かってしまった。
 気がつけば、ポロポロと流れ出る涙が、目尻からこめかみへ落ち、頭皮を濡らす。
「…しゃいちゃん、しゃいちゃん…」
 小さな声が、空気に溶けるように消えた。
 どうして、自分はこんなにも子どもなのだろう。好きだという気持ちすら伝えらない。彼に子どもができたら、もう相手にされることはないだろう。
 そんなの、嫌だ。
 私だって、あの中へ入りたい。
 好きな人に愛されたい。
「また泣いてる!」
「…ジョーゼット。」
 引き出しから取り出したタオルを放り投げると、私の顔面に落ちた。それを広げて顔全体に巻きつける。
「何があったのか言いたくないならいいけど、私は勝手に心配してるからね。」
 親友って口に出して言うのは恥ずかしいけれど、こういう時にジョーゼットは自分の親友だと思う。
「ねえ…ジョーゼットは、セックスしたことある?」
「突然何かと思えば…」
 気の抜けた声になる。
「あるわけないでしょ。いっつも店番して、好きな人を見つける時間もない。」
「好きじゃなくても、できるじゃん。」
「あー…クラスの派手女子ね。この前、放課後の教室でやってるの見ちゃって萎えた。」
「見たの?!」
 ガバッと起き上がると、眉間にしわを寄せた顔と向き合った。
「そりゃ、大きな声がしてたら何かと思うでしょうよ。」
「向こうに見つかった?」
「ううん、夢中で気づいてなかったから、見なかったことにして帰った。」
 ジョーゼットが大きなため息をつきながら、レモネードのグラスを渡してきた。受け取って口に含むと、耳の下がギュッとしてから甘みが広がる。
「どうだった?」
「えっ…どうって、そんなマジマジと見てないし。」
「でも何かあるでしょ?!」
「えー…勇気あるなーって。あと、この前一緒にいた男子と違う奴だから、誰でもいいのかなーって思った。」
「じゃあ、複数人だったらどう?!」
 目を見開いたジョーゼットは、自分もレモネードを飲むと、しばし黙った。
 こんな話、今まであまりしたことなかった。
 もう学校で性教育も受けているし、父の友人の女医さんから、既にしっかり詳しく話をされていたので、当たり前のことのように受け止めていた。
 けれど、実際に体験したことなんてなかったし、シャーリー以外に興味がなかったから、自分のこととして考えていなかったのだ。
「男女比によるかなー。」
 突然の返答に、ビクッとした。
「だ、男女比?」
「うん。だってさ、女は自分一人で男の方が多かったら、大変じゃん。同じくらいか、女の人多い方が、体力的に保ちそう。…おい、アホ面になってるぞ。」
「あっ、うん。えーっと、そっか…ジョーゼットの考え方に驚いた。」
 開いたままの口に、レモネードを流し込む。
「いやまあ、処女なんで知らんけど。」
「じゃあ、女の人がいっぱいで男の人が一人も、おかしくないよね?」
「…それって、もしかして王様の話?」
「………」
 察しのいい親友に、うっかり目をそらした。

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