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3章 譲位騒乱

60・お断り

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「おお、なんと美しい…遂に出会ってしまった…私のパフィオペディルム…」
怖い怖い怖い…!
ソーヴィに吹っ飛ばされたのに、仰向けで空に手を伸ばして、何か言ってるー!
「アユリ、一切相手にしないでいいから。何を言われても無視して。」
ソーヴィの顔がとても怖い。
「ねえ、今の隙を突いて転移魔法で逃げちゃダメなの?」
「見えないと思うんだけど、周りを囲まれてるんだよね…アイツの優秀な部下達に。アイツが指示出したら、俺は周りを全員殺さない限りやばい感じ。」
「えっ、かなりやばいんじゃん。」
メロキーさんの家に集まることが、バレてたってこと…?
どうにかできないだろうか。
「これ、使って倒す?人数にもよるけど。」
ソーヴィに左腕を振ってバングルを揺らせば、頭を振られた。
「いざって時までは使わないで欲しい。もしバレたら、アユリが危なくなる。」
何もできない自分が歯がゆい。
ソーヴィの役に立つには、もっと能力を自由に使えるようにならなくちゃ。
倒れていたお兄さんがゆらりと立ち上がって、またこっちにやって来る。
「ゾンビみたい…」
まだ何かブツブツ言いながら歩みを進める。
「おお、愛しのパフィオペディルム…その美しい髪に触れ、絹のような肌に口づけをさせて欲しい…」
思わず肌が粟立った。
「アユリのことを口にするのも腹が立つ。」
「ソーヴィ以外無理ですう!」
そう呟けば、上から嬉しそうな声がする。
「だよね、俺以外無理だよね。もう一回吹っ飛ばしてみようか。」
「周りの人に攻撃されない?」
「されても大丈夫。今結界張った。転移魔法は結界を解かないとできないから、逃げられないけど…やっぱり全員殺しとくか…」
「だめー!それはダメ!」
どうにか、ここから抜け出す方法はないだろうか。
「…ちゃんとお断りしたら、諦めてくれるんじゃない?」
「俺が4年も命狙われてるのに、諦めると思う?」
「無理か…」
どんどん近づいてくるお兄さんは、頬が紅潮して目がギラギラしていた。
「パフィオペディルム、その穢らわしい弟の腕から離れて、私の元へおいで。その男は、もう王座に就くこともない。私は今一番近い場所にいる、最高の未来を約束できる。」
権力自慢かよ、まじ無理。
ソーヴィにコンプレックス持ってる男って、みんな魔力とか王位とか、そういうのばっかりこだわってる。
「お兄さん、お断りします!私はソーヴィしかいらないので、権力は必要ありません。よろしくどうぞ!」
「ちょっと、無視してって言ったじゃん!」
「だってムカつくんだもん。」
途端、空気が変わり、結界の周りを暴風が吹き荒れた。
お兄さんの髪が逆立ち、揺れている。
「やはり…ソーヴィニヨンを殺すしかないようだな。どちらにしろ、その予定ではあったし、パフィオペディルムが手に入る訳だから、むしろ得るものが多くなる。」
ソーヴィの声が怒りに震えている。
「アユリ…やっぱり…全員殺していい?」
「ダメ、無理、許さない。気絶にして。」
「殺すより気絶の方が難しいんだけどな…魔力の消費量激しくなるし。」
ジトーッと見られて、これは暗に夜は覚悟しておけよ、といわれている。
「オーケーオーケー。ソーヴィが人殺しになるより断然良い。」
「じゃあ、頑張る。えーっと、まずは人数と場所の把握をして…」
髪が逆立ったお兄さんが、多分結界が張られているところに手を当てている。
破るつもりなのかな…
せめて、破られた時に石を当ててやろうと、足元の石ころをつま先で寄せ集めておいた。
「ん、12人か。いけるな。」
12人もいるのに?!
「アユリ…」
「何?」
石集めを中断して、ソーヴィを見上げれば、深くキスをされた。
「んうう?!」
「貴様っ!私のパフィオペディルムに何をする!!」
なった覚えなーい!!
ちゅぱっとリップ音を立てて唇が離れた。
「お前たち、ソーヴィニヨンを殺せ!」
瞬間、私達に向かって攻撃が降ってくる。全ての攻撃が見えない結界に突き刺さり、ドーム型になっているのが分かった。
うわっ、剣とか矢とか…クナイみたいなのも刺さってるんだけど…めっちゃ物理だ。魔法攻撃はしないのかな?
「ううっ…」
「あああーっ!」
「ぎゃあっ!」
周りからうめき声が聞こえ始めた。
「えっ、怖い怖い怖い…なになに?!」
目を閉じて集中しているソーヴィの額から、汗が垂れた。
あっ、今もしかして12人へ一斉攻撃してるの?
バキバキバキっと音がした方を見ると、一部の結界を破ったお兄さんが笑っていた。
「さあ、私のパフィオペディルム…こちらへおいで。」

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