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2章 魔法能力

43・物は試しに

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研究室に戻り、ソーヴィは小さな球体を取り出した。
「アユリ、これを動かしてみよう。」
デスクの上に布を広げ、その球体を置く。ころんとした球体は鈍色で、手のひらに乗るくらいの大きさだった。
「どうする?転がす?」
「うん、それが一番簡単じゃないかな。初めてなのに、浮かせたり、割ったりは大変だと思うんだよね。」
ソーヴィが指で叩くと、金属のコツコツと硬質な音がした。
「分かった、やってみる。」
強く心の中で思うって、どうやればいいのかな。
とりあえず、石を見つめて、動けー動けーと念じてみた。
「うん、全然動かないね。」
ソーヴィの言う通り、ビクともしない。布の上に乗ったまま、同じ場所にある。
「うん、動かない。えーん、強く思うっていうのが難しいの。動けーって石に言ってはいるんだけど。」
「ふむ。」
じっと私を見つめて、石を見て、私を見つめる。
「前の4回の時を思い出してみようか。まず、1回目は俺に髪を触られるのが嫌だったんだよね。」
そう、触られるのが嫌で、触らないでーって強く思った。
「何で触られるのが嫌だったの?」
「えっ…それは…言わなきゃダメ?」
真剣に頷き、魔法のタブレットを操作した。ちなみにもう一つ持っていて、そっちは薬剤師用として使っているので、私もよく使う。
「ちゃんと分析しないと、石を動かせないよ。」
だよね…でも言うの恥ずかしいんだよ。
「えっと…その…」
「うん?」
頬杖をついて優しく私を見つめている。
はあ…かっこいい…
お顔は元より超絶美形だけど、その瞳や表情に…私への気持ちを感じ取れて…より一層、ドキドキする。
「男の人とあんなに近づくの初めてで、しかも髪の毛触られるのゾクゾクして…恥ずかしいし、緊張するし…やめてーって感じだったの。」
「ふうん…そうなんだ。2回目は?」
すごーく嬉しそうにお顔を緩めて、魔法のタブレットに入力している。
「にっ…2回目は…まさか外で…その…すると思わなくて。誰か来たらどうしようって、パニックになって…絶対いやーってなった。」
「ふむふむ…で、3回目は俺とメロキーへの嫉妬、4回目は俺が侮辱されたことへの怒りね。」
もしかして、1回目と2回目は言わせたかっただけ?満足そうな顔しちゃってさー!可愛いからいいけど。
「うーん、共通点を上げていくね。必死になって、感情が高ぶってる時。」
「それは、私も思う。感情をもっとちゃんとコントロールして、うっかり発動しないようにしたいの。」
浮いている画面にチェックを付けて、ソーヴィが感情のコントロール、誤発を防ぐ、と記入する。
「確かに、誤発をした時に俺がそばにいなかったら、大変なことになるからね。それも訓練していこう。」
「うん。」
ソーヴィ以外とセックスするなんて…絶対に嫌!
「あと、俺絡みってことかな。正直言って、アユリは俺以外の人間との関わりが極端に少ないから…まあ、俺のせいでもあるんだけど。」
ここに住んでると、ソーヴィ以外に会うことはほぼない。
ソーヴィが許可をしないと敷地に入ることは出来ないし、結界も張られているから見つからない。何も知らない人はただの森にしか見えないのだ。
この半年で関わったのは、ソーヴィのお兄さんシャーリーと、お医者さんのメロキーさんだけ。
「それと、全部具体的にこうなれって思って口に出してるよね。髪を触らないで、スカートを触らないで、離して、とか。」
「うん、そうだ!口に出してる!ソーヴィすごい!」
あっじゃあ、さっきの石が動かなかったのは、口に出さなかったからかな。
それに強く思うっていう部分がよく出来てなかったな。
「感情の高ぶり、俺絡み、具体的に考えて口に出すこと、この三つが関わると発動するっていうのを前提に考えて、練習してみようか。」
「どんな風に?」
腕を組んで顎に手を当てながら、ソーヴィが考えている。研究室をウロウロと歩き、空を見つめて立ち止まり、また歩き出して、止まる。
そういうオモチャやロボットみたいで面白い。たまにこうなる時は、いつも眺めて楽しんでいる。
ハーブティーを飲んで、たまに石に向かって動けー!って言っていると、ソーヴィがピタリと止まった。
「よし、アユリ!こうしよう!」



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