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第三部
Sky's The Limit・25-3
しおりを挟む「はー…さすが何もない町。やっぱり二泊もするのやめようかな。いても何にもないし」
実音々がげんなりしている。この町では、実音々も私も浮くし、田舎の噂話は本当に面倒で、地元を出たのもある。
「実音々ちゃん、もし明日帰るなら、俺の実家出る時に迎えに来ようか?」
「えっ?!いいの?!」
「いいの?きいくん?!」
「いいよー、運転したいしっ!」
とにかく大好きな車を乗り回したいらしい。
「じゃあ、お願いしまーす!やったー!交通費浮いたー!」
なんて現金な妹だ。でも可愛いからオッケー!
実音々のナビでそろそろ実家に近づいてきた。周りはそこまで住宅はないし、川とか雑草とか門があるから、多分中までは見えない。だから、家に入ってしまえば、きいくんのスキャンダルにはならないはずだ。
川沿いの道に入り、少し進んだ先に実家が見えた。
「その門入って、適当に停めて大丈夫だよ」
「庭が広い!」
大きなアメ車も余裕で置ける広さ。無駄に土地があるのは利点だ。
「きいくんの家は、ここまで田舎じゃないんでしょ?」
「そこそこ街かなー、でもそこそこだよ。ちょっと行けば畑や田んぼがあるし」
三人共車から降りて、荷物を取り出す。きいくんはボストンバッグ一つだった。
「わー、緊張してきた」
「大丈夫だよ、二人とも適当だから」
「パパ、失神しないかなー!めっちゃウケるのに」
実音々が呼び鈴も押さずに玄関を開ける。鍵は当然かかっていない。
「ただいまー!ママー!お腹減ったー!」
「わんぱくか!」
「きいくんのツッコミが出た!」
気にすることもなく、実音々が家の中へと入り、洗面所へ向かっていく。
「お邪魔します…上がっていいの?」
誰も出てこないから、きいくんが恐縮している。
「いいよ、どうせそのうち来るでしょ」
三人で順番に手を洗い、リビングのソファに座る。私、きいくん、実音々で林姉妹サンドになった。
玄関がバタンと開き、ドサドサっと音がした。
「あれっ、もう来てる!」
母の声がした後、父がうなづく。
「遅刻しちゃったなあ、申し訳ない」
「二人とも遅いんだけど?!」
実音々が大きな声で呼びかけると、両親がリビングへと入ってきた。
「ごめんごめん、ちょっと一走りしたら遅刻しちゃった!」
「隣の家のタロちゃんが、うちに入って来ちゃったから返しに行ってたんだ」
二人一緒な割に、理由がそれぞれ違う。
「いいけど、二人とも遅刻したの後悔するよ」
なぜか実音々が強気に発言した。
「こんにちは、お邪魔してます」
ソファから立ち上がったきいくんは、キラッキラのアイドルスマイルで両親に挨拶した。
ずるーい!私もそっち側に行きたい!
「えっ、ええ?!」
「ママ、俺は……菜果音のせいで洗脳されてるのかな…」
「それは、酷い言いがかりでは?」
驚いて固まる両親をよそに、きいくんが踏み込む。
「菜果音さんとお付き合いさせていただいてます。伴喜一と申します」
母は深呼吸をし一瞬で回復したが、父はくるりと反転し、玄関を出て行った。
「敵前逃亡?!」
「俺、間違えた?」
実音々は一人、爆笑していた。
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