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本編
40・by your side
しおりを挟むきいくんの忙しい合間を縫って、私達は逢瀬を重ねた。
個室のレストランで夕食だけ取ったり、きいくんのお部屋でいちゃいちゃしたり、移動の合間に服屋さんで落ち合ったり、安心して会える場所は限られているからなかなか大変だけれど、時間を作ってくれることが、嬉しい。
きいくんは本当に我慢強く慣らしてくれた。たくさんのキスと優しい指先、気持ちよくて溶けてしまいそうなくらい、メロメロにされている。
DVDで繰り返し見ていた、大好きなあの曲を踊っている、セクシーで雄を感じさせるきいくんより、もっと熱くて強いきいくんがいて、何回か死んだ。無理、あのダンスを超えるとか、私の許容量が保たない。決壊した。
その雄なきいくんが、私におちんちん入れたいって言ってくるんですぞ…死んじゃう…。
でも最近は、入れて欲しいって思えて来た。もうね、抱き捨てられたい願望がやばい。いや、捨てないけど。むしろ囲い込まれそうな感じはしますけど。
あの雄顔…やばすぎる…もう腹上死したい…かっこいい…殺して…
だからね、次にそういう雰囲気になったら…良いかなって思ってる。
もしかしたら会えるかもって言っていたから、ドキドキ期待して電話を待っていた。
「もしもし、なかちゃん?今大丈夫?」
電話越しの声もやっと…慣れて来て、ちゃんと話せるようになった。
「うん!」
「仕事終わったんだけど、ここからだとなかちゃんの家の方が近いから、もし迷惑じゃなかったら、ちょっとだけ寄ってもいいかな?」
「えっ?!うち?!」
「…あ、嫌ならいいんだ。妹さんもいるよね?」
遠慮がちな声に、慌てて否定する。
「ううん、大丈夫だと思うけど、妹に聞いてみるからちょっと待ってて!」
慌ててリビングへ行き、実音々に声を掛ける。
「みねねちゃんや!!!今から、きいくん来たいって言ってるんだけど、いい?!」
DVDを見ながらアイスを食べていた実寧々の手から、スプーンが落ちた。
「えっ?!今から!?何分後?!」
「あっ、待って!きいくん、何分後に着くの?」
電話口で笑い声がする。
「んー30分くらい」
「みねねちゃんや、30分後だって!」
「おっけー!了解!」
実音々が急いでスプーンを拾う。
「きいくん、おっけーだって。」
「ありがとう、じゃあ向かいます。」
電話を切って、慌てて部屋を片付ける。
「やばいわ、すっぴんだわ。着替えて化粧しなきゃ。」
「ごめんね、突然!」
「いや、いいよ!っていうか生のばんばんとかやばっ!無料で会うとかやばすぎ!お金払わなきゃ!」
「分かるー!払いたいー!」
「お姉ちゃんは彼女なんだから、払っちゃダメでしょ。」
お互いバタバタと準備しながら会話をする。
「でも自担じゃないから、会っても普通に会話できると思うわ、私。」
「えっ、すごいんだけど。」
「自担は無理だけどね!」
「私、みんな無理!」
「でも自担と付き合ってんじゃん!」
「…幸運としか思えぬ。」
フローリングシートで床を拭きまくり、掃除を終わらせたら、お茶の準備をしておく。
「あーやばいもう時間ないよ!」
実音々が言った瞬間、電話が鳴った。
「もしもし?!」
「なかちゃん、もう着くんだけど…大丈夫?」
実音々がオッケーマークを作っている。
「うん、大丈夫!」
言った瞬間にチャイムが鳴った。オートロックの入り口を開けて、迎え入れる。
「カメラに映ったきいくんかっこいいー!」
「さすがアイドル。」
すぐに玄関のチャイムが鳴り、鍵を開けた。にっこり笑ったきいくんがいる。
「今日はちゃんと確認した?」
「うん!かっこよかった!最高!」
「それはどうも。急にごめんね、お邪魔します。」
部屋に通すと、少し硬い表情の実音々がお辞儀をした。
「こんばんは。」
「こんばんは、初めまして。菜果音さんとお付き合いさせていただいてます、伴喜一です。」
ぎゃーー!!!!
あっ挨拶してるうー!お付き合いさせていただいてますだってー!どうしよう好きかっこいいやばい!
「はじめまして、妹の実音々です。」
実音々すごい、普通に話してる!
「夜分にお邪魔してしまいまして、申し訳ありません。これ、良かったら後でお二人でどうぞ。」
きいくんが差し出したのは、有名なパティスリーの焼き菓子だった。
で、できる男…しゅてき…
「ありがとうございます、すみません気を使わせてしまって。」
とりあえず私が受け取って、座っていてもらった。お茶を準備しなくては。
最近、外は暑いから、アイスティーを作っておいた。
「実音々さんも、うちの事務所のグループが好きなんですか。」
「あっはい。お姉ちゃんとは違って、結構色々好きです。」
彼氏と妹がしゃべってるー!しかもアイドルトークー!ずっと聞いていたーい!
「ああ、なかちゃん俺だけだもんね。」
ふふふっときいくんが笑っている。
「お姉ちゃん、ばんばんのこと好きすぎて頭おかしいんで。高校生の頃からずっとですよ。」
すぐに砕けた調子になっていて、二人ともすごい。私まだたまに敬語出るのに!
「高校生の時…俺まだサンキュウ!じゃないよ。そうなんだ…初めて聞いた。」
そういえば、言ってなかったかも。
アイスティーとさっきのお菓子を持ってテーブルに置く。
「なかちゃん、俺がまだ研修生の頃からファンだったの?」
「えっと…うん、そう。」
「先輩のグループのコンサートで、ばんばんに担降りしたらしいですよ。」
「そうなんだ。」
にまーって嬉しそうに笑ってる。あー…可愛い…
「ばんばん、お姉ちゃんのどこが好きなんですか?私にはめっちゃ良いお姉ちゃんだけど、普通の人ですよ。」
実音々がズバッと聞くから、飲もうとしたお茶を吹き出した。
「大丈夫?」
きいくんが、近くにあったティッシュを私の口に持って来てくれる。
「ごめんなひゃい。」
咳き込んでティッシュで口を拭いた。きいくんが私を見てから、実音々に笑いかける。
「こういうとことか、結構好きだよ。」
「…お姉ちゃんのドジが?確かに面白いけど。」
面白がられている…!
「んー…初めは趣味が合う子だなーって感じだったんだよね。で、話したり遊んだりしてたら、もっと一緒にいたいなって…楽しいなって思ってたら、好きになってた。」
ニコニコ見つめられて、初めてそんな話を聞いて、私は鼻血を噴きそうだ。
「…ばんばん、マジやばいな、お姉ちゃん…良かったね…」
「う…うん…」
死にそう。っていうか死んだ。
「なかちゃんがいてくれると、何でもできる気がするんだ。」
「も、もう…おやめくださいまし…私、死んでしまいます。」
熱い頬をコップで冷やす。
「でも、お姉ちゃんのことちゃんと大切にしてくださいね。ばんばんのお仕事に迷惑かけたくないって、お姉ちゃんいっつも気を使ってるんです。我慢させてばっかりに、しないでくださいね。」
「ちょっ、みねね!私は大丈夫だから!」
マイプレシャス…姉思いでめっちゃ嬉しいけど、気が強い!
「うん、いつも我慢させちゃってるから…ちゃんと何でも話し合える関係で、俺がなかちゃんの居場所になれるようにって思ってます。」
真剣な顔で、実音々に言うきいくんが、かっこよすぎて泣きそう。そんなに私のこと、考えてくれてたんだ…
もう、一生好き…
「お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ。」
二人がお辞儀をし合っている。
もう無理、泣く。
「でも、お姉ちゃんと一番仲良いのは私なので!」
「おいおい、みねねちゃんよ…!」
「…俺は、なかちゃんがずっと隣にいてくれるので。」
「くっそー!!私は産まれた時から家族だもん!」
「俺は、なかちゃんが子ども産んでくれるからこれからだし!」
「ちょっと待って!何これ?!何の対決なの?!恥ずかしいからやめて!」
実音々の発言はいつものことだから分かるけど、きいくん…!子どもって…!衝撃が強すぎるので、後で反芻します!
息も絶え絶えになったところで、実音々が自室に戻って行った。
「死ぬかと思った…」
「それぐらいで死なないでよ。」
いや無理でしょ。
「ねえ、なかちゃんの部屋見たいなー!」
「あっ、はい案内します。」
リビングのすぐ隣が私の部屋。実音々の部屋はお風呂を挟んで向こう側だ。
「なかちゃんの匂いするー!」
部屋に入った瞬間に、くんくんし始める。
「そう?自分だと分かんないけど。」
「うん、でも一番良い匂いするのはこっち。」
むぎゅっと抱きしめられて、首元に顔を埋めれた。ううう…可愛い…
「さっき実音々ちゃんに話してたこと、本当だからね。」
「えっどれのこと?!」
子ども?!
「俺がなかちゃんの居場所になりたいって話。」
そっちかー!嬉しくて胸が苦しくなる。
「ありがとう。」
「うん、なかちゃんのこと、大切にしたいから。嫌なこととか、辛いことあったら、教えてね。もちろん、嬉しいことも。」
「うん。私も、きいくんのこと大切にしたい。大好き。」
「俺も、なかちゃん大好き。」
見つめ合って、自然と唇が重なる。
「あー俺、今すっげー幸せ。」
「私はね、きいくんに出会った時からずっと幸せにしてもらってるから、その分きいくんのこと幸せにしたい。」
耳元で大きなため息をつかれた。
「はー…やば…すっごい抱きたい…」
「…いいよ。」
「えっ?!まじ?!」
きいくんの目がキラキラする。
「次、ちゃんと会える時、しよ?」
「やった…!待ってスケジュール確認する。」
ポケットからスマホを取り出して、にらめっこしている。可愛い…ずっと見てられる。
「…2週間も先なんだけど…辛い…」
「お仕事頑張ってね。楽しみにしてるね!」
「うん、俺はみんなを笑顔にするのが仕事だからね!」
「かっこいい…自担世界で一番かっこいい…最高…」
「ははっ!サンキュウ!」
チュッとキスをして、二人で笑った。
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