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第二十一章…「街」

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太陽が上ってすぐ、ヨナはルイノギの部屋をノックすると「どうぞ」と返ってくる。
それを聞いたヨナはドアを開けて中に入ると、着替え中なのかルベルとひなの姿がなかった。

「おはようございます」

「おはよ、少し待ってください」

「かしこまりました」

エリオの言葉にヨナは短く返答。
少しすると隣の部屋から出てきたルベルとひなだったが、いつもと服が全く違う。
どうやら、ルイノギの服を借りているらしく普段と違う服を着るエリオとひなは互いに言葉を投げ掛けている。
そうなれば自分も変えねばと、ヨナは何がいいかなと頭を悩ませ始めると、それを見計らっていたようにルベルが何かが入った袋を手渡しする。

「隣の部屋で着替えてください」

「え」

「早くしないと置いていかれますよ?」

ルベルが笑顔でそう告げると、チラッとルベルの後ろにいる三人の雰囲気的に本当になりそうだったので、ヨナは慌てて隣の部屋に移動する。
ヨナが隣の部屋に入って5分が経過した頃にヨナが部屋から出てくる。

「あの、この服は?」

「お祭り用の踊り子服よ?」

「今日から3日間祭りがあるんだって!」

「皆……祭り用、衣装」

ヨナが今着ている服は、露出が少ない踊り子衣服らしく、他の四人が着ている服と少し違っていた。ちなみにエリオひな、ルイノギルベルの四人が着ている服は通常、そこら辺を歩く庶民と同じ服で、ヨナが着る踊り子衣服はあまり出歩いてはいない。
それを隠したまま、ルイノギとルベルはエリオとひな、ヨナを馬車に乗せて街へと出発する。



屋敷から約30分の道のりで街の入り口に到着。馬車を降りたエリオとひな、ヨナは辺りを見渡し好奇心が表に出ていた。

「ヨナは一応護衛だけど、祭りを楽しんで」

「ふぇ!そ、それはダメですよ!護衛は仕事!なので、楽しみながら護衛にあたります!」

ヨナはそう答えると、辺りを警戒しながらエリオとひなと一緒に屋台などを見て回り始める。
その後ろに続くようにルイノギとルベルは歩き出す。そして出くわすは人の多い場所。
人酔いしそうなくらいに大勢いるため、五人はそこを避けようと小道を通っているとき、壁にもたれ掛かっている人たちが数人目にはいる。
その事に関して、エリオとひなやルイノギとルベルは何も言わず、一切見ようとせずその場を立ち去ろうとするが、ヨナがその人達に歩みより次々と手早い治療をしていく。
それを立ち止まり見守っていたルイノギは再びレイトの言葉が頭に過る。

__お前には、この世界はどう思う?__

__俺には最悪な世界に見えるよ__

「この世界はとても____」

誰にも聞こえない声でルイノギが何かを呟きかけると、治療をし終えたヨナが戻ってくる。
それを見た四人の代表としてルイノギが口を開く。

「ヨナ、あなたはなぜ治療を?」

「……そこに困っている人がいるからです、私は平等に治療しますよ?人間も魔族も……今は姿形が違えど、元は同じ1つの命です」

「………命」

ヨナの言葉にエリオはポツリとそれを口ににすると、それを聞いていたヨナがエリオに向き直り問う。

「エリオ様……例えば、今この場で人間が怪我していて助けを乞えばあなた様はどうしますか?」

「え、私は………多分助けると思います」

「そうですか、ならばそれが答えでしょ」

エリオの答えに目を瞑りヨナそう告げる。
その事がきっかけになり、祭りを回るが誰も口を開くことなく歩き続けていると、ひながたまたま見た方角に見覚えのある人物を見つける。
どうやらあちら側は気づいてはおらず、側にいる人物と何やら話していた。
ひなはその人物を見つけると、隣を歩いていたエリオの服を軽く引っ張る。

「?どうしたの?ひな」

「エリオ………あそこ、見て」

ひなが指さす方にエリオが視線を向け、その人物を見つけると小さく「えっ」とだけ呟く。
二人の反応が気になったルイノギとルベルも、二人が見ている方を見れば同じ言葉が漏れでる。
人混みの向こう側、屋台を六個抜けた先にいる人物は誰かと話しながら四人がいる方とは逆の方へ歩いていく。

「なんで……ここに?」

「エリオとひなは、何か聞いてないの?」

「聞いてない……何も」

「私……も……何も」

「………あ、エリオ様人が後ろに」

騒ぐ四人にエリオの後ろを通る人とぶつかりかけ、ヨナはエリオの手を取り引き寄せる。
その動きは自然にであった。
一瞬ドキッとときめくがすぐにぶつかりかけた人に謝罪をする。

「すみません」

「いや、大丈夫だよ……それよりも君たちは大丈夫かい?」

ぶつかりそうになった人は優しくこえをかけてくれる。

「はい、大丈夫です」

「ならよかった、じゃあこれで」

そう言ってぶつかりそうになった人は立ち去っていく。
四人は少しの間その人を見送り、はっとしたルベルがぶつかりかけた原因の人物を探すが、当たり前にその人物を見つけることはできなかった。その事を確認し終わると一瞬顔を俯かせた後、ルベルはエリオとひなに声をかける。

「さぁ、次はどこ見て回りますか?」

「あ、そうね……」

ルベルの言葉にエリオは小道の隙間から見える場所で気になる場所を見渡す。
そこでエリオの目に止まったのは、祭りの会場とは別の離れた場所にある葉も花も無い裸の状態の大樹を見つける。

「あそこは何?」

「……あぁ、あそこはこの街ができる前からあると言われている大樹よ………いつのものだったかしら」

う~んと唸りながらルイノギは頭の中にしまい込んだ資料を探すようにギュッと目を瞑る。
そんなルイノギとまた違った反応していたヨナはずっと丸裸の大樹を見つめているとポツリと誰にも聞かれない声で呟いた。

「……ここは………あの場所だったのですね」

「あの大樹に行きたい」

「あそこにですか?」

ヨナの呟きは当たり前に聞こえてはいなかったが、エリオが選んだから次の場所は大樹だった。エリオの行き先指定にルベルは首を傾げてからルイノギを見る。
ルイノギは腕を組みながら少し考えてから口を開く。

「わかったわ、とりあえず近くにある馬車乗り場に向かいましょうか」

「やった~!」

「………エリオ、あの……場所に……何か…………あるの?」

くいくいとエリオの服を軽く引っ張りながら問うと、エリオはん~と唸りながらひなを見ながら答える。

「何かあるかはわからないけど、何か近くで見たくて」

ひなとエリオの会話を聞きながら二人を見てから歩き出す。当たり前に他の四人も後に続く。
はぐれないように表にはなるべく出ずに、小道を使って行くと当たり前にあっちらこっちらにいる弱った人間たち。
その横を普通に通りすぎる。いや、見ないように通りすぎたのだ。
ルイノギの案内で小道をいくつも曲がる。

「さぁ、ここよ」

「では、私が聞いてきますね」

そう言ってヨナはぱたぱたとボロボロな小屋の中に入っていく。
残った四人は待ち時間を大樹について話していた。

「あの大樹はこの街ができる前からあって、最初はあの大樹を中心に街を建設するつもりだったらしいわ」

「でも意外と離れて街が建設されているよね?」

「何か……問題…………起きた?」

「ええ、問題は起きたわ……作業に移す前に地面とかを確かめたいとかで大工が数人あの大樹の側まで行ったらしいわ、でも帰らなかった」

腕組をしながらルイノギは語っていく。
大樹で何が起きたかを、その歴史を。

「不思議に感じた当時の村長は、捜索隊を派遣して彼らの帰りを待っていた……だけどやっぱり捜索隊も帰っては来なかった、これ以上待てないとしびれを切らした村長は自分の足であの大樹の元まで行ったの、そしたら」

ここで一旦区切り、ルイノギは大樹を見つめる。それにつられて三人も大樹を見つめた。

「あの大樹の根に絡めとられた大工と捜索隊の遺体があった…しかもその遺体は干からびたようになっていたそうよ」

「……つまり、その人達の血を吸った」

「生きた……大樹………」

「それを見た村長は血の気を引いて逃げ延びた……そして、人を殺す大樹の側に大事な街を建設できないと言ってここに街を建設した………村長は自分が見たもの感じたものを残すために物語を作ったそうよ」

「その物語の題名は何て____」

「皆様お待たせしました、馬車の話しつきましたので良いのを借りていきましょう………って、どうしたんですか?」

ボロボロな小屋のドアを開けて出てきたヨナは満面の笑みから、四人の表情を見て感じるものがあったのか徐々に笑みは消えていく。

「あの大樹について話していたの」

「ああ、あれの話ですか……」

ルイノギの言葉にヨナはぎこちなく笑みを見せるのだが、きゅぴーんと何かを感じたエリオはヨナに抱きつく。

「ヨナ~、何か隠してる?」

「え、な、何も……隠してませんよ?」

「本当?」

「ひゃわ!え、エリオ様!どこを触って」

顔を真っ赤にしながらヨナはエリオがする行動に抵抗する。
抵抗されているエリオの口元は笑っていた。

「答えたら止める……何隠してるの?」

「んっ、い、言えません!ふぁ」

「ほらほら、答えてよ」

「___っ、こ、降参します!しますから」

エリオの一方的な攻撃に抵抗するのに疲れたヨナは、半泣きで降伏する。
それを聞いた四人は何度も頷き、エリオはヨナから離れる。
そんな五人の間に一人の老人が馬車を運んでくる。それに気づいたヨナは、ふらつきながら馬車の引き継ぎを確認する。

「じゃあ、行ってらしゃい」

「はぁい、ありがとう、ございます」

老人はそれだけを言うとボロボロの小屋の中に入っていく。
ヨナは手綱を握りながら全員が乗ったことを確認するとパシッと手綱を鳴らし出発する。
馬車に揺られながらヨナは、エリオとの約束?のようなものをしてしまったので、静かに語り始めた。大樹のことを。

「そうですね……まずあの大樹は私と始祖の魔王様が植えた木です」

『ん?』

「2400年以上前に植えたんですよ……あの方が、私を配下にした記念として」

懐かしそうに目を細目、緩む口元。
そんなヨナの表情は見えなかったが、背中から伝わってくる柔らかな嬉しさ、幸せが。
あの大樹がヨナにとってどんなに大切な思い出であったかを。

「あの大樹は人を襲う木ではなかったんです……ただの太くて大きな木に育つはずだったんです、多分人を襲う原因を作ったのはあれでしょうか」

「何か起きたの?」

「人間……が、木を……切ろう……と、した……とか?」

「戦争とか?」

「燃やそうとしたとか?」

三人それぞれが思ったことを言っていくがどれも違うとヨナは首を横に振る。
そしてポツリと呟く。

「始祖の魔王様を傷つけたからです」

「え、それどれくらい?」

「かすり傷程度です」

にっこりと笑って答えたヨナの言葉に四人はポカ~ンと口を開けたまま固まる。
そして次に飛んできた言葉がとどめのようになる。

「あの時の大樹は少しキレてしまって、その時来ていた人間全員殺してしまったんです」

『…………』

「そして今度は人間を愛していた始祖の魔王様がキレてしまい、大樹に一生癒えず、尚死なない程度で傷を作りました………それ以来始祖の魔王様はここに訪れることはなくなりました」

淡々と語ったヨナは前を見つめて、懐かしいわなどと小さく呟いている。
そんな呟きが聞こえないくらい衝撃を受けていた四人はただ固まっていた。
そんな四人にヨナは見えてきた大樹のことを告げる。

「皆様、見えてきましたよ」

ヨナの言葉で我に帰ってきた四人は、馬車から身を乗り出して大樹を見上げる。

「………近くで見ると本当に大きい」

「転び………そう」

「安心してひな、転んでも私が受け止めるわ」

「エリオとひなは本当にブレないわね」

『え?』

ルイノギの言葉にエリオとひなは首を傾げる。
そんなこんなをしていれば、完全に到着し馬車を木の影に隠す。

「さぁ、行きましょう」

にっこりと笑ったヨナに頷いて同意を示す。
ヨナを先頭に大樹の根本に向けて出発をする。
先頭に立ったヨナは、先程までの笑みが嘘のように真顔で大樹を睨み付けていたことは、後ろを歩く四人は知るよしもない。
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