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過去編

短編 硝子の国のアリスと兎紳士(イラストあり)

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【前書き】
執筆日 2020/10/13
少女と執事の悲恋もの、ギャグとラブコメ?

登場人物は烏王創世記の部族動乱時代、ウェンカム族のレイヴンスワン王家の王女様フィオナ・アリス・レイヴンスワン
最後にキャラデザあり。


 わたしの名はアリス、本当の名はフィオナ・アリス・レイヴンスワンっていうの
九人兄妹の第四子で次女よ
父が学寮長で三つの時にここに越してきたわ
文才は無かったけど、絵画・音楽・木彫りは才能があるって評価されたの

数学教師のモレクはイヤミばっかり言うから嫌われ者で、お茶会の遅刻常習犯
足早に歩くのに遅いしお空が飛べないから「ドードー」「ドジクス」ってあだ名が付いたそうだわ
いっつも手作り時計を見てしかめっ面してた
ドジクスは短命の家系で、悪魔と契約して寿命を延ばさないと生きられないらしいの

いつもあちこちで絵を描いていたわ
四つの時に姉と二人でお絵描きのジャマしにいって仲良くなったのよ

イジワル言いながらお話を呼んでくれたり、ピクニックもしたのよ
ボートの上で鳥と遊んだわ、ドジクスは水が大の苦手で気を紛らわすために早口でわたしにお話するの

「そうだアリス!お話聞かせてあげますよ何が良いですか!
お願い早く決めて怖い怖い怖い溺れる沈む沈むう!!うわああああん!!」

ある時魔界(アヴィス)へ潜る為に、鏡に入っていくドジクスを見てこっそり付いて行ったの
ドキドキが止まらなかったわ…!
わたしもドジクスと同じで短命の呪いを背負ってて病弱だったから、お外の世界をあまり知らないの

ドジクスを探して色々冒険したら、やっと追いついたの
ドジクスに抱き着いたらドジクスはいつもみたいにしゃがんで私の目線になってくれて、私の頬を叩いたわ
モレクがこんなに怒った顔するの初めてで、嫌われたんじゃないかと涙が止まらなかった

「何やってるんですか!!!
魔界の瘴気がどれ程危険か…貴女の身に何かあったら僕の全責任になってリストラされるんですからね!!
悪魔と契約しに来たのに…貴女みたいな足手纏い抱えてうんざりですよ…」

暫く歩くと、私が止まるからモレクも止まったわ

「王女様、行きますよ
何してんですか」

「…モレク、わたしのこと嫌いになった?
いつもの名前で呼んでくれないし…
ごめんなさい…あなたの見る世界を見て見たかったの」

ぐずるわたしにモレクはお菓子をくれて、抱っこしてくれたわ

「…貴女が無事で何よりです、僕の仕える最愛のアリス・フィオナ
帰りますよ、僕から離れないでくださいね

…嫌いになってたら抱っこなんか絶対してやらないし、追いていってますよ」

とわたしを抱っこして魔界を歩いたわ

「ほら、アリス見なさいな
あれがギンヌンガガップ、美しい星空でしょう…!」

キラキラと色鮮やかに輝く星空の世界…これが宇宙
わたしは夢中になって眺めたわ

「こんな美しいもの、他に無いでしょう…これが魔界の狭間の世界
エーリシュシオンの方が美しいのでしょうが、僕はこの銀河の美しさが好きです」

「モレク、ありがとう!!わたし、今日のこと一生忘れないわ…!
わたしはいつまで生きられるかわからないけど、モレクはわたしの分まで長生きしてね」

「…悲しいこと言わないでくださいよ…僕、アリスがいなくなったら…うっグスッ…
生きてる意味なんて…うわああああん!!」

ビービー泣き出して鼻水が汚いからモレクの服で拭いてあげたわ

「…ありがとう、ございます
このスーツ借金して買ったのに…」

「ギンヌンガ…なんてキレイなの
わたしがいなくなったらここにいけるの?」
「アリスみたいな良い子はエーリシュシオンに行くんですよ
僕みたいな悪魔使いは、このアヴィスですけど

ギンヌンガガップは空虚な穴だったのですが、天を追われた者達の魂の輝きで輝いているんです…煉獄になりつつありますね
天にも地獄にも逝けない中途半端な場所」

「わたし、死んでもモレクに会いたいわ」
「アリスは物好きですね…僕みたいな嫌われドードー、貴女と貴女の姉妹ぐらいですよ」

頬にキスするとうひゃあ!!と素っ頓狂な声を上げるモレク

「大好きよモレク!わたしの永遠の初恋のドードー」

「…黒歴史になっても知りませんよフィオナ
僕も、永遠の初恋の席は貴女の為に置いてあげます

王位継承権末席の僕なんかと結婚できないですからね、貴女のような高貴なお姫様は」

「おとぎ話の中なら、わたし達は結婚して幸せに暮らすの」

「…そうですね、僕が貴女をモデルに素敵な純愛恋物語書いてあげますよ
素敵な王子様と結婚したら思い出に読んでくださいね、感想ドシドシ待ってます」

モレクもわたしの頬にキスしてくれたわ

「…ナイショですよアリス
僕の本物の首が飛びます」

わたし達のヒミツ…
アヴィスに潜ったのも、冒険したのも…
途中でジャバウォックとバンダースナッチに追い回されて、モレクが大泣きしながら私を抱えて走ったわ

「ドジクスぅ…今日こそ死の大鎌くれよぉ
イイナア、カッコイイナァ欲シイナァ…」
「もう一つの大鎌も欲シイナァ…お兄様とイッショがイイナァ」

ジャバウォックはユカラ族の最強の王であり戦士、わたし達の敵よ
バンダースナッチはジャバウォックの黒犬、根暗で不気味な雌犬
二匹は兄妹なのに夫婦だそうだわ、ユカラは風習が違うから理解できないの

「アリス!!絶対僕から離れちゃダメですよ!!」

地上に出るとそこはザドウの領地で、後一歩でジャバウォックに切り裂かれそうになった時に狩人イェーガーが助けてくれたわ

「ハアハア…助かりました、ザドウの偉大なる皇帝陛下」
「そちらはウェンカム族のお姫様かな?内緒にしておいてあげるから早く帰りなさい」

イェーガーは優しいの、本名はイゴール・キサナドゥ
銃の達人だからイェーガーってあだ名がついたそうなのよ

イェーガーの子が後のザドウ最後のオイゲン皇帝
オイゲンとカティンカの子が長男ザンと五男ベヒモスよ

ー10歳の時にモレクが即興で私が主人公の大冒険小説を読み聞かせてくれたわ
『硝子の国のアリス』

明らかにパクリだったけど内容は違うかった

穢れのない無垢な天使の少女が大冒険してドジなウサギと恋に落ちるの
でも硝子越しで彼とは触れることもできない、それでも二人は仲良く幸せに硝子越しの世界で暮らしたそうだわ…
少女はわたしでドジなウサギはモレク

二人で過ごした黄金の午後は忘れないわモレク…

ーわたしの鳥人生は
24でザドウの皇子(イェーガーの弟)に恋をし、叶わなかったけど友人として付き合いを続けたわ
28でオウギ族へ政略結婚として嫁いだわ、ウエペケレという没落した貴族だったけど平和な余生を過ごしたわ
三男と長女をもうけたけど三男以外の息子は戦死してしまったわ…夫も
長女はオイリ(喜び・幸福・楽しみ)という意味よ
38でわたしは亡くなって、8歳のオイリは別の家に引き取られたわ…赤紫の翼が理由でいじめられたからとても心配…でもカティンカという最強の剣士の義妹ができて、オイリも元気になったみたい

三男にはモロクと名付けたの…わたしの初恋だったのはヒミツ
死ぬ前に真っ白になったわたしの髪をみて
「この顔に見覚えはあるか…」と謎の紳士が訪ねてきたわ

「…ごめんね、もう目が見えないの」
「アリス」

「その声はモレクかしら…貴方に会えるなんて、奇跡みたい」
「アリス…まだ逝くな、儂は寂しい
お前の為に魔術を勉強した、お前の呪いを解く為に
間に合わんくて申し訳ない…」

「…モレク、貴方に頼みがあるの」
「抱けと言われても抱けんぞ、病の女に手を付けるのは紳士失格だからな」

「そんなこと言わないわ、わたし達は心で通じ合っていたのだから
絵本通りに終わるの

モレク…わたしの為に、オイリを妻にしてあげてほしいの
心優しいロリコン紳士の貴方ならきっと幸せにできるわ」

フィオナの白い髪を撫で、弱弱しい手を握る

「…必ず約束しよう
オイリが20辺りの時に攫いに来るからな、モロクにもそう言っとけ

アリス、フィオナ…永遠の初恋、本当の天使みたいに真っ白で美しいですよ
背筋が凍る程に
ウサギの僕にピッタリの王女様」

昔の口調と声に戻ってやる
アリスの為に

「ありがとう…!わたしの、大好きな…王子様」

アリスはもう動かんかった
儂は冷たくなるアリスの体に空虚を覚えた

「フィオナ…我が最愛の天使
白い天使なんて大嫌いだったのにな…
お前はいつまでも綺麗な女神だった

お休みアリス…永遠の中で良い夢を」

最後の最後にアリスの冷たい唇に口付けた
最初で最後の口付け…王子様なんて程遠い

葬儀の際にずっと泣いている8歳のオイリをあやし続けた
「いつかお前を迎えに来るからな、それまでとびっきりの美女になれるように生きろよ」




【後書き】
サイトに置いていた烏王創世記初の作品で少し削っています。

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