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Chapter16 - Side:EachOther - E
239 > 終業後 ー13〜 慕情(Side:Sugar)☆
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(Side:Sugar)
左隣にいる汐見が、俺の目の前で、初めて声を上げて泣き出して───
〝……いつもと立場が逆だな……〟
いつもは、涙脆い俺を汐見が見守ってくれる。
だけど、汐見が声を殺しながら泣く、その姿が切なくて悲しくて……愛しさが込み上げてきて……
思わず、握っていた汐見の右手を引いて……抱きしめた。
「!!」
俺に抱き止められた汐見の体が、一瞬、ビクッと震えた。
だけど──それ以上の抵抗は一切なかった。そのことに俺は、思った以上に安心した。
俺に顔を見られたくないだろうと思って、汐見の左肩に自分の顔を出して。
俺の左肩あたりに汐見の顔が当たる。
〝……勢い余って……告白の返事を聞いばかりなのに……プロポーズ、しちまった……〟
だがそれは、偽らざる俺の本心だ。
心からの、言葉だったから……
「その……いきなり……ごめんな……でも、本当にそう、思ってるから……」
「……」
「考えておいて欲しい……その……ぷ、プロポーズの返事、も……」
抱きしめている汐見の体は暖かい。だけど、汐見の返事はない。
少し怖くなった俺は、急いで付け加えた。
「い、今すぐじゃなくていいから」
こないだ告白して、その返事を数時間前にもらったばかりで、恋人になる前にいきなりプロポーズ、ってのは我ながらちょっと、性急すぎだと思う。
思うけど───
〝それくらい、本気だ、って。俺の気持ちを、ちゃんとわかって欲しい……〟
それも本心だ。
汐見は、〈春風〉と離婚しない限り、きっとそういうことは──次の恋愛とか、交際とか、絶対考えられないだろうと思っていたから、汐見が離婚するまで言うつもりはなかったんだ────
〝あんなこと聞いたら……もう、言うしかないだろ……〟
『離婚した』って、本人から直接聞いた瞬間、もう、言いたくて。……一旦、口をついたら、止まらなかった。
涙を流しながら話す〈春風〉とのことを聞いて……聞いてる最中も……触れたいと思った。
汐見が、これほど弱ってるのを見るのは初めてで。
俺が支えたいと思った。いつも思っていたけど。
もう……今日は堪らないくらい、汐見を抱きしめたかった。慰めたかった。
離婚して、フリーになった汐見にまた懸想する人間が現れて、汐見がまた俺以外を選ぶ……そんな未来をまた見るくらいなら、最初からそんな機会を潰しておかないと! ……って……必死だった。
〝必死すぎだ、俺……〟
でもそれくらいしないと、汐見には伝わらない。それが、ここ数年でわかった。
わかったならもう実力行使するしかない、と思ったんだ。
〝汐見……しおみ……俺を、選んで……俺の、そばで……〟
極力声を押し殺そうとしゃくり上げている汐見の背中を軽くさする。子供をあやすように。
嗚咽を零す汐見が俺の腕の中に収まって、大人しくしているその事実が───
本当に嬉しくて愛しくて切なくて……俺の方が泣きそうになる。
汐見の漢気を、俺は誰よりも、何よりも知っている。
知っているが故に、汐見が誰にも頼らずにどうにかしようとしていることも、過去の事実から推測できる。
これからも……〈春風〉と別れた後も、自分1人で解決していこうとしてるのも、わかる。
「汐見……その……プ、ロポーズの話は置いといても……俺を、頼って欲しい……お前に、頼られたい」
「……」
さっきから返事はない。けど、俺の先刻の申し出と行動で、汐見にはきっと伝わっていると思う。
思いたい。
汐見と接している俺の左肩の部分が、涙で少ししっとりとしてきてるのがわかる。
汐見の匂いも移っているだろうことを考えて
〝……このシャツ、あと2日くらい洗わないで置いておこう……〟
この期に及んで、またしても邪なことを考えてしまう。
仕方ない。それが男の習性ってもんだ。
今日の返事から、こんなに早く汐見を堂々と抱きしめる機会が巡ってくるとは思ってなかった俺は、かなり不謹慎だとは思ってはいるが
〝……この体勢……で、汐見の、匂い……〟
そろそろ……〝本気でヤバイ〟と感じ始めていた……
汐見の声が少しずつ小さくなっていた。呼吸を整えようとしているのか、泣いて詰まってしまった鼻を啜る音が左の方で聞こえる。
〝……顔、見たい……さっきの……泣いてる顔……も、かわいかった……〟
汐見を見る俺の視界には『世界一かわいい汐見』フィルターが掛かってるので、何をしてもかわいいとしか思えない。それを自覚してもなお、その……汐見の存在、が……
〝……ヤバイ……汐見の、体温、匂い……と、低い声、が……〟
俺の股間に影響し始めている───
〝こ、れ、は……〟
そこには接触していないし、見えていないだろうから問題ない気がするが、その……これ以上こうしていると、離れた時にさすがにバレる……
〝離れたくない…………ずっと、こうしていたい……〟
俺の頭はお花畑になっていた。
ようやく汐見が、モゾっと動いて、抱きしめられたまま俺の左胸に頭頂部を当てる。
すると、ボソッと汐見が
「……立ってる……」
呟いた。何のことか分からずにいると。
「……佐藤、お前、立ってるぞ……」
「!!!」
〝えっ!! ちょっと待て! え?!〟
びっくりして、ガバっと汐見の両肩を捕まえて離すと
「これ……」
「!!!」
充血した目を上目遣いにして、汐見が俺の股間を指差していた。
「う、うぁ! そ、そのっ!!」
「……ED、っつってなかったか?」
「そ、そそそそ、その……!!」
ついさっきまで、穏やかでしっとりとした甘い空気が一瞬にして変な雰囲気に一変して
「ははっ……お前……EDって、嘘かよ……」
泣き腫らした目で、面白そうに笑った汐見の発言が聞き捨てならずに俺は思わず
「ち、ちがうっ! お前以外に勃たないってことだっ!」
本当のことを言ってしまった────
左隣にいる汐見が、俺の目の前で、初めて声を上げて泣き出して───
〝……いつもと立場が逆だな……〟
いつもは、涙脆い俺を汐見が見守ってくれる。
だけど、汐見が声を殺しながら泣く、その姿が切なくて悲しくて……愛しさが込み上げてきて……
思わず、握っていた汐見の右手を引いて……抱きしめた。
「!!」
俺に抱き止められた汐見の体が、一瞬、ビクッと震えた。
だけど──それ以上の抵抗は一切なかった。そのことに俺は、思った以上に安心した。
俺に顔を見られたくないだろうと思って、汐見の左肩に自分の顔を出して。
俺の左肩あたりに汐見の顔が当たる。
〝……勢い余って……告白の返事を聞いばかりなのに……プロポーズ、しちまった……〟
だがそれは、偽らざる俺の本心だ。
心からの、言葉だったから……
「その……いきなり……ごめんな……でも、本当にそう、思ってるから……」
「……」
「考えておいて欲しい……その……ぷ、プロポーズの返事、も……」
抱きしめている汐見の体は暖かい。だけど、汐見の返事はない。
少し怖くなった俺は、急いで付け加えた。
「い、今すぐじゃなくていいから」
こないだ告白して、その返事を数時間前にもらったばかりで、恋人になる前にいきなりプロポーズ、ってのは我ながらちょっと、性急すぎだと思う。
思うけど───
〝それくらい、本気だ、って。俺の気持ちを、ちゃんとわかって欲しい……〟
それも本心だ。
汐見は、〈春風〉と離婚しない限り、きっとそういうことは──次の恋愛とか、交際とか、絶対考えられないだろうと思っていたから、汐見が離婚するまで言うつもりはなかったんだ────
〝あんなこと聞いたら……もう、言うしかないだろ……〟
『離婚した』って、本人から直接聞いた瞬間、もう、言いたくて。……一旦、口をついたら、止まらなかった。
涙を流しながら話す〈春風〉とのことを聞いて……聞いてる最中も……触れたいと思った。
汐見が、これほど弱ってるのを見るのは初めてで。
俺が支えたいと思った。いつも思っていたけど。
もう……今日は堪らないくらい、汐見を抱きしめたかった。慰めたかった。
離婚して、フリーになった汐見にまた懸想する人間が現れて、汐見がまた俺以外を選ぶ……そんな未来をまた見るくらいなら、最初からそんな機会を潰しておかないと! ……って……必死だった。
〝必死すぎだ、俺……〟
でもそれくらいしないと、汐見には伝わらない。それが、ここ数年でわかった。
わかったならもう実力行使するしかない、と思ったんだ。
〝汐見……しおみ……俺を、選んで……俺の、そばで……〟
極力声を押し殺そうとしゃくり上げている汐見の背中を軽くさする。子供をあやすように。
嗚咽を零す汐見が俺の腕の中に収まって、大人しくしているその事実が───
本当に嬉しくて愛しくて切なくて……俺の方が泣きそうになる。
汐見の漢気を、俺は誰よりも、何よりも知っている。
知っているが故に、汐見が誰にも頼らずにどうにかしようとしていることも、過去の事実から推測できる。
これからも……〈春風〉と別れた後も、自分1人で解決していこうとしてるのも、わかる。
「汐見……その……プ、ロポーズの話は置いといても……俺を、頼って欲しい……お前に、頼られたい」
「……」
さっきから返事はない。けど、俺の先刻の申し出と行動で、汐見にはきっと伝わっていると思う。
思いたい。
汐見と接している俺の左肩の部分が、涙で少ししっとりとしてきてるのがわかる。
汐見の匂いも移っているだろうことを考えて
〝……このシャツ、あと2日くらい洗わないで置いておこう……〟
この期に及んで、またしても邪なことを考えてしまう。
仕方ない。それが男の習性ってもんだ。
今日の返事から、こんなに早く汐見を堂々と抱きしめる機会が巡ってくるとは思ってなかった俺は、かなり不謹慎だとは思ってはいるが
〝……この体勢……で、汐見の、匂い……〟
そろそろ……〝本気でヤバイ〟と感じ始めていた……
汐見の声が少しずつ小さくなっていた。呼吸を整えようとしているのか、泣いて詰まってしまった鼻を啜る音が左の方で聞こえる。
〝……顔、見たい……さっきの……泣いてる顔……も、かわいかった……〟
汐見を見る俺の視界には『世界一かわいい汐見』フィルターが掛かってるので、何をしてもかわいいとしか思えない。それを自覚してもなお、その……汐見の存在、が……
〝……ヤバイ……汐見の、体温、匂い……と、低い声、が……〟
俺の股間に影響し始めている───
〝こ、れ、は……〟
そこには接触していないし、見えていないだろうから問題ない気がするが、その……これ以上こうしていると、離れた時にさすがにバレる……
〝離れたくない…………ずっと、こうしていたい……〟
俺の頭はお花畑になっていた。
ようやく汐見が、モゾっと動いて、抱きしめられたまま俺の左胸に頭頂部を当てる。
すると、ボソッと汐見が
「……立ってる……」
呟いた。何のことか分からずにいると。
「……佐藤、お前、立ってるぞ……」
「!!!」
〝えっ!! ちょっと待て! え?!〟
びっくりして、ガバっと汐見の両肩を捕まえて離すと
「これ……」
「!!!」
充血した目を上目遣いにして、汐見が俺の股間を指差していた。
「う、うぁ! そ、そのっ!!」
「……ED、っつってなかったか?」
「そ、そそそそ、その……!!」
ついさっきまで、穏やかでしっとりとした甘い空気が一瞬にして変な雰囲気に一変して
「ははっ……お前……EDって、嘘かよ……」
泣き腫らした目で、面白そうに笑った汐見の発言が聞き捨てならずに俺は思わず
「ち、ちがうっ! お前以外に勃たないってことだっ!」
本当のことを言ってしまった────
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