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Chapter16 - Side:EachOther - E

238 > 終業後 ー12〜 幸せの形(後編)(Side:Salt)☆

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(Side:Sugar)



「『お前の幸せ』は、家族を作る事、かもしれない。……けど、『俺の幸せ』は違う」

 佐藤は、静かに、自分にも言い聞かせるようにオレに伝えようとしていた。

「俺の夢は……俺の……は、お前と一緒にいること、だよ」
「!!!」

 佐藤のその顔には笑みだけじゃない決意が、みなぎっていた。

「『俺の幸せ』は。お前じゃない」
「!!」

 その言葉は、オレに対する非難ではなく……オレの中の、凝り固まった何かを突き崩そうとしていた。

「……『お前の幸せ』もお前が決めるんだ。決めていいんだ、汐見。……『お前の幸せ』は、お前のものだろう?」

〝……誰か、が……〟


『あんたの人生だってあんたのものだろう?』


 佐藤の言葉が、その意味を包み込んで、握られた手から伝わってくる。
 その気持ちが……オレの心に、降りてくる。

 オレの顔を見ながら、言ってくれる。伝えてくれる。佐藤は────

〝言葉で──視線で──熱量、で────〟

「……俺の将来も、〈春風〉への罪悪感も……全部、置いたとして……お前は、どうしたいんだ?」

〝オレは……佐藤、が……〟
〝サトウが、スき〟
〝サトウノジンセイヲクルワセルノカ?〟

〝違う、ちがう……けど、佐藤は……〟

 佐藤は、オレに伝えようとしている。
 オレが、目を背けようとしていることも全部。丸ごと。呑み込んで。

「自己犠牲なんて……お前らしいよ。けど……俺は……」

 握っている手から、オレに──佐藤から、何かが流し込まれて来る。

〝オレは……〟
〝オマエハ、バツヲウケルベキダ〟
〝シオミ、チガうよ、ちゃんと、ココロのコエを! キいて!〟

「『お前の幸せ』と『俺の幸せ』が重なるなら。俺は、それを選びたい」
「!!」

 オレの、心に触れようとしている、佐藤のその声に────

〝オレは……〟

「同性愛、とか……そんなの、本当にどうでも良いんだ。とにかく……」

 佐藤の声と視線に、火傷しそうなほどの熱量を感じる。

「子供なんかいらない。俺が……一緒にいたいと思うのは、だから」
「!!!」

 脳裏にまた、別の声が響く。


『結婚して子供を持つことだけが人生でもない』


 新たに頬を伝うオレの涙を見て、佐藤は微かに笑いながら、言い募る。

「『言葉を尽くせよ』って、こないだ、お前言ったよな」

〝……言った……あれは……お前が、ずっと片想いしてる人がいるって……オレが『知らない人』だって……なのに、オレの……〟

「だから俺はお前にそうする。お前に言葉を尽くして言ってやる」

 すう、と呼吸を整えた佐藤が完全に体をオレの方に向けて、熱量を持ってオレに訴えてくる。

 オレの右手を持ったまま持ち上げた佐藤は、オレの右手の甲に自分の右手を重ねて────

「お前といたい。汐見。ずっと、ずっと……死ぬまで」

〝あぁ……佐藤、本当に、お前……〟

 その言葉を、オレは半ば予想していた。

「……なんだよ、それ……」

 一瞬、佐藤が黙った。
 半泣き、半笑いになっているだろうオレの顔を、じっと見つめて。

 ジワり とまた目頭が熱くなるのを感じて、鼻を啜る。

〝お前は……こんな、オレに……〟
〝サトウヲ、ヒキズリコムノカ〟
〝チガう! サトウもシオミも、オナじ!〟

 佐藤に視線を固定したまま動くことができなくなったオレに、渡したハンカチとは別のハンカチをどこからか取り出して佐藤はオレの涙を拭ってくれた。

「お前の残りの人生……お前のそばにいる権利を、俺にくれ」
「はは……なんだ、それ……プロポーズ、かよ……」

「そうだよ、汐見」

 これ以上ないくらい眩しい笑顔で、佐藤はオレに笑いかけた。

「1人で生きて行こうとするお前の隣に立っていたい。何かある時にこそ、お前を支えたい。そして、俺に何かあった時は、お前が俺を支えて欲しい」

 頬を濡らすほど滂沱ぼうだしているのはオレだ。

 だけど、佐藤の目にもうっすらと────

「お前に全身で寄り掛かってくる〈春風〉を支え続けて、お前は1人だった……お前自身は〈春風〉に支えられたりなんかしなかったはずなのに……お前は自分の荷物だけで手一杯だったはずなのに……」

 佐藤の言葉の影に、追随する言葉の破片がオレの脳内で反響する。

『たとえ奥さんだろうと……夫婦だろうと家族だろうと……自分以外の荷物を勝手に背負っちゃいけないと、俺は思うけどね』


〝オレは……紗妃を、救いたくて…………また、救えなかった……〟
〝チガうよ、シオミ。サキは、ジブンから……〟

「俺は寄り掛からない。その代わり、何かあればお互いに助け合って、支え合いたい。そうやってお前の隣で、笑いながら……生きていきたい」
「長い……プロポーズだな……」

「伝わった、だろう?」

 嬉しそうに、照れ臭そうに目元を紅くして笑う佐藤の表情に嘘偽りはカケラも見当たらなくて────

「……さとぅ……お、お前……う……ぅゔぅぅーーーっ……」

 オレは……今いる場所も考えられず、とうとう……声を上げて泣いた────







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