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Chapter14 - Side:Salt - D

213 > 後日ー07(電信柱)

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 ◇◇◇◇◇



 電信柱に隠れてベランダの様子を窺ってる佐藤を見てオレは……そのスマホの画面に映る、佐藤の顔に触れていた──無意識に──

 紗妃との夫婦仲が冷えた──オレが紗妃の逃げ場所にならなくなった──【きっかけ】はあったが、それを佐藤のせいにする気は毛頭ない。

 だから、というわけではないが……佐藤に紗妃に関することはなるだけ言わないようにしていた……

 ──お義母さんが、あのタイミングで亡くなったことも────

 そもそも

〝ここ数日……色んなことが起こりすぎたな……〟

 ……東北出張の時に感じた『佐藤を失いたくない』という気持ち……あの時はまだ曖昧なものだった。

 紗妃と冷め切った時でも……自分の気持ちを言葉にすることができなかった……紗妃に刺された直後の病院でもそうだった。

〝なんて説明すればいいのか……わからなかった……〟

 自分の気持ちと感情に蓋をし続けていたからわからなかった────
 
〝こんなにも……〟

 オレの心に住み着いている人間がいたのに────

〝オレたちが紗妃と出会う、もっと……もっと、前から……〟

 佐藤は、オレを……オレ、だけを────

 佐藤の気持ちを知ったからオレは流されているのか。
 佐藤の気持ちを知る前からオレは佐藤のことを大切に思っていたのか。

〝どっちが先、だ……〟

 自分の気持ちなのに自分の思うようにならないことに、歯痒さを感じている。

〝でもこいつは……真っ直ぐ、なんだな……〟

 オレが異性に拘る以上に、佐藤は女性にモテる。
 どれだけ選り好みしたって、その通りの女性が現れるだろう。

 オレが羨ましくなるくらい。
 なのに、その自分の選べる立場? を放棄して

〝オレなんかに……〟

 佐藤のその見た目。それだけに価値があるわけじゃない。
 けど、オレなら──オレがお前なら────

〝お前は……自分の子孫を残そうとか……考えたりしないのか?〟

 他の人間がどう思うのかわからない。
 だが、人の……動物の本能として自分の遺伝子を残そうと思うのは自然の摂理なんじゃないだろうか。

 それを考えると……いや、そうじゃなくても……

〝オレが持ってないものを、お前はたくさん持っている……オレが果たせない、実現可能な明るい未来を……お前は、叶えるべきなんだ……〟

 オレの独り善がりなんかじゃないはずだ。

 佐藤と番い夫婦になって……子供が欲しいと思う女性なら、佐藤の既知の知り合いだけでも数十人はいるはずだ。

〝お前に相応しいのは……そういう女性だ……〟

〝でも、サトウが、スき。だよね?〟

〝サトウハ、コドモガツクレル〟

〝……そうだ〟

〝じゃぁ、サトウはシオミとケッコンできない?〟

〝そもそも日本では男同士で結婚できない……〟

〝サトウハ、カゾクヲツクルケンリガアル〟

〝シオミには、ナい?〟

〝……権利……オレには……独りで生きていく『自由』しかない、だろう……〟

〝そのジユウは、サトウとイッショでは、デキない、の?〟

〝オマエノジユウニ、サトウヲシバルケンリハ、ナイ〟

〝……そうだよな。オレと佐藤は違う……佐藤の人生自由は、佐藤のものだ……〟

 頭の中で複数の人から言われた言葉が木霊する。


『あんたの人生は、あんたのもんだろう?』

『自分の心が正しいと思う方を選ぶんだよ。それを選択して前に進むんだ』


〝オレの人生と、オレの心が求めるもの。両方を選べないなら……どちらを選択するべきなんだろうな……〟

 オレの人生だってオレのものだ。

 だが、オレが佐藤を選ぶ未来には、オレどころか、佐藤にも……

〝遺伝子の、方舟……〟

 どこかで聞いた進化論の話を思い出す────
 
 オレは、佐藤を選ばない未来を考える。

 そして……佐藤を選んだ先に何があるのかも────

〝何も、残らない……残せない。オレどころか佐藤まで……〟

〝タダしいのは、ナニ?〟

〝タダシイコトトソレハ、リョウリツシナイ〟

〝……オレたちは……〟

 画面にいる佐藤が動き出した。
 どうやら今日は引き上げるらしい。

〝何時間そこに立ってたんだよ……〟

〝サトウノモノハサトウヘ、サキノモノモサキヘ、カエスベキダ〟

〝そうだよな……オレが、欲張りすぎたんだ……紗妃も、佐藤も……なんて……〟

〝ココロは? シオミのココロは?〟

〝オレの、心…………ソレが佐藤の人生自由を捻じ曲げるなら……〟

〝シオミ!〟

〝ソウダ。ミチヅレニスルナ〟

〝オレの心は、必要ない……正しくても……佐藤が望んでも……〟

〝シオミ……〟


 佐藤が帰った後、雨が降り始め。

 オレは、来週まで休むことを決めた。


〝なぁ、佐藤。オレの選んだ道を、お前にこそ応援して欲しい。いつかきっと、笑える日が来る……〟






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