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Chapter13 - Side:Sugar - B

206 > 再会−09(利己主義な本音)

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「……神奈川に営業に行くのは頻繁じゃない。月2くらい? でも懇意にしてる会社で。急いでたから、近道になるラブホ街を抜けようと思ったんだ。そしたら……」
「……」

「あれだけ派手な〈春風〉を見間違うはずがない。相手の男と腕組んで歩いて……汐見に聞いた話だと『紗妃はあまりスカートを履かないんだ』って言ってたのに……花柄のひらひらしたスカートを……」
「……まぁ、そこまでアレなら確定だわな……」

 俺はその光景を見た時、あまりに混乱して何も言えずに2人が気づかないまま立ち去った。
 頭の中に残った〈春風〉と他の男の姿を脳内イメージに焼きつけたまま会社に戻って、汐見に会って。

〝あの時すぐに言えばよかったんだ……〟

 でも言えなかった。無心に仕事をしている汐見を見て、汐見は〈春風〉のためにこんなに一生懸命働いているのに汐見が働いてる時間を見計らって『〈春風〉が不倫してるぞ』だなんて……

〝汐見のためを思うなら、言うべきだったんだ。だけど……〟

「……まぁ、今更言ってもどうしようもないけど」
「……」

「……なんでその時に言わなかったんだ?」
「……」

「その時に言ってれば、傷は浅くて済んだんじゃないか?」
「……」

 まさにその通りだからこそ、俺は橋田に答えることができなかった。

〝あの時に……言えれば……〟

 俺が色々考えてると、橋田が

「まぁ、お前の中にずるい算段があったことは否定できんな」
「!!」

「〈春風〉が不倫してて、いずれそれが汐見に発覚したら離婚するかもしれない、そう思ったとしてもおかしくない」
「!!」

 俺の浅ましい利己主義な本音をピンポイントで指摘した橋田に驚きつつ

「お前の状況なら……俺もそう考えたと思うし、迷っただろうな。それに……もう今更、非難できるようなことじゃねぇだろ」
「……」

 でも同じように思ったはず、と言ってくれたことに少し安心した。
 俺たち2人は各々、空になったグラスを眺めながら……

「そもそも……結婚して1年ちょっとで不倫して1年継続してるって……非難されるべきはお前じゃなくて春風の方だろ」
「……そう、か……」

「それに、春風を応援して汐見と結婚するよう手引きしたのはお前だって汐見から聞いたぞ。恋敵なのにさ」
「……それ、は……」

〝それは……鎌倉で約束したからだ……〈春風〉と……〟

「まぁ、状況は変化するものだし、お前の汐見に対する気持ちが変わらないままなら、もしかしたらワンチャンあるかもしんねぇぞ」
「? ワンチャン?」

 一瞬、橋田の言う『ワンチャン』の意味を測り損ねて問い返す。

「おい~……お前、ほんっと、今日はぼーっとしてんな」
「……すまん……ちょっと……キャパ限界で……」

「まぁ、お前が思う以上に、汐見はお前のこと気に入ってると思うし……」

 橋田が考えながら話しているようで、左手で捕まえたグラスを見ながら話す。 

「春風の不倫現場を見たことを言わなかったのはちょっとアレだが……でも不倫してる春風より……不倫現場を目撃してそれを報告しなかったお前が糾弾されたりしたら……ちょっと汐見を疑っちまうな」
「そう……かな……」

 俺は汐見にすら告げてない事実を橋田に話したことでようやく肩の荷が下りたような気がした。

「ま、なんつうの。なるようにしかならんが、お前が考えてるほど悲観することはないと思うぜ」

 そう言ってくれた橋田に安心しつつも、俺はまだ一抹の不安を抱えていた。

〝せめて……返信があれば……〟

 その後、橋田と俺は(汐見に関すること以外の)近況報告をしたりと色々話し込んだ。







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