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Chapter12 - Side:Other - D
197 > 佐藤の不安
しおりを挟む「佐藤先輩、これはどうすれば……」
「……ん? あ、あぁ、それは……サーバーの共有フォルダに入ってる……ああ、ちょっと待って」
「あ、これですか?」
「……そうだな……あのファイルは権限必須だから、見たい場合は都度俺に言って」
「わかりました! ありがとうございます!」
カタカタと無言で、無心に佐藤が会社のPCの前に陣取ってもう5日目。
有給を取り終えて会社に戻ってきた月曜日はいつになくソワソワしながら仕事をしていた。
月・火・水と3日連続で、外回りにも出ず、休憩の度に開発部に顔を出す佐藤に、下北沢が
『佐藤さん、汐見先輩が出勤したら内線で知らせますんで、あんまりウチに顔出さないで欲しいっす。佐藤さんが来ると、納期前チームの女子の仕事が進まなくなっちゃうんで……すんません』と小声で言われたくらいだった。
一応、月曜日には開発部にいる同期の太田に聞いてみたのだ。
『来週いっぱいまで有給取ってるみたいだな。よくわからないけど。抱えてる今の案件は大戸主任と俺と他の後輩連中に配分されてさ。まぁ、汐見さんが持ってるプロジェクトはだいぶ落ち着いてきてるのが多いから……今休暇取るのはチャンスっちゃチャンスじゃん?』
太田はさも、今くらいしか休暇取れないだろ、とでも言いたげだった。
だが、佐藤からすると、自分と汐見が会社に来なければ単純に接触する機会がないのだ。
〝……やばい……本格的にヤバイ……〟
佐藤は昨年、汐見への執着を自覚して以降、汐見の姿を2日見ないと不安になるという神経症のような状態になっていた。
〝3日どころじゃない……もう5日……木曜日に物別れした後の鬼LIMEが不味かったのか? でもどうしようもなかった……〟
それだけじゃない。佐藤は
〝……あのまま、なんて……怖すぎる……金曜日にマンションまで行ったけど……結局外出しなかったみたいだし……〟
その行為がどういう類いのモノなのか、ということにまで、頭は回っていなかった。
〝それに……送ったLIMEのうち感情的すぎるのは削除したけど、今も未読のままだし……〟
流石に未読状態のLIMEに送るのは……と思いながら……
居ても立ってもいられなくて、結局1日に1回。帰宅後にLIMEしてしまっていた。
つまり、木曜日に送った鬼LIMEが未読の状態のまま、既に4件送信済みだ。
〝返信どころか未読って……それは、もう…………ってこと……だよ……な……〟
考えれば考えるほど、悪い方向にしか向かない思考が呪わしかった。
〝どうしよう……どうしよう……どうしたらいいんだ……俺は…………もう……〟
汐見とのことに決着がついていないのに、日々は無常に降りかかってくる。
汐見ほどの社畜ではないにしても佐藤も会社人だからして、平日は通常通り出社しなければならない。
これまで、出勤の8割は汐見に会いに行く口実のようにもなっていたため、毎日幸せな気分で出社していたのに。
〝汐見が来ない会社なんて……〟
仕事も手に付かない。というか、やってはいるものの、細かいミスを連発して部下にまで心配されている。
〝汐見電池が切れてるのに……俺がまともに動けるわけないだろ……〟
週に3回行ってたジムにも行かず、帰社時間には定時に上がり、そのまま自宅に直帰する。なのに、何もやる気が起きず、食事も作らなくなってインスタントやレトルトを食べる。時間だけは有り余るので、帰ってきて夕食を食べたら即、あの部屋に行って【あの壁】を全開にして汐見に囲まれながら恒例のアレをする。先週の金曜日から毎日
〝1日に……3時間以上…………〟
───そういう日々を過ごして1週間が経過していた。
汐見の妄想をして、脳内の汐見に好きなことをしてる間だけは、汐見との間にあったことを忘れていられる。
現実の苦しさや、やるせない思いを忘れるためにも……佐藤はもうそこにしか逃げ場がなかった。
しかも、妄想に没頭するあまり
〝リアルに汐見に会ってないから……頭ん中、バグってきた……〟
汐見を思い出そうとすると、AVに出ているあの男優の痴態を思い出す始末だ。
本物の汐見がそんなことをしているのを見たことなど、一度もないのに。
流石に3日もずっと外回りに出ようとしない佐藤に、上長から直々にお達しがあった。そのため昨日は最寄りの駅近にある営業先にまだ少し新人くささの抜けない後輩・吉野の付き添いで出たのだが、それ以外はずっと会社に居る。
だが……
〝やる気が起きない……俺って……こんなに空っぽだったっけ…………〟
自分が仕事好きではない自覚はある程度あった。だが、仕事の虫である汐見に会える張り合いがあったからこそ、会社に出勤するのにも楽しみを感じていた。
佐藤にとって必要不可欠な存在が日々の佐藤の心を支えていた────
〝会社に行けば汐見に会えるって……思、って…………〟
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