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Chapter12 - Side:Other - D
190 > 決戦の日−09(他の愛人たち)
しおりを挟む「……志弦さん?」
「はいはい。とりあえず私の方から、もう少し説明させていただきますわ」
「?」
「池宮先生なら不倫の慰謝料の金額に根拠が具体的な根拠が不要なのはご存知ですよね」
〝えっ?!〟
「精神的苦痛の算定なんてどうやってやるのか、という話なので。ただ、一応、事実として根拠はあります」
「……」
「夫・隆が、私の銀行口座を引落口座に指定しているブラックカード。そちらから算出いたしました」
「!!」
「こちらです」
そう言って、志弦はテーブルの書類から何かを引き抜いて見せる。それはクレジットカードの明細をコピーした書類だった。
「彼、そういうことに本当に無頓着なので。明細を私が管理・確認してるなんて知らなかったと思いますわ」
〝そ、そこまで金銭管理に杜撰な人間て……〟
「宝飾店やブランド店、ビスポークの服や靴店など……いわゆる贅沢品しか置いてないお店の利用金額を過去4年分、全て洗い出してみたら、3千万強でした」
「!! ……そ、それは、融資した金額とは別に?」
「ええ、それとは別に」
「……」
汐見と池宮が呆気に取られていると、大石森が右手でオールバックの前頭部をカリカリと掻く。
「こう言ってはなんですが、隆さん……志弦さんの夫の隆氏は愛人に金を直接渡すような人じゃなくてね。なので、逆に足がつきやすい。おかげで今回は助かったんですが」
「そういうところがおバカなのよね」
「な、なんでそんなこと……」
志弦は皮肉っぽい表情を混ぜたまま、またしてもニッコリと微笑んだ。
「お金を渡しちゃうと、相手が何に使ったかわからないでしょ? 高級品を贈ると自分が買ったものだとすぐにわかるし、身につけていると感謝されてる気持ちにもなって気分がいい。愛人たちが自分が買い与えたものを身につけたり持ち歩くのを見るのが趣味だったの」
「……」
汐見は絶句してしまった。愛人を抱える金持ちの本当の意味で悪趣味だ。
要するに吉永隆は、愛人に買い与えた物を彼女たちが身につけたり持ち歩いているのを見ることで、彼女たちが自分の所有物であることを都度、確認していたということで……
そしてそれは紗妃も。
〝オレと出歩く時には着てくれない花柄のフレアスカート、お洒落な場所に行くときだけよく履いていた赤いパンプス……あの時はそれに……初めて見たバッグが……〟
先々週の木曜日に起こった出来事を走馬灯のように思い出してしまった汐見は
〝き、もち、悪い……〟
込み上げてくる嘔気を感じ始めていた。
「あと。定期的に "あのカバン、最近見ないね" とか "こないだあげたネックレス、気に入らなかった?よく似合ってたから今度見せて欲しいな" とか言って、質流ししてないかも確認してたそうですわ」
吉永隆と出かける際、彼から贈られたものを愛人が身につけるのは半ば強制だった。そうでないと一緒にいる間、ずっと不機嫌だからだ。そのため、愛人たちは細心の注意を払って彼からの贈り物とそうでないものを判別し、隆と会うときは彼からの贈り物で身を固めてから出る習慣も身につけていた。
〝しかも、それを身につけさせて、換金されていないことを確認する、って……〟
その醜悪な束縛と顕示欲と独占欲が見える吉永隆の行動と、それに従っていたであろう紗妃を思って汐見は苦しくなる。
〝紗妃……そんなことをしてまで……〟
「こういうことを言うのは大変失礼かと思うのですが……」
「?」
「……夫は……離婚したとしても、紗妃さんと結婚するつもりは毛頭ないと思いますよ」
「え?!」
「そもそも離婚するつもりがなかったと思います。私の夫業やってるほうが遥かに楽だし、金回りも都合もいい。……別居してからは、30代の一般女性のアパートに転がり込んでヒモみたいに生活してるようですし……」
憐れむような表情を見せる志弦が汐見に
「最近、遊び仲間と会う度に連れ歩いて自慢してるお相手は、170cm近い長身の女子大生モデルのようですから」
最後通牒を言い渡した。
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