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Chapter12 - Side:Other - D

188 > 決戦の日−07(同性の恋人)

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「互いに日本人であることや、異国の地で身一つで頑張っている彼女の姿に親近感など、様々な感情が湧いて……彼女の2人の子供たちとも仲よくしてました」
「「……」」

 日常で女性同士での恋人というのはあまり聞くことがない。
 それどころか、現役で世界的にも有名な経済雑誌に載るほどの女社長に同性の恋人がいる、という事実に池宮も汐見も度肝を抜かれていた。

 汐見は恐る恐る質問してみる。

「そ、その……女性同士ということに、て……抵抗は、ないんですか?」
「? なぜ?」

「え、そ、その、やっぱり同性だと……恋人とか、あまり公然とは……」

 汐見に言われ、志弦は細長い指で顎をつまんで考える。

「……そうですね……日本暮らしにくいと感じました」
?」

「向こうでも強烈な拒否反応を示す人はいます。でもこちらほど閉鎖的ではない、かな。公共の場でそういう行為を想起させるようなことをしない限り、表立って否定する人は減ってきた気がします。同性の恋人がいる人数が日本より多いからでしょうね。それに……」

 どうやらその女性のことを考えているのだろう。志弦の表情には艶が出ていた。

「私は学生時代から恋人は男女問わなかったですしね」
「え?!」

「あら、そんなに驚くことです?」

 キョトンとした表情だと志弦はかなり若く見える。現役の社長業をやって生気に満ちているせいか、志弦は若作りではない瑞々しさを感じる。

「そ、それは……」
 
 渡米した後の話ではなく、日本にいる時からの性的志向だとすると、相当少数派だ。
 汐見には、日本の同性愛や両性愛に対する環境をかんがみるに志弦のような柔軟な考え方はかなり特殊で異例だと思われた。

「私にとって、その時その時で好きになる相手が異性だったり同性だったりするだけです。同じ人間で、犯罪になるような未成年相手にはそもそも恋愛感情やそういう欲求は抱けないですし……何か問題あります?」
「え……っと、その……」

 そのサラっとした何の拘りもないような返答に、汐見だけでなく池宮も呆気に取られていた。
 だが、汐見は薄い意識の下でその返答に我知らず親近感を抱き始めている。

〝……そうだよな……同じ人間なんだから……別に恋人は女性に限らなくてもイイんじゃないかと……〟

 汐見自身が無意識に閉じ込めていた感情をこの女性は別に問題ないでしょう?と言い切り、自分の中にある認識として提示した。
 それに共感したくなる自分と、一般的じゃないと否定したい自分が汐見の内面でせめぎ合いを始めようとしている。

「こういうことを言うと誤解されそうですが……女性同士の方が思っていることを察しやすい……予測しやすいということもあるような気がするんですよね。お互いの意思疎通に齟齬そごが少ない……感じです。予想した相手の行動や真意に乖離かいりが少ないというか、悪戯いたずらに不安になることが少ないというか」

 にっこりと微笑むその顔にはなんのてらいも感じられない。

〝この人は……何か超越している人は……そう、なのかもしれない……そういえばあのIT企業の社長も、だったな………〟

 一般常識など何処吹く風、といったところだろうか。
 汐見が感慨かんがいに耽っていると、志弦は

「他の方がどう思うかはわかりませんが、まぁ、一緒にいて過ごしやすいと感じたのは同性の恋人の方が多かったのは確かです」

 自分の意見を述べた。それについて汐見もまた我が事を振り返る。

〝たしかに……それはあった……紗妃といる時は、何が地雷なのかわからなくていつも不安で……でも佐藤は……〟

 突然スイッチが入るようになった妻と家で2人きりになるのが辛くて、残業を引き受けるようになってしまったことも、汐見は無自覚だった。だが、佐藤といる時は───

 志弦の発言で汐見が自分の内にある何かと対話を始めようとした時

「でも、彼女のことが」

 池宮の冷静な声が志弦にかけられた。

〝……もうスコし……カノジョのハナシを、キきたい……〟

「夫、隆さんに知られたらあなたに不利なのでは?」

 それは志弦の要求を崩すほころびなのではないかと疑った池宮が冷静に指摘する。

「……それは、私自身の、というお話ですよね?」
「……」

「彼女とは友人としてメールなどのやりとりはしてます。ですが結婚後、そういう性的な接触どころかそもそも物理的に会ったこともありませんから。ご心配なく」

 志弦は何か含むところのあるような笑顔で返した。
 自分が不利になりそう指摘にも冷静に切り返すところを見るに、相当頭の回転が早いと思われた。

〝やはり……一筋縄では行かないか……〟

 どうやったらこの女性の要求を減らすことができるのだろうか、と汐見が考えていると。

コンコン と再びノックが聞こえ

「どうぞ」

 志弦が汐見と池宮から視線を逸らすことなく応えた。

「失礼します。遅くなって大変申し訳ない」

 扉からは、白髪の目立つ、だが、初老というには顔に刻まれたしわの少ない男性が入室してきた。





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