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Chapter11 - Side:Salt - C
176 > 覚醒 ー4(蟠り)
しおりを挟む〝あの時、オレは……〟
加藤に組み敷かれて、襲い掛かられて、抵抗もできない状態だったオレは、加藤に恐怖した。
〝だけど……はっきりとした嫌悪感はなくて……ただ……ただ、怖かった……〟
加藤に──親友だと思っていた加藤に──抵抗できないオレが組み敷かれることは……
【オレ自身の自由意志を全否定した先にある行為】だ。
加藤のことが嫌いだったわけじゃない。
むしろ、好意を抱いていたと思う。
少なくとも、あの当時、加藤以上に大事だと思っていた他人は存在しなかった。
だから、加藤が弁解するならそれを受け入れようとすら思っていた。
だが、加藤はおそらく、オレがそう思っていることに気づいていただろう。
だから……試したんだ。
オレがどこまで許すのか────
【オレに、自分の支配がどこまで及ぶのか】。
それを本能的に察知したオレは……
「逃げるしかなかった……」
加藤のそれは、歪んだ情愛だったのかもしれない。
だが、オレはそれを肯定することができなかった。
尊厳を持った1人の人間として。
対等な、友人として。
加藤を大切な存在だと、思っていたから。
だから、友人に戻れるなら、と一瞬でも思って加藤の誘いを受け入れた。のに────
〝その、心の隙を突かれた……〟
オレは無意識に悟ったんだ。
加藤がオレを屈服させようとしていることに。
オレの人格を無視して、心ないモノのように扱おうとしたことに。
だから
「同意できなかった……」
その一瞬の判断は正しかった───
〝カトウは、シオミがスきじゃなかった?〟
「……好き……」
〝……レイプシヨウトシテキタオトコノスキハ、シンヨウナラン〟
〝……そうか……女だったら……そう、なるよな……〟
同意どころか、告白すらされず、騙し打ちのように薬を盛って、オレの身体を自由にしようとした……
「それは……考えたこと、なかったな……」
それは同性同士だったから、というのも大きいのかもしれない。
けれど、実際考えてみれば、あれはそういうことだった────
〝オマエハ、カトウガスキダッタノカ?〟
「……」
〝そう、だよね? カトウ、ダイジってオモってた〟
「……そう、だな……多分、そうだ……」
加藤のことを、好きだったんだ、オレは────
だからこそ
「許せなかった……」
同性を好きになってはいけないという加藤家の家訓が、思いもよらず、オレ自身に転写され……心の枷になって。
『自分の心が正しいと思う方を選ぶんだよ』
〝ばあちゃんが、ああ言ってくれてたのにな……〟
同性である加藤に惹かれる気持ちがあったのに、言葉をくれなかった加藤に勝手に期待して、裏切られて、失望して……
〝男同士なんて、不毛だと決めつけることで……〟
オレ自身の気持ちを慰めたんだ。
「……男同士なんて……あり得ないって……」
オレは、加藤とのことがあるまで、好意を抱いた相手に対して、あまり性別を考えたことがなかった。惹かれる相手が女子だから、男子だからなど、あまり意識したことがなかった。
小さい頃から感情と表情に乏しいと言われていたため、好意を感じる相手にその感情を向けることがほとんどなく、付き合うまでに至る相手が大学に入るまでいなかっただけだ。
誰が誰を好きだとか嫌いだとか、正直、知らない人間の恋愛話には興味すらなかった。
だから、異性愛とか同性愛とかいう話題が出る年頃には、変な違和感を感じはするものの、自分に関係ないことだからと放置していた。
〝異性愛、同性愛の区別なんてどうやってつけるんだ……〟
そう思ったこともあったくらいだ。
見知らぬ可愛い女子の話題を振られても、実際にその可愛い女子を見せられても、なんとも思わなかった。なんだったら、その話題を振ってきた仲のいい同性の友人の方に微笑ましさを感じていてたくらいだったから。
加藤への好意は、親愛の、友情の延長線上にあって、オレにとっては自然なことに感じられていた。
加藤がもし、あのとき……真摯にオレと自分自身に向き合っていたら────
「いや……タラレバは意味がない……」
でも──オレはきっと……応えたかもしれない。
少なくとも、オレは加藤を拒否しなかったと思う。
加藤が、親友のオレの思っていた通りの人間で、真摯で誠実に……オレを1人の人間として対等に扱ってくれていたなら────
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