上 下
180 / 253
Chapter11 - Side:Salt - C

176 > 覚醒 ー4(蟠り)

しおりを挟む
 


〝あの時、オレは……〟

 加藤に組み敷かれて、襲い掛かられて、抵抗もできない状態だったオレは、加藤に恐怖した。

〝だけど……はっきりとした嫌悪感はなくて……ただ……ただ、怖かった……〟

 加藤に──親友だと思っていた加藤に──抵抗できないオレが組み敷かれることは……

【オレ自身のした先にある行為】だ。

 加藤のことが嫌いだったわけじゃない。
 むしろ、好意を抱いていたと思う。

 少なくとも、あの当時、加藤以上に大事だと思っていた他人は存在しなかった。

 だから、加藤が弁解するならそれを受け入れようとすら思っていた。
 だが、加藤はおそらく、オレがそう思っていることに気づいていただろう。

 だから……んだ。

 のか────

【オレに、のか】。

 それを本能的に察知したオレは……

「逃げるしかなかった……」

 加藤のそれは、歪んだ情愛だったのかもしれない。
 だが、オレはそれを肯定することができなかった。

 1として。

 、友人として。

 加藤をだと、思っていたから。

 だから、友人に戻れるなら、と一瞬でも思って加藤の誘いを受け入れた。のに────

〝その、心の隙を突かれた……〟

 オレは無意識に悟ったんだ。

 加藤がオレを屈服させようとしていることに。

 オレのして、のように扱おうとしたことに。

 だから

「同意できなかった……」

 その一瞬の判断は正しかった───

〝カトウは、シオミがスきじゃなかった?〟

「……好き……」

〝……レイプシヨウトシテキタオトコノスキハ、シンヨウナラン〟

〝……そうか……女だったら……そう、なるよな……〟

 同意どころか、告白すらされず、騙し打ちのように薬を盛って、オレの身体を自由にしようとした……

「それは……考えたこと、なかったな……」

 それは同性同士だったから、というのも大きいのかもしれない。
 けれど、実際考えてみれば、あれはそういうことだった────

〝オマエハ、カトウガスキダッタノカ?〟

「……」

〝そう、だよね? カトウ、ダイジってオモってた〟

「……そう、だな……多分、そうだ……」

 加藤のことを、んだ、────
 だからこそ

「許せなかった……」

 同性を好きになってはいけないという加藤家の家訓が、思いもよらず、オレ自身に転写され……心のかせになって。

『自分の心が正しいと思う方を選ぶんだよ』

〝ばあちゃんが、ああ言ってくれてたのにな……〟

 同性である加藤に惹かれる気持ちがあったのに、言葉をくれなかった加藤に勝手に期待して、裏切られて、失望して……

〝男同士なんて、不毛だと決めつけることで……〟

 オレ自身の気持ちを慰めたんだ。

「……男同士なんて……あり得ないって……」

 オレは、加藤とのことがあるまで、好意を抱いた相手に対して、あまり性別を考えたことがなかった。惹かれる相手が女子だから、男子だからなど、あまり意識したことがなかった。

 小さい頃から感情と表情に乏しいと言われていたため、好意を感じる相手にその感情を向けることがほとんどなく、付き合うまでに至る相手が大学に入るまでいなかっただけだ。

 誰が誰を好きだとか嫌いだとか、正直、知らない人間の恋愛話には興味すらなかった。

 だから、異性愛とか同性愛とかいう話題が出る年頃には、変な違和感を感じはするものの、自分に関係ないことだからと放置していた。

〝異性愛、同性愛の区別なんてどうやってつけるんだ……〟

 そう思ったこともあったくらいだ。

 見知らぬ可愛い女子の話題を振られても、実際にその可愛い女子を見せられても、なんとも思わなかった。なんだったら、その話題を振ってきた仲のいい同性の友人の方に微笑ましさを感じていてたくらいだったから。

 加藤への好意は、親愛の、友情の延長線上にあって、オレにとっては自然なことに感じられていた。

 加藤がもし、あのとき……真摯にオレと自分自身に向き合っていたら────

「いや……タラレバは意味がない……」

 でも──オレはきっと……応えたかもしれない。

 少なくとも、オレは加藤を拒否しなかったと思う。

 加藤が、親友のオレの思っていた通りの人間で、真摯で誠実に……1くれていたなら────








しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...