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Chapter09 - Side:Other - C

138 > 弁護士事務所 ー10〜 混乱 (Side:Sugar)

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【Side:Sugar】



 来た時に通された待合室というか、待合区画とは別の、相談室とは事務スペースと真逆に位置する奥の個室──6畳程度で相談室と同じ向きにブラインドが掛かった大きめの窓がある部屋──に案内された。

 その部屋には幸いにもさっきの待合場所とは違って、時間潰しになるような新聞や雑誌やちょっとした本などが本棚に並べられていて、肘掛けと小さなサイドテーブル付きのゆったりくつろげるような1人掛け用のソファが5個、間隔を開けて2列に並べ置かれている。

 セルフの飲み物コーナーまであって、長く待機できるように配慮されているようだ。
 
〝へぇ……〟

 弁護士事務所に来ることなんかそうそうない事だから、色々と新鮮だった。飛行機に乗らない限りお目にかかれない各種機内誌の『翼の楽園』なんかが並べられていたので、その中から1冊を取り出して読みながら待機していた。

 だが、その新鮮さを満喫していても、ブラインドの外が暗くなり始めると少し不安になってきた。

 汐見が相談室に入ってからもう1時間になる。

〝中でどんな……何の話をしてるんだろう……〟

 汐見の血縁者でもない部外者の分際でこんなところまでノコノコ来てしまっていた俺は、今、この際、そういうことはあまり考えないでおこうと思っている。

〝今更だしな……〟

 汐見のことになると目の色を変えてついつい首を突っ込んでしまうようになって、もうかれこれ6年以上になる。
 それを汐見は気づいてるんだか、気づいてないんだか……だから、今更なんだが……

〝しかし……あの、池宮弁護士の顔、って……〟

 汐見と出会うまで……いや出会ってからも、俺は毎日のように鏡で見てる自分の顔と、盲目状態になって可愛いとしか思えない汐見の強面以外、男の顔面に興味なんてカケラもない。

〝見てないわけじゃないんだが……〟

 女性もそうだが、それ以上に男性は中身だよな、と思うようなことが頻発してた時期──汐見と出会った頃の話だが──見た目ばかり気にする周りに嫌気がさしていたのはある。

〝……あの当時の俺だって、人のこと言えたもんじゃなかったんだけどな……〟

 それにしても。と俺は思った。

〝池宮弁護士のあの顔について、汐見はなんの違和感も抱かなかったのか……?〟

 池宮弁護士本人に会うまでに汐見から聞いた情報では、顔の半分がもっさりとした髭面で、自分と同じくらいの身長だけど『失礼だけど』と言ってから『でっぷりしてる……』という話だった。

 だが、さっき相談室で見たのは、汐見ほどの強面ではなかったものの、ガッチリ体型とスッキリした顔のラインと知的で爽やかな印象の方が強かった。伝聞で聞いて想像していたのとは印象が180度違う。

〝何がどうなってんだ……〟

 汐見自身も2年ぶりに?会う(と言っても2回目か)池宮弁護士本人を目の前にして少し動揺していたみたいだから、おそらく前回会った時とだいぶ見た目が変わっているのかもしれない。

〝それはそれとして……〟

 造作の問題というよりは、雰囲気?だろうか???

〝汐見に…………びっくりした……〟

 ちゃんと2人並んでいる時によく見れば、それほど似てはいないんだろうが……醸し出す?雰囲気?というかなんか……うまく表現できなくてもどかしい……

〝汐見は気づいてるか?〟

 本人が気づいてないなら、気にならないなら、いちいち指摘するようなことでもないので放っておこうと思う。

 だが……そういう、汐見が言っていたクマのような風貌?だったんだとしたら、池宮弁護士はいつからそういう風貌だったんだろうか。そして……

〝〈春風〉は……〟

 俺に席を外させて話している内容、汐見に似ていると感じる池宮弁護士、そしてその弁護士と古くからの知り合いである〈春風〉……

〝情報と状況を整理しないと、混乱するな……〟

 スマホとかではなくて、紙面に向かって図解したいところだ、そう思っていると

 コンコン

 待合室のドアがノックされ

「はい」

 俺が応えるとドアが半分だけ開き、事務員らしき女性が顔を覗かせて言った。

「すみません、池宮が呼んでますので、先程の相談室まで移動していただけますか?」
「あ、はい。わかりました」

 俺は途中まで読みかけていた機内誌を本棚の元の場所に戻そうとして

「大丈夫です。椅子に置いておいてもらえますか。あと、相談室にコーヒーをお持ちしますので、お茶碗もそのままで」
「あ、はい。了解です」

〝なんか……行き届いてるな……〟

 個人事務所っぽいのにその辺りの行き届いた配慮が見えて、ホッとした。

 そして、その女性に案内されるがまま、奥の待合室から、反対側の奥の相談室まで移動した。






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