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Chapter07 - Side:EachOther - B

88 > 刑事との面談 −1〜 四隅のカメラ [Side:Other]

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【Side:Other】



 汐見がインターホンに出ると、そこには先日見た刑事2人が写っていた。

『こんにちは。汐見潮さんのお宅でしょうか?』
「はい。あ、お待ちしてました。ちょっとお待ちください」

 そう言って玄関口まで向かおうとした汐見に佐藤が声をかけた。

「汐見」
「なんだ?」
「俺、外に出てた方が良くないか?」

 これまでずっと同席してはいたものの、そのまま聞いているのもどうなんだろうか、と少し思い直した佐藤が一応汐見本人に聞いてみる。

「……乗りかかった船だろ、どうせなら最後まで乗ってけよ」
「……わかった。刑事さん達にも聞いた方がいいかな?」

「ああ、そうしてくれ」

 汐見としても、もうこれ以上自分1人で抱えるのは辛かった。
 刑事である2人に聞いてもらったところで、今後彼らと関わることはないだろうと思う。なら、佐藤にも聞いてもらってこの先多少は一蓮托生と行こうじゃないか、と思ったのは確かだ。

〝まぁ……佐藤とも……いつまで一緒にいられるか、わからないけどな……〟

 佐藤に思う人がいるなら、尚更───自分は佐藤から一歩引いて、佐藤とはもう少し距離を保ちつつ今の親友関係を維持した方がいい。
 そう思った汐見は、今後の計画に、実現不可能と思っていた自身の夢も併せて、行動を始めようと決意していた。

 玄関の覗き窓から再度確認すると、刑事2人が立っていた。

「いやぁ、暑くなってきましたなぁ」
「お疲れ様です。そうですね……玄関先ではなんですので、どうぞお上がりください」

「あ、これはすみませんな」
「……失礼します」

 米山と村岡はそう言うと、靴を脱いでスリッパに履き替えて汐見家に上がってきた。
 短い廊下を進むと、リビングの食卓の椅子に座っていた誰かが立ち上がってペコリとお辞儀をした。それが佐藤だと気づくと

「……今回も佐藤さんはご一緒に?」
「えぇ……ダメでしょうか?」

 米山と村岡は2人して顔を見合わせた。

「……まぁ、病室でも同席してましたし、話が全てわかってるので……我々はどちらでも構いませんが」
「……佐藤さん、は、いいんですか?」

「……事情を知らないままでは汐見の力になれないので」
「「……」」

 米山と村岡は少し眉間に眉を寄せて2人でうなずきあい、大男の村岡の方が声をかけた。

「とりあえず……映像のデータの方からお預かりしても良いですか?」
「あ、はい。これです」

 受け取った大男がそのスティック状の小さなUSBメモリを受け取ると

「これは、お返しした方がいいですか?」
「あ、いえ、大丈夫です。高価なものでもないのでそのまま差し上げますよ」

「え、いいんですか?」
「はい。仕事の関係でそういうのはいくつも持ってるんで大丈夫です」

「はぁ……」

 そう言って受け取ったUSBメモリを確認すると、それには64GBと書かれていた。

〝そうは言っても結構容量があるけど……いいのか?〟

 ちょっと申し訳ない気がしたが、本人がいいと言うならそのまま受け取っておくことにした。問題がありそうなら後で郵送で返還すればいい。そう思った村岡は、内ポケットから小さなビニール袋を取り出してそれに入れた。
 それを眺めていた米山が

「で、ちょっと確認したいのですが……」
「はい」

「こちらが、その、食卓テーブル、ということで間違いないですか?」

 確認のためにテーブルを手で指し示す。
 佐藤と汐見もここに到着して半時間程度しか経過していないが、ここは、つい5日前に刺傷事件が起きた現場である。

 加害者も被害者も共に負傷したが、大事には至らなかったせいでなんとなく事件性が低いように思えるだけで。
 当事者2人が夫婦関係にあるということからすると、一般人でなければマスコミに取り上げられ、かなりショッキングなニュースになっただろう話だ。

「監視カメラと録音機器を確認したいんですが、そちらも大丈夫ですかな?」
「あ、はい。大丈夫です」

 言って、汐見がリビングの一番遠い方にあるカメラを案内しようとする。と、そこで何かに気づいたように

「佐藤。すまん、その椅子、1脚持ってきてくれ」
「! あ、ああ」

 ずっと傍観者のように黙っていた佐藤が、汐見に指示されるまま食卓テーブルから椅子を持ってきて部屋の隅の近くに置く。佐藤自身はそのまままた食卓の近くに戻った。
 汐見はその椅子を隅にくっつけるように置き、ゆっくり椅子に登りきってから小さくて見えにくいカメラを指で差し示す。

「これです。同じものが4個セットになってるものを購入しました。一つ、取り外します」
「あ、いや、そこまでしなくても大丈夫ですよ」

「でも実物を確認しにきたんじゃないんですか?」
「「……」」

 汐見に鋭く質問されて刑事2人が一瞬黙る。

「別にいいんですよ。……その、紗妃が戻ってくるのはいつになるかわからないので……」
「え?」

 妻である紗妃がいないという違和感を刑事2人が感じなかったのは、佐藤が当たり前のように汐見に付き添っていたからだ。米山が心配げな声色で話しかける。

「奥さんは……」

 少し視線を落とした汐見は、カメラを取り外してから、絞り出すように言った。

「……そのまま入院することになりまして……僕も当分は佐藤の家に世話になるつもりです。昨日退院して、一旦この家に帰ってから、そのまま佐藤の家に泊まりました」
「……そうでしたか……奥さんは、なんと……」

 汐見は、脇腹を庇いながら椅子からゆっくり降りると、米山の顔をはっきりと確認してから言った。

「……録音機器を確認してからでいいですか?」

 そう言った汐見の表情を確認した村岡の方が今度は話しかける。

「わかりました。では、カメラも一つお預かりしても?」
「はい、大丈夫ですよ」

 椅子を引きずって持って行こうとする汐見を見ていた佐藤が動こうとすると、それを制して怪力の様相の村岡が申し出た。

「これは私が運びますよ」
「あ、すみません。お願いします」

 汐見が珍しく素直に厚意を受け取る。

〝痛みがあるんだろうな……〟

 佐藤はそう考えながら汐見と2人の刑事を観察していた。
 米山と村岡と一緒に汐見も食卓テーブルまで来ると、今度はそれをひっくり返して録音機器の確認をする。

「は~。こんなものをこんなところに……」
「奥さんには全く気づかれなかったんですか?」

「多分。シールを剥がされたらバレるかも、とは思いましたが……家事以外に色々やっていたようですから……そんなところまで気が回らなかったんだと思います」
「なるほど……」

 食卓テーブルの天板の裏。
 そこには大きめのシールになっている説明書きが貼られている。それを剥がすと、くり抜かれた部分があり、そこに手のひら大の小さな機器がセットされていた。
 シールを剥がされていれば気づかれただろうが、そうはならなかったらしい。

「これで、とりあえずブツの確認は取れましたね」
「そうだな……」

 米山と村岡が機器類を確認したので、一段落した。
 テーブルを元に戻し、男4人は佐藤・汐見と米山・村岡が食卓テーブルを挟んで突っ立っている。

「何か飲まれますか?」

 汐見が確認すると

「あ、いや……いや。いただこうか」
「ヨネさん……」

「座ってもよろしいですかな?」
「どうぞ」

 米山は手前にあった食卓テーブルの椅子の一つを引いて、その椅子に座る。

「汐見さんと佐藤さんも座って話しませんか」
「あ、はい……あ、ちょっと飲み物をお出しします」

「俺がやるよ。話はお前がメインなんだから、お前は座っとけ」
「……じゃあ、頼む」

「おう」

 佐藤と汐見の短いやりとりを眺めていた米山が、突っ立っている村岡に顎で指示を出して隣の椅子に座るよう促す。

 キッチンに回り込んだ佐藤は勝手知ったる汐見の家、と食器棚から4個のコップを取り出す。冷蔵庫から冷えた水をコップに注ぎ、シンク横にある盆にその4個のコップを置いて移動し、テーブルに各人の手前に一つずつ置いた。

 その後、佐藤は、刑事二人組に対面するように座っている汐見の隣りの椅子に座る。

「少しですがな……話したいことがあって、そちらの佐藤さんに伝言をお願いしたんですよ」
「……はい。そう、伺ってます」

 今度は何事が聴かれるんだろう、と汐見が身構えていると

「土曜日に聞けなかったので、一応確認しておきたいと思いましてな」
「はい。なんでしょう?」

「奥さんが不倫して、慰謝料請求の通知書が来た、と言ってましたな?」
「はい……」

 今度こそ顔が強張り始めた汐見が、佐藤に目をやりながら刑事に答えた。

「請求額を聞いていなかった、と思いましてな。……いくら、請求されたんです?」

〝そうだ。そうだよ! それは俺も知りたい!〟

「さん……」

〝三十? 三百?〟

「……三千万、でした」

「「はぁあ?!!!」」

 びっくりした米山がでっぷり腹を揺らして素っ頓狂な声をあげたのと、佐藤の声をあげたタイミングが一緒だったので、2人でハモってしまった。





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