上 下
31 / 253
Chapter02 - Side:Salt - A

27 > 病院にてー1(目覚め)

しおりを挟む
 


 目を開くと、見知らぬ天井が視界に広がっていた。

〝? どこだ、ここ……〟

 ぼんやりとした視界には白い天井、四角く囲まれたライトグリーンの……カーテン?
 メガネを掛けていないのか、よく見えない……

〝……ね、むい……〟

 とろとろと眠りに誘われてまた、落ちた……



 次に目覚めた時、さっきと同じ光景だったので、ようやく

〝ああ、病院か……〟

 少し思い出した。
 呼吸が楽だと思ったら、口元に違和感がある。どうやら酸素マスクがつけられているらしい。

 ぼんやりと、モヤがかかった視界のまま天井を見て

〝今、何時……〟

 体を動かそうとすると、グッと何かに腕を引かれた。

〝?〟

 両腕に点滴が1本ずつ繋がれている。

〝……オレ、は……〟

 まだ完全には覚醒していない頭で、昨日1日の出来事をゆっくり反芻するように、思い出そうとした。


 6月23日(木)午前納期の案件が先週金曜日の17日からぶちこまれ、休日出勤はもちろんの事、月曜日~水曜日までほぼ会社に詰めて仕事をしていた。

 月・火・水は帰宅して眠れないだろうとは思っていたが、水曜の終業時間になってもまだ終わらず、紗妃が心配で22日(水)の夜に一旦家に帰った。

 真夜中に帰宅すると、また床に割れた食器が散乱していたが、遅くから掃除機を掛けると紗妃が暴れるので、照明をできるだけ落として、箒で静かに片付けた。まだ小さい破片がちらほら見えたのでそれを取り除くために暗い部屋の中、探し出したガムテープでペタペタした。

 その後、洗面所で脱衣して軽くシャワーを浴び、寝室で着替えて、すぐまた職場に戻り、泊まりこんで仕事をしていた。

 作業は難航したが、明け方4時を回る頃にようやく完成に近づき、ホッと一息ついて、仮眠。

 出社時間に起き出し、23日(木)の朝、佐藤と自販機の前で久しぶりに会った。
 久しぶりに会う既知の顔にホッとして少しだけ話しをした後、午後の会議に出て。

 それが終わった3時ごろ、北川専務に呼び出されて紗妃宛ての封書を渡された。

 早退けして帰ると4時になっていたが、外出していた紗妃が帰って来たのは6時前。
 それから、風呂に湯を張りながら惣菜だらけの食事を食べて紗妃が風呂に入ってる間に封書を持ち出して渡し。
 
〝……目まぐるしい1日、だったな……〟

 最後の方は思い出したくないが、とりあえず、今やることは────

〝電話……しないと……会社に……〟

 我ながら社畜根性が沁みついててヤバイ、と思う。
 だが、連絡しないで休んだ後、心配のあまり詮索されるより、こちらから先に連絡しておいて、その後の面倒を回避する方がよっぽど楽だ。
 長年にわたって体得した処世術とも言えた。

〝佐藤にも……〟

 連絡した方がいいかもしれない……いつも会社を休む場合は佐藤にLIMEするのが日課だったから……

〝だが、なんて言う?〟

 あいつにオレの誤魔化しは効かない。
 それはもうこの6年くらいで検証済みだ。

〝今、連絡すると面倒なことになりそうだな………〟

『大丈夫』も『無事だ』も、何が? と聞かれそうだし『体調が悪い』って言ってもオレが体調悪いくらいで休まないことを知ってるし……
 そう考えると紗妃よりも女房らしい心配をしてくるヤツだよな、と少しおかしくなった。

〝とりあえず、一旦、会社に電話だけ入れよう〟

 まだ昨夜のことは整理もついてないし、麻酔が効いてるのか痛みはないが、それほどの麻酔を打たれてるってことは、怪我自体はおそらく大丈夫という範囲ではないんだろう。

 だから、ナースコールを押して、看護師さんを呼んだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ホントの気持ち

神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、 そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。 夕紀 空(ゆうき そら) 年齢:13歳(中2) 身長:154cm 好きな言葉:ありがとう 嫌いな言葉:お前なんて…いいのに 幼少期から父親から虐待を受けている。 神山 蒼介(かみやま そうすけ) 年齢:24歳 身長:176cm 職業:塾の講師(数学担当) 好きな言葉:努力は報われる 嫌いな言葉:諦め 城崎(きのさき)先生 年齢:25歳 身長:181cm 職業:中学の体育教師 名取 陽平(なとり ようへい) 年齢:26歳 身長:177cm 職業:医者 夕紀空の叔父 細谷 駿(ほそたに しゅん) 年齢:13歳(中2) 身長:162cm 空とは小学校からの友達 山名氏 颯(やまなし かける) 年齢:24歳 身長:178cm 職業:塾の講師 (国語担当)

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~
BL
没落貴族の次男ユーリ・ラン・ヤスミカは王室の血が流れる姫君との縁談がまとまる。 しかし、蓋をあけてみると花嫁になる姫は少年だった。 姫と偽った少年リンの境遇が哀れでユーリは嫁として形式上夫婦となるが…… おひとよしな貴族の次男坊と訳あり花嫁少年の結婚生活!

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

社長、バレてますよ!

オレンジペコ
BL
父親が急に亡くなって大学を卒業してすぐに社長に就任した俺。 正直ストレスフル! そんなわけで、ある日ストレス発散のためいつもとは違う装いで夜の街へと飛び出した。 きっちり後ろに流した髪型をくしゃくしゃに崩し、遊び人風に。 ベイビーフェイスを隠す真面目メガネは外してスーツはお洒落な今時の服にチェンジ! そうしてバーに入った俺だけど、そこで知り合った相手と身体の関係をもってしまって……? 鈍い社長と執着系取引先御曹司の変装Loveなお話です。 思いっきり趣味に走りました。 夜の街編で全6話、オフィス編で全17話となっております。 いつも私の作品を読んでくださる皆さまにささやかな感謝の気持ちを込めて☆

処理中です...