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Chapter04 - Side:Salt - B
47 > 汐見と佐藤の出会いー6(忘年会の席で - 1)
しおりを挟む忘年会の席で隣り合った佐藤は、最初こそ緊張していた。
乾杯する手もちょっと震えてる? と思いながら見ていたものだ。
丸テーブルに乗ったテーブルより小さめの回転式の台の上に中華のフルコースが次々と運ばれてくる。その給仕の女性も佐藤を見て一瞬立ち止まる程だったが、佐藤は素知らぬ顔をしてテーブルの上から自分の分の料理を取ると、黙々と食べ始めた。
そのテーブルに座ったのはオレと佐藤を含めて8名。オレ、佐藤、男1人、他5名が女性という、極めて女子率の高いテーブルになっていた。「くじ引きだったんじゃないの?」というヒソヒソとした女性の声が聞こえてきて挙句、「愛宕先輩がどうしても、ってことで無理矢理入ってきたらしいよ」とか。いや、いやいや、君たち。聞こえてますよ?
まぁ、要するに本来くじ引きだったはずのテーブル席の人数配分なども含めて、後で何らかの取引があったらしい。女子側には。まぁ、理由は一目瞭然。この隣席にいるルッキングのすごい男と同じテーブルを囲みたいがためだ。
〝オレが代わってやってもよかったのにな。悪いことした〟
丸テーブルには、オレ・佐藤・女子1・女子2・男1・女子3・女子4・女子5、んでオレ。となっていたので、オレが佐藤の隣でなければ、女子二人が佐藤のそばに座ることが可能だったわけだ。4人の女子のチャンスを奪ってしまったオレ。
ところが、当の佐藤と言えば、座ってからすぐに浮かない顔をした。乾杯を先に隣の女子から済ませた後、オレに乾杯してからというもの、ずっとオレの方に体を向けて食事をし始めたのだ。
〝営業っつうから「鈴木」みたいにおしゃべりかと思ったんだけど……〟
弾丸トークが飛び出すことを少し期待していたが、期待外れだったようだ。料理を取りつつ若干俯き加減でモソモソと食事を取り始めたのも意外だった。
〝……なんか……聞いてたのと違うな……〟
「鈴木」のいう【うわさ】では『口八丁手八丁で相手をたらし込むのが得意で、ルックスも相まって女連中はメロメロ。気づけば周囲にいる女はみ~んな佐藤の虜。佐藤がいるとその場にいる他の男は全員モブに成り下がるんだ、やってらんねえよな』 ってことだった。
〝そんな風には見えないけどなぁ……〟
とりあえず、隣にいる男をちらっと観察してみた。ちなみに、この時はまだ、正面から見る勇気はなかった。
むっさい男ばっかいるような学部学科や、部活動ばかりしてたせいかもしれないが、小中高大・新卒入社の企業でもこんな美形にはお目にかかったことなどなかったからだ。つまり男といえど、美人に耐性がなかった、という話。
『それにあいつ、営業のくせに日本酒が飲めないんだぜ! 悪酔いするから飲みたくない、つってさ!女子かっつうの!』と「鈴木」からはアルハラまで飛び出す始末で
『オレはお前の方こそ開発部を出禁にしてやりたいんだが?』 と内心思いながらぐっと堪えていた。
せっかく給料も待遇も良い企業に転職できたのに、転職3ヶ月弱で営業部トップ3に入る「鈴木先輩」によろしくない覚えをされるのはちょっと勘弁したかった。
まぁ、幸いにして当の「鈴木先輩」はオレたちのテーブルから一番遠いところにいたので、今日は大丈夫か。と思ったのだ。
で。
料理を食べ終えた佐藤が、今度は注文した酎ハイをちびちびと飲み始めたので、少し話しかけてみたのだ。
『すみません、佐藤さん、ですよね? 僕、9月下旬に入社した汐見って言います。初めまして、ですよね?』
『あ、えと、え、はい、はじめまして。汐見さん、おうわさはかねがね……』
『うわさ?』
『あ、はい。なんか……凄い人が入社してきた、って聞いてます』
〝よくないうわさではないのか。よかった……でも【佐藤】の方は……〟
ちびちび飲んでる割に、佐藤の顔は少し赤らんでいた。日本酒は飲めないと聞いていたのに、酎ハイはいける、ってどゆこと? と思って
『今飲んでるの、それ酎ハイ? だよね?』
『あ、はい。そうです』
『飲めるんだ?』
『え?』
『あ、いや、そうだよな。営業だもんな』
〝しまった……! 知らない体で聞けばよかった……〟
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