264 / 271
六章「闘争」
264話
しおりを挟む
攻撃魔法を撃たなくなって久しい娘に、老人は告げた。
「勝負あったようだな」
老人の息は乱れておらず、娘の息は乱れている。
魔法によって疲労を回復する術もあるが、娘はそれすらもできないほどに魔力が枯渇しているらしい。
顔を苦しげに歪めて老人を睨みつけているが、その手は自らの腹部に当てられ、僅かな魔法すら行使できない状態だ。
誰の目から見ても、勝敗は決していた。
老人は地に刺していた杖を抜き、魔法陣を解除した。
解除して戦っても、今の娘は敵とするには弱り過ぎている。
最早、相手になり得ない。
「命は取らぬ」
だが、私たちの後を追うな、と老人は言った。
もし追ってくれば、殺さざるを得なくなる、と言うのである。
その言葉は娘にとって、侮辱ですらあった。
殺すべき敵に、情けをかけられている。
命を賭けて戦った敵から、お前の命などどうでも良いと言われたのだ。
老人にその意思はないだろうが、少なくとも、娘は老人の言葉をそう解釈した。
――無様だ……!
舐めて掛かった結果が、これである。
命を奪えず、そして奪われず、何のために戦ったというのか。
否、老人にとっては、意味があっただろう。
娘をこの場に留め置いただけでなく、継戦能力すら奪ったのだ。
命を奪わないのは、やがて娘の仲間が助けに来ると踏んでいるからである。
そしてその仲間が娘を助けることによって、盗賊たちが逃げられる時間を僅かでも稼いでおきたいというのが老人の思惑であった。
「勝負あったようだな」
老人の息は乱れておらず、娘の息は乱れている。
魔法によって疲労を回復する術もあるが、娘はそれすらもできないほどに魔力が枯渇しているらしい。
顔を苦しげに歪めて老人を睨みつけているが、その手は自らの腹部に当てられ、僅かな魔法すら行使できない状態だ。
誰の目から見ても、勝敗は決していた。
老人は地に刺していた杖を抜き、魔法陣を解除した。
解除して戦っても、今の娘は敵とするには弱り過ぎている。
最早、相手になり得ない。
「命は取らぬ」
だが、私たちの後を追うな、と老人は言った。
もし追ってくれば、殺さざるを得なくなる、と言うのである。
その言葉は娘にとって、侮辱ですらあった。
殺すべき敵に、情けをかけられている。
命を賭けて戦った敵から、お前の命などどうでも良いと言われたのだ。
老人にその意思はないだろうが、少なくとも、娘は老人の言葉をそう解釈した。
――無様だ……!
舐めて掛かった結果が、これである。
命を奪えず、そして奪われず、何のために戦ったというのか。
否、老人にとっては、意味があっただろう。
娘をこの場に留め置いただけでなく、継戦能力すら奪ったのだ。
命を奪わないのは、やがて娘の仲間が助けに来ると踏んでいるからである。
そしてその仲間が娘を助けることによって、盗賊たちが逃げられる時間を僅かでも稼いでおきたいというのが老人の思惑であった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です
再投稿に当たり、加筆修正しています
最新の短編を一番前に置く形にしています。(2024.11より)
収録作品
①俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ
②自分勝手な弟が『ざまぁ』スキルを手に入れた!? ヤバイざまぁされる!?と思っていたら、どうも様子がおかしい
③ハブられ勇者の付き人やってます 別の場所に旅立った屑王子の体が、いつの間にか魔王に乗っ取られているんだが、どう言うことなんだ?
④誰でも最強になれるゲームの世界に転移したんだが、色々あって転移した先が修羅の世界になるかもしれない
など
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
かわいいは正義(チート)でした!
孤子
ファンタジー
ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。
手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!
親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~
雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる