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手に職を付けようとした私に、婚約者が剣の手ほどきをしてくれた話

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「どうして手に職を付けたいんです? そんなことしなくても良いでしょうに」

 婚約者のエドガー様は不思議そうな顔をして私に尋ねました。

 まあ、確かに今のまま国が統治を続けられればそういう考えでも良いでしょう。

 しかし、国が飢饉や疫病で滅んだり、或いは他国に攻め滅ぼされたりした場合、安穏としていられなくなるわけです。

 非常時を想定し、一般庶民に落とされた場合も考慮して、何かしらの得意技を身に着けておきたいと考えたわけですね。

「無用な心配だと思いますが――」

 と前置きした上でエドガー様が提示してくれたものは、剣術でした。

 木製の片手剣を両手に持ち、えいやさほらさと振ってみます。

 時折り姿勢を正してくれまして、好きに振らせて貰っています。

 そんな私の様を見ていたエドガー様は、しみじみと呟きました。

「才能が、壊滅的ですね……!」

 放っといて下さいよ。

 しかしまあ、なかなか楽しいものですね、これ。

 兜を被って鎧を着込んだ人形相手に撃ち込むのは、鬱憤が晴れていく心地がします。

 汗もかきますし、運動になりますし、ダンスとは違った筋肉を使いますし、しばらくは趣味として継続するかも知れません。

「手に職はどうしたんです?」

 それはまた今度にします。
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