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捨てイケメンを保護してしまう話

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 それは先日、雨の降る日のことである。

 傘を差して帰り道をとぼとぼ歩いていると、電灯の下に人影があった。

 陰鬱を纏った暗い青年である。

 長く雨に打たれていたのか、上から下まで濡れ切っている。身体の線も見えるほどだ。めっちゃ細いな。というか風邪引いて死にそう。顔色も青白いし。明らかにやばいわ。

 ――何です?

 そんな印象の視線を受けたが、あまりに生気が無い。

 声も小っさくて一度では聞き取れなかった。耳を口元に近づけてようやく聞き取れたほどだ。

 しかも聞き取った声音が『放って置いて下さい』ときたもんだから、呆れたものだ。お前、放っといたら明らかに死ぬやつじゃん。

 ぶっちゃけ、くたばるならこんな近所じゃなくて、私の目の届かないところでくたばって欲しい。警察とか救急車とか来て欲しくないのよね。縁起悪いし。良い思い出が無いし。

 ということで、この男を私の家に連れ帰ることにした。

 救急車を呼んだ方が早いって? いや、先ずはこいつを脱がして風呂に入れて温めてやらんと間に合わん可能性がある。救急車はそれからの話だ。

 傘と鞄を置いて男の膝と首元を支え、さっさか走る。めっちゃ軽くて人形かと思ったくらいなので、まあ健康状態もお察しである。抵抗もされなかった。

 家まで二分で着いた。扉の前に男を置き、鍵を開けて大きく開ける。

 男を再び抱えて玄関に入る。濡れるのは正直嫌だが、面倒事は後で考えよう。

 浴室の明かりを点け、風呂の電源を入れる。シャワーを流してお湯を出す。ついでに浴槽に湯を張っていく。

 男の服も下着も脱がしていく。万歳してとか足を上げてとか、いちいち言わんと動かない。いや、動けないのか。

 素裸にして足先からシャワーを当ててやる。冷たい中にいたのだから、ゆっくりと熱に慣らさせる必要があるだろう。知らんけど。

 シャワーで温めている間に浴槽の準備が整った。

 この頃には男に体温が戻ってきていて、多少なりともコミュニケーションが取れるようになっていた。

「溺れないか? 大丈夫か?」

「……大丈夫です」

 相変わらず声が小っせぇな。まあ、溺れないと言質を取ったので、その間にやれることをやってやろう。

 スポーツタオルと渇いた衣服を準備してやり、濡れた上下は洗濯機に放り込んで脱水と乾燥をしておく。下着については、タオルでも巻いとけって感じで良いだろう。

 後は適当に薄い茶とコンソメ粥でも作ってやる。食わなかったら私が食う。そして状態によっては救急車を呼ぶ。完璧だ。



 とかなんとか必死こいてやってたら、男は無事に回復した。あくまで見る限り、ではあるが。

 これで一安心だ、良かった良かった、とはならない。

 なにしろこいつ、帰る家が無いらしい。

 マジかよ。とんだ拾い物をしちまった。

 しかもこいつ、私の元で家事代行人として働きたいとか抜かす。

 馬鹿言ってんじゃねぇよと言ったら、冷蔵庫の余り物と調味料をちょいと使って小洒落た料理を作ってみせた。

 これが不味かったら良かったんだが、あまりに美味かったから困ったもんだ。

 役所で支援を受けてこいと言って放り出すつもりでいたが……いや、今もそのつもりでいるが。少しの間は泊めてやっても良いだろう。
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