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純白のドレス
しおりを挟むデビュタント。
それは貴族令嬢にとって一生に一度しかない一大イベント。人生を賭けていると言ってもいい、はさすがに言い過ぎかもれないがそれだけ大事なもの。
眩しい程純白なイブニングドレスに身を包み肘上まである白く長い手袋はめる。先生達はどこかの遠い国では白いドレスは結婚式でも着用することがあるということを教えてくれた。
綺麗だもんねぇ。とペアトップになっている胸元の刺繍を見つめる。刺繍もまた純白の糸で複雑に編み込まれている。お針子さん達糸バサミとかで指を切って血を付けないようにしたり、ものすっっごく気を使っただろうな…。
お昼を過ぎたあたりから湯浴みして全身香油まみれになりながらマッサージされ、髪のお手入れにお肌に手に爪に足にと隈なく全身を磨いた頃にはおやつの時間を過ぎていたのはさすがに引いた。
そんな事を思い浮かべながらゆっくりと家に待機している馬車に向かうと父とカタリーナ様が既に中に座っていた。御者の手を取り馬車の中に乗りドレスがあまりシワにならないようにカタリーナ様の隣に座る。
「マリー!すっごく綺麗だ!天使だ!今夜のデビュタントの主役は間違いなくマリーだね」
「お母様それはもはや親の贔屓目ですわ」
むしろ男性の正装である燕尾服に身を包んだカタリーナ様の方が何倍も麗しい。いつにも増して輝かんばかりの笑顔だから麗しいを通り越して…、通り越すとなんて言うんだ?こう言うのなんだっけ…。
私のエスコート役も本来であれば父の役目なのだが「こんな天使をオズみたいな性悪男に任せられない」と、今ではマリーと呼び娘同然に可愛がってくれるカタリーナ様の一声で決まった。
「事実なんだけどな~!でもまぁ元を辿ればオズの曹祖母は王族だから血は薄くなってはいるけど必然的にマリーも王族の血が入っているし、義理とはいえ自分の子どもなんだから贔屓にもなるよ」
「……まぁ、それは初耳ですわ」
もうびっくり仰天だ。父が王族の血を引き継いでいるとは。金髪緑眼の父と銀髪金眼のカタリーナ様を交互に見るも美形という点以外共通点がない気がする。
「オズはいつも説明を全部放り投げて命令するからつい癖がついたんだろうね。本当に部下達は上手くやってるよ」
確かに。
「王太子の婚約者になれ」と一方的に理由も言わず命令してきたいつかの日を思い出しながら、居心地悪そうにしている父を見る。
「そういえば普段の時もそうですけど、お母様は男装をされるのですね」
麗しいので眼福だがなにかこだわりがあるんだろうか。
「王女時代からの癖でね。自分が周りからどう見られているか分かっていたけど男とどうこうっていうのが私の中で全く想像できなくてね~。男の格好の方がしっくり来るんだ」
女の自分は嫌いではないんだけどね、と肩をすくめる。
その後も色々とカタリーナ様と話しているともはや空気と化した父が「着いたぞ」とボソリと呟いた。いたのね、お父様。
父が先に降り次にカタリーナ様が降りる。手を差し出すカタリーナ様に掴まりながら私も馬車から降りると目の前には豪華絢爛にライトアップされたため息が出るくらい綺麗で立派な王城だった。
手を引かれながら門に向かう途中、カタリーナ様が悪戯するような顔で私を見つめ耳打ちした。
「オズに任せられないのはもちろんあるんだけど、王妹である私がエスコートすることで余計な虫を落とす為もある。もちろん天使を連れて歩きたいのが1番の本音だけど!」
「……私をなんだと思っているんだ、カタリーナ」
散々言いたい放題言われたためかここにきてやっと反撃するように父がカタリーナ様を睨む。
「害虫にも劣る人間の形をしたなにか」
父の反撃も木っ端微塵にそう答えるカタリーナ様の顔は実に素晴らしい笑顔だったと伝える。
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