上 下
39 / 42
第5獣

怪獣5-5

しおりを挟む
 目的の場所に小さな光の塊が現れる。
 それはやがて大きくなり、光の中から二人の頭が現れたと思うと、体、腕と人の体の部品が出来て行った。
 完全に体が出来上がると、光の塊は消えてしまい、蘭と秀人が姿を現した。
『着いたぞ』
 ゴリアスの声に蘭と秀人が目を開けると、暗闇の中に居た。
「どこだろう? ここは?」
「待っていて、ライトを点けるから」
 蘭がスマホを取り出して、ライトを点ける。
 暗闇の中で照らされたのは、恐竜の骨格模型で秀人は思わず息を呑んだ。
 落ち着いてから、辺りを確認すると、今度は昆虫標本に動物剥製が目に入る。
 どこかの博物館か資料館の館内らしく、蘭は安堵するが、どうにも気味が悪かった。
 明るい昼間に、電灯の着いた状態で展示資料を見るのなら、別に問題は無いのだが、一切の光もなく、手元にあるライトだけで、見るのは事情が違い過ぎる。
 そう言えば、昔見た映画で博物館の展示物が動き出す、ファンタジー映画があったことを蘭は思い出した。
 展示資料が暗闇の力を借りて、動き出してくるのではないか? 自分に襲い掛かって来るんじゃないか? そんな妄想をしてしまう。
 いくら考えても、無機物が勝手に動き出すわけがない。頭の中でそう考えていても、妄想を簡単になんか拭えない。
 なにせ、無機物だった琥珀の中に生きた怪獣が封印されていたり、巨大怪獣が現れたりするんだから、何が起こっても不思議じゃない。
「蘭大丈夫だよ。動くわけがないんだから」
『そうだぞ。少し落ち着け』
 蘭の感情を察した秀人とゴリアスが話しかけて来る。その言葉で蘭は現実に引き戻される。
「分かったよ。それよりここはどこなんだろう?」
 何か分かるものは無いのかと思い、辺りを見渡す。
 蘭は窓から外に何か見えないのかと思って眺めるも、目印になるようなものはなかった。
 本来なら点いているはずの街灯も星の光も何もない。まるで暗闇の中に閉じ込められている様だ。
 万が一閉じ込められていたとしても、窓を開けるか、最悪割ってでも情報を知りたい。
 鍵を外して、サッシに手をかけて、引いてもびくともしなかった。
「何だおい、こうなったら」
 近くにあった椅子を掴んで、思いっきりぶつける。
 ガッツ!
 弾かれる音を立てて椅子は床に転がった。
「何なんだ……、一体?」
「蘭、他の部屋に行こう。もしかしたらこの部屋とは違うかもしれないし」
 秀人の言葉に同意して、部屋を出た。その際に椅子を思いっきり蹴った。
 何が起こっているのか、分からない怒りを八つ当たりした。それで何か壊れてしまうのかもしれないと思ったが、別にそれでも良かった。
「八つ当たりしても、仕方ないよ」
 秀人が咎める。
「分かっているよ、でも何だかなぁ」
 釈然としない気持ちを持ったまま、部屋を出る。同時にどこか薄気味悪さを背中に感じた。
 出て見ると、同じような部屋がいくつも並び、そして廊下も随分と年季が入った作りになっていた。
「どこかで見たな……」
 見覚えがあった。以前にも訪れた様な気がする。
 デジャブだろうか? 人間の記憶は、もともと曖昧で初めて訪れた場所を、何かと混同して、また訪れた様な気分にさせる。いわゆる認識のずれだ。
 しかし、そんなずれを感じさせない思いが秀人の頭の中をよぎって、一つの結論が出る。
「ここ、北大博物館じゃないか! そうだ、あの骨格展示に標本! 暗くてよく分からなかったけど」
「そうなのか! 俺も確かに覚えがあったんだが、いまいち自信がなかった……」
 秀人の言葉に蘭が同意し、聞いて来る。
「ここに気配がしたのか、ゴリアス……」
『間違いない。どこかに居るんだ……』
 だとしたら、北大博物館だけ異空間に閉じ込められてしまったかのような、現象も説明がつく。
「とにかく調べよう。何が原因なのか突き止めないと……。どうする? 二手に分かれるか?」
「一緒に調べよう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘

なべのすけ
SF
 海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!  自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!  襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか? (注意) この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。 「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。

8分間のパピリオ

横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。 蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。 というSFです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~

まきノ助
SF
 高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。

律魂司魄術師の旅~ときめきの大陸~(第一話終了)

白水秋一
SF
連作短編です。 律魂司魄術師(りっこんしはくじゅつし)と呼ばれる存在である主人公が、初めて訪れた大陸でときめきに出会う物語。 終着点は決まっていますが、そこにいたる道はまだどうなるのかわかりません。 旅の途中で様々な出来事が起こり、それらを通じて律魂司魄術師とはどの様な存在か、主人公の目的は何か、そういう話をゆるゆると語っていくつもりです。 第一話は終了しました。次の話は6月中に投稿開始予定です。

処理中です...