琥珀と二人の怪獣王 建国の怪獣聖書

なべのすけ

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第5獣

怪獣5-1 捕らわれた博物館

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 キーボードを叩いていた手を止めて、鏑木は息を吐いた。大きく背伸びをして、机の上にある時計を見る。博物館の売店で、売っているその時計は、午後8時とディスプレイに表示されている。3時間近く。集中して作業をしていたことに軽く驚く。
(こんな時間まで集中力が続いたの、これが初めてだな。2時間くらいで集中力が無くなるのに……)
 喉の渇きを覚え、アイスコーヒーでも飲もうと思うと同時に、空腹を感じる。
何か食べる物は無いかと近くを探すが、何もなかった。大学構内にある、セイコーマートは24時間営業だ。気分転換も兼ねて、何か買いに行くことにした。
 文学院の研究棟を出て歩くと、今やっている資料制作を忘れ、今日博物館を案内した、蘭と秀人の事を思い出す。
(話通りの二人だったな……、まるっきり対照的な二人が息ぴったりに行動していて、見ていて、何かのキャラクターみたいで、もし、今度会ったら裏にある収蔵室も見せてあげよう……、蘭ちゃんと秀人君、今日以上に面白いだろうな……)
 二人のことを考えながら歩いていると、生暖かい風が肌を撫でた。
(なんだろう……、この感じ……?)
 夏の夜に吹く風、本来なら心地よいのだが、どこか不気味だった。まるで生物の息のように感じられる、不気味さに足を止めて、息を飲む。辺りを見渡すも何も無い。
(思い違いかな……?)
 普段から、資料作成や研究発表ばかりにかまけていて、プライベートの時間を取るのもままならないから、変な妄想をしてしまうのだろう。そう思って、また歩みを進める。
(だけど……、何か変……)
 普段、通っている道なのに、今晩に限って遠く感じられた。夜空には、雲が出ていて月を覆い隠して、夜の暗さが余計に強く感じられた。闇の力に惑わされているのだろうか。
 足取りは早く、周囲を注意深く見渡すように歩く。早くセイコーマートに行きたかった。行けば店員もいるし、万が一不安なら事情を話して、誰か助けを呼べばいい。まだ守衛は残っている。
(きっと、大丈夫よね……)
 自分の言い聞かせるようにして、セイコーマートの明かりが見えてきた。後少しで安全な場所に行ける。そう思って急いで店に入ろうとすると、ふわりと空中に浮かぶものが見えた。
「あれって……」
 歩みが止まり思わず言葉が漏れる。
 数メートル先に見えたのは、赤い火の玉だ。
 暗闇の中に浮かび上がり、北大博物館の周りを漂っていた。まるで、入口でも探すように。
「信じられない……」
 赤い火の玉は窓の一つにあった、わずかな隙間を発見し、すぅーと伸びて薄い板状になって、隙間から入って行った。
「待って!」
 思わず叫んで、北大博物館に向かっていた。怖くないといえば嘘になる。でも、好奇心が勝った。
 入り口前に行くと、一瞬開いているのだろうか? と思う。
 まさかという持ちで、入り口のドアに手をかけると、ギィィと軋みながら空いた。本来なら、閉館時間で鍵がかかっていうのに、まるで、最初から鍵がかかっていなかったようだ。何かによって導かれている気がした。
(どうして……? 一体何なんだろう……)
 意を決し、博物館の中に入る。もし怖い思いをしたら、守衛室に駆け込めばいい。
 だが、その守衛室は何も電気がついておらず、暗闇に包まれていた。
「すいません。どなたか……」
 不審に思い、守衛室を覗いて驚い 中に居るはずの夜間警備員が全員、倒れているのだ。
「どうしました!? 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
 必死に呼びかけるも、何も反応がない。
 体をよく見ると、小さな膜の様な物で体を覆われていた。
「何なのこれ……?」
 何が起こっているのか分からず、目を疑った。もしかしたらパニックになっていて、何か見間違えているのかもしれない。そう思って、近くに転がっていた懐中電灯の明かりをつけて、確かめるも、やはり膜のようなもので、覆われている。
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