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第3獣

怪獣3-4

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『奴だ! 現れたぞ!』
 急に、ゴリアスの声が蘭と秀人の頭の中に響く。
「本当か!」
『あぁ、間違いない! 二人共、行くぞ!』
「秀人! お預けだ! さぁ変身するぞ!」
 怪獣出現の報せに何とか助けられたが、安心してばかりはいられなかった。今はあの怪獣を倒すことが第一優先だ。秀人は蘭の手を握ると、全身から光の粒が溢れていた。

 その頃、海底洞窟の中に潜みながら、怪獣は自分の体が変わって行くのを感じていた。
 尻尾は更に太さを増し、後ろ脚の筋肉は増大していく。針の様なたてがみ全部抜け落ち、その代わりに丸い刃に似た、襟巻が生えそろっていた。これで攻撃力は増した。
 復讐の準備は出来ている。後はこの力をどう使うのか、試したくて仕方なかった。海底洞窟から出てくると、海面に向かって一気に上昇した。そして目の前には、野蛮人共が生意気に作り出したものが浮いていた。怪獣にとっていい実験台だった。

 日本海 新潟沖

 海のなぎは静かで、穏やかだった。天気は晴れ、夏の日差しがきついが海風が吹いて、絶好の漁日和。
 この日、新潟沖に漁や航行に出る船は、全て航行禁止措置が取られている。それは怪獣探索と被害軽減のための措置を取ったために、誰も漁には行っていないが、海上自衛隊や海上保安庁の艦船がひっきりなしに行きかい、対怪獣警戒の哨戒任務に就いていた。特に新潟には柏崎刈羽原発が存在しており、再び原発が破壊されることがないよう、重点的に哨戒任務が行われていた。
 この日、海上自衛隊舞鶴基地に配備されている護衛艦隊、第3護衛隊の艦船、広い甲板のヘリポートを備えた、ヘリコプター搭載護衛艦、ひゅうがが哨戒任務に就いていた。
ひゅうがの周りには、こんごう型護衛艦のみょうこう、あきづき型護衛艦のふゆづき。そして新潟や富山などを管轄区域とする、第9管区海上保安本部のヘリコプター搭載型巡視船、えちご、ヘリポート付きの巡視船、ひだが任務を行っていた。
 ひゅうがのヘリポートに着艦していた、哨戒ヘリコプターSH60Jが燃料補給と搭乗員の交代が行い、メインローターをふかしながら離陸した。
「これで、何回目の交代かな」
 CIC(戦闘指揮所)では、青色を基調とした、海上自衛隊独自の作業服を着こんで、その上に救命胴衣を装着し、頭に88式鉄帽を被った、ひゅうが艦長の松野1等海佐は呟いた。それは任務とはいえ、SH60Jの過剰運用を危惧していた。
 兵器も人間と同じように疲弊する。そうならないためには適度に休息を取らせることが重要になってくる。だが、そんな悠長なことは言っていられなかった。
 航空自衛隊千歳基地、第2航空団と第26警戒隊が壊滅し、更には根室と網走が怪獣によって全壊した今、陸海空自衛隊の緊張感はピークに達していると言っても過言ではなかった。
もし、松野艦長が「休養を取るのも任務だから、休むように」などと言っても部下は全員聞こうともしないだろう。同じ街が二つ壊滅し、同じ自衛隊仲間に大勢死者が出ている今、例え、任務で休めと言われても、そんなことは出来なかった。
 航空自衛隊と国民の仇を俺たちが取ってやる。そんな気概に自衛官全員が溢れ、隊員達の士気は最高潮に達していると言っても、過言ではなかった。
 拳を握りしめながら、離陸していくSH60Jを見ながら、怪獣を発見するのも大事だが、生きて帰ることも忘れないで欲しいと願った。
 自衛官は敵を倒して、それで終わりではない。心配な気持ちで待っている家族や友人、恋人の前に無事に帰ってきて、笑顔を見せるまでが任務なのだ。その気持ちも忘れないで欲しかった。願わくば臆病心を持っていて欲しい。いざとなったら逃げて安全を確保することも忘れるな。そんな気持ちで見送っていた。
「艦長、ソナーに反応です!」
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