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第3獣

怪獣3-2

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 プラスチックのケースに入った、二つの土偶を蘭は食い入るように見た。
 一つは青森県つがる市の亀岡遺跡から出土した縄文式の土偶。スノーゴーグルの様な形をしているから、俗に遮光器土偶と呼ばれているものだ。
 もう一つは、北海道の著保内野遺跡で出土した、中が空洞に作られているもので、中空土偶と呼ばれている。
「蘭、土偶がどうかしたの?」
 食い入るように見ている蘭に、秀人が声をかける。蘭は真剣な表情で、穴を空ける位に二つの土偶を見つめていると、展示室に響き渡るくらいの大声を上げた。
「やっぱりそうだよ! これ宇宙人だ!」
「どうしたのさ……、何を言っているの?」
「この二つの土偶、絶対宇宙人だって!」
 蘭は興奮しながら、ケースに入った土偶を指す。
「宇宙人って……。蘭、何を言っているの……」
「あら、そういう見方だって確かにあるのよ」
 呆れた秀人とは対照的に、蘭の言葉を否定せず、鏑木が優しい言葉をかけた。
「この遮光器土偶は、縄文人が宇宙人と遭遇して、その時の姿を現したものだと言われているの。ほら、遮光器と言われているのはヘルメット、だぶだぶの服は宇宙服ってね」
 説明を聞いて、蘭はうんうん。と頷いていた。まるで自分の見方が正しいと言っているかの様である。
 若干呆れたような感じで、蘭の事を見た秀人は説明を聞いて、頭の中にある言葉が浮かんできた。
 古代宇宙飛行士説。
 それは人類史上の古代に、宇宙人が地球へと飛来し、人間を想像し文明を授け、各地にある神話の神々は宇宙人の存在を神として、現したものだという説である。あまりにもSFじみている話だが、その根拠となる洞窟壁画や彫刻、そして神話の神々があるから必ずしも、嘘とは言い切れない説で、そこから飛躍した古代核戦争という説もある。
 この話を秀人は、たまたまテレビでやっていたオカルト番組で話半分に聞いていて、最初から信じてはいなかったが、それが身近にいるなんて、思ってもいなかった。
「秀人君はどう思う? この話?」
「えっと……。個人的には夢があると思っていますね。太古の地球に、宇宙から人が来て、文明を授けたり、人類の進化を促したりしただなんて……」
 いきなり聞かれて、何と答えていいのか分からず、当たり障りのない感じで答えていた。
(正直言って、信じているわけじゃないけど。それで新しいことに蘭が興味を持ってくれたのなら、それでいいか……)
「そうね。私もそう思うわ。私が考古学をここで学んでいる理由はそこなの」
 二つの土器を見ながら、そう言う。
「太古の事を調べるのは、自分の祖先と話をしているの。ううん。自分だけじゃなく、この日本という島国に住んでいた全ての祖先よ。彼らは何のために来て、私たちの祖先になったのかってね……。ちょっとロマンチックすぎるかな?」
「そんなことはありませんよ! むしろ、素晴らしすぎるくらいです!」
 すかさず、秀人は返す。
 それは、彼女の考え方に同意したからだ。蘭の父親である五島博士が似たようなことを秀人に対して言っているからかもしれない。太古のことを調べて話をするのは、古生物学にも通じている。それを幼い時から間近で見てきた秀人は、その考え方をだれよりも理解出来る。
「鏑木さんは、祖先と話をしているって、おっしゃってくれましたけど。個人的には謎を一つ一つ解き明かして行って、それで過去の歴史を知るのが、太古の歴史を調べる楽しさだと僕は思うんです!」
「ありがとう。私みたいな考えをわかってくれる人って少ないから、秀人君がそう言ってくれて、本当に嬉しい」
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