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第1獣

怪獣1-16

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 しかし、その疑問をゴリアスの一言が一気に現実に引き戻す。
『考える時間はそこまでだ! 二人共見ろ!』
 ゴリアスの言葉と同時に、蘭と秀人の胴体に衝撃が伝わった。
 デルタⅣ級が、標的をゴリアスに変え魚雷を二発発射し、ゴリアスに命中した。蘭と秀人の体を衝撃波が駆け巡って、息が詰まるも、傷はついていない。
「あいつら……! 標的をこっちに変えたのか!」
「蘭! 一回海上に出るよ! 浮上する時は息を吐いて!」
 海の底から一気に浮上すると、肺が圧力に耐えられずに潰される可能性がある。秀人は思い出した。ゴリアスの機能が体にフィールドバックされているから、大丈夫かもしれないが、念のためだ。
 秀人の言葉を聞いて、尻尾を海底に叩き付けた反動と海中を足で蹴り、手でかき分けるようにして、一気に浮上する。
 体が一気に上になって、三人の視線が上を向き、どんどん上昇する。
 蘭と秀人は息を吐くようにして、浮上している。
 見る見るうちに視界が明るくなり、海面が近い事が分かる。それを追うようにして、魚雷が発射されるものの、全弾外れてゴリアスの体の近くを、通って行った。
 海面に出ると、顔を出して泳ぎ始めた。海面からは背中に沿って、鋸歯の様な背びれがずらりと並んで、規則正しく動く。
 やがて、足が着くほどの高さになると、水面が盛り上がるようにゆっくりと、屹立た。全身から海水が滴り落ちて、滝のようになるがすぐに収まる。
「どこだ、ここは……」
「待っていて、今どこなのか確認するから」
 必死で怪獣を追いかけたり、原子力潜水艦の魚雷攻撃から逃れたりしていたから、自分達の場所がどこなのか、把握していなかった。
見渡すと、小さな町と湖、少し離れた所に岬がある田舎町の海岸に出ていた。
「あれは多分、クッチャロ湖と浜頓別町だよ。離れた場所にある、岬は北見神威岬じゃないかな?」
 クッチャロ湖は宗谷地方にあって、湿地保存の条約ラムサール条約に登録されている、オホーツク海側に開けた湖。浜頓別町はクッチャロ湖の近くにあって、観光資源にしている、小さな町。
 北見神威岬はオホーツク海に突き出て、浜頓別町と枝幸町の二つにまたがっている岬で、三人はいつの間にか、日本最北端近くまで来ていたことになる。
「あれが、クッチャロ湖なのか? ずいぶん小さいんだな」
「蘭……。ゴリアスになって見たらなんでも小さいんだよ……」
 蘭の言葉に突っ込みを入れる秀人。それを蘭はスルーする。
「それより、どこで変身を解くんだ? ゴリアス、変身を解けたら、俺らが元居た場所に戻れるのか?」
 蘭の問いかけにゴリアスは頷く。
『それに関しては心配はない。ちゃんと元のいた場所に二人は立っている』
 ゴリアスの言葉を信じた、蘭と秀人は少しほっとする。
「さぁどこで変身を解くかな」
「川が入り組んだところが、丁度山の影になっているから、そこでうずくまって変身を解こう」
 秀人が頓別川から入り組んだ場所を発見し、蘭とゴリアスに伝える。
 早速、頓別川を上流するようにすり足で、慎重にゆっくりとした足取りだ。
 頓別川の水を足でかき分けるように進み、尻尾や体に注意しながら、ゆっくりと方向転換し、道路を注意深くまたぐ。この作業が一番大変だ。
 ゴリアスに変身すると、その巨大さ故に足元が見えない。知らず知らずのうちに壊したり傷つけてしまう事がある。そこから蘭と秀人は学び、移動するときはとにかく注意深く、そして焦らずにゆっくりと行うようになった。
 慎重な足取りで進みながら、頓別川と合流している小さな川を上り、山の影に入ってうずくまる。
「さぁゴリアス、変身を解いてくれ!」
 蘭の言葉が合図となり、うずくまったゴリアスの体から小さな金色の光が線のように煌めいて、それが全身にまとわりつくと、巨体は消えていた。辺りにはゴリアスがいたことを表す跡しか残っていない。
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