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第1獣

怪獣1-10

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 怪獣出現によって、ある程度法律は変わっていて、怪獣を発見し、それを目視したらすぐに攻撃してもよいことになっていた。
「怪獣目視、一時の方向。距離四百……」
 影がレーダーに映り、計器盤の上にある、ヘッドアップディスプレイに表示されるデータを読み上げる。
「良いか、訓練通りにやるんだ! 充分に引き付けてから、AAM-4を撃つ! 標的はデカいんだ、絶対に外すなよ! 俺たちが最終防衛ラインだと思え!」
 山崎三佐の言葉に部下全員が、声をそろえて返事をした。その反応を見て、山崎三佐は自信を持つ。今までやって来た訓練やコミュニケーション方法は間違っていなかった。
 戦闘機パイロットに限らず、自衛官、軍人の指揮官として求められるのは、部下にどれだけ信頼されているかだ。そうでないと勝てる戦いでも勝てなくなってしまう。
 小さな影は、みるみる巨大な影になり、肉眼でも確認できるようになった。この巨大生物はどれだけの速度で跳んでいるのか、分からなかったが、それでも戦わなくてはいけなかった。国民を守るために。
「巨大不明生物、斜里岳上空を通過、網走市へ向かいます」
 部下が報告を入れる。
「目標を確認、攻撃開始! 全機、奴を追尾しながら後方から空対空ミサイルを叩き込んでやれ!」
 山崎三佐は命令を下すと、F15Jの腹を見せながら反転し、巨大不明生物の後ろについた。向かい合って頭部にミサイルを集中砲火させる戦法を考えていたが、奴の頭を狙ったとしても速さについて行けないかもしれない。そうなると命中率が低すぎると判断し、後方からの攻撃にシフトチェンジした。
「ターゲットロックオン、ファイア!」
 掛け声と共に、操縦桿の発射ボタンを押した。パイロンからAAM-4が放たれ、赤い尾を引きながら、巨大不明生物に向かって飛んで行く。
 しかし、AAM-4は巨大不明生物に命中せず、バラバラになって破壊され、小さな炎の花を作っただけだった。
「全発、目標前で爆発、効果なし」
 ソニックブームがあいつを守っている。山崎三佐はそう判断した。
「スプラッシュ!」
 言いながら、反転飛行をして巨大不明生物を追い抜く。
 前方からの攻撃を取ろうと、ラダーペダルを踏んで操縦桿を動かし、機体の翼からはヴェイパーと呼ばれる、細長い飛行機雲を作りながら方向転換をする。巨大不明生物もF15Jに連れられて、方向転換をした。巨大不明生物が二機の部下の乗った、F15Jの後方に着く形になる。
「後方接近、注意!」
 部下に警告を送る。その警告を聞いて、回避行動を取ろうとしたが無駄に終わった。巨大不明生物は口から丸く繋がった、超音波の様な物を放出しF15Jに当てた。
 当てられたF15Jは空中でバラバラに砕け散り、機体が光を反射してキラキラ光りながら散った。無論、パイロットは生存していなかった。超音波を受けて、バラバラの肉片と化し赤い血飛沫になって散って行った。
「離脱せよ! 振り切れ!」
 山崎三佐は警告を発する。
「振り切れない! 速度が違う!」
 必死に回避行動を取るF15Jの姿に部下の悲痛な声が響く。それが最後の言葉だった。
 もう一機のF15Jは巨大不明生物のソニックブームをもろに受け、同じようにバラバラになって落ちていく。
「畜生!」
 全てを見ていた山崎三佐と残りの部下は、巨大不明生物の頭部へ向かって、短射程空対空ミサイル、AAM-5を撃ち込んだ。そこに20ミリバルカン砲の攻撃も加わった。
 AAM-5の赤い尾とバルカン砲の噴煙が混じって、巨大不明生物へ飛んで行く。その攻撃も無意味に終わった。全てソニックブームの壁に阻まれ、傷一つ付けることなく終わった。
「効果なし、離脱! 全機離脱せよ!」
 敵わないなら逃げるしかなかった。せめてオホーツク海側に逃げて行ってくれれば……。一縷の望みを山崎三佐は託したが、それも叶わなかった。
 退避行動を取ったことが分かったのか、勢いづいた巨大不明生物は超音波とソニックブームによって、F15Jを一機ずつ、撃墜していった。それらは大空にキラキラした花が咲いたと思うと、カスミのように消えて行く。パイロットは呪詛の言葉を叫びながら散って行った。それは山崎三佐も同様であった。
 山崎三佐の無線には、千歳基地から増援が出撃したという報告が入っていたが、届くことはなかった。
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