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  そんな時だった、ふと部屋の台の上に置かれている布に目がいった。

「これは確か、お母様からい頂いた鏡が包まれている布だわ」

  忍坂姫おしさかのひめは何となくその布から鏡を取り出して台に置いた。

(そう言えば、この鏡は見えない物を映す鏡って言っていたわよね)

「もう、本当にそんな鏡だったら、誰が犯人なのか教えてよ!!」

  忍坂姫がそう叫んだ時だった。鏡に何か自分とは違う物が映っているように見えた。

(うん、何これ?)

  彼女が思わずその鏡を見ると、そこには男性らしき人が映っていた。そして何か細長い物を布に包んだ状態で持っていて、どこかの部屋に入って行った。入り口には少し細長めの土器が両隣に1つずつ置かれいた。

(これは一体何の……)

  彼女が必死でその鏡の男性を見ると、首元にかなり大きな痣があった。
  そしてその袋から何かを取り出していた。それはかなり変わった形の剣だった。

(あれ、確か七支刀しちしとうってあんな形の剣って言ってたわよね)

  そこでふと謎の光景が鏡から消えて、元の自分の顔が映っていた。

「ちょっと待って、今の光景って!」

  忍坂姫はいきなり立ち上がって部屋を出た。そしてすぐさま雄朝津間皇子おあさづまのおうじの部屋へと向かった。
  今は丁度夕方過ぎで、皇子も夕食を済ませた頃ぐらいだろう。

  雄朝津間皇子の部屋の前に着くなり、外から返事もせずに忍坂姫は部屋の中に入った。
  皇子は丁度部屋の中でお酒を飲んでいたみたいだった。

「お、忍坂姫。一体何事だ!!」

  忍坂姫はそのまま勢い余って、皇子に飛び付く形になってしまった。

「雄朝津間皇子、実はお願いがあって」

  雄朝津間皇子はいきなり忍坂姫に飛び付かれて、かなり気が動揺した。

「ち、ちょっと待ってくれ。まさかこんな誘われ方ってあるか」

  雄朝津間皇子は、忍坂姫がお忍びでやってきたと勘違いしたみたいだ。

(へえ、誘う?)

  雄朝津間皇子は、そのまま忍坂姫をその場に押し倒した。

「どうせなら、もう少し上手くやってくれよ。これだからお転婆娘は」

  雄朝津間皇子はそのまま、忍坂姫に覆い被さってきた。そしてあと少しで彼女の唇に触れる所まで来ていた。

  ここまできて、やっと忍坂姫も事の意味を理解した。

「ち、ちょっと。一体何勘違いしてるんですか!最低!!」

  忍坂姫は思いっきり皇子の頬を引っ叩いた。
  すると部屋の中で、皇子を引っ叩いた音が凄く響いた。

「い、痛て!!」

  雄朝津間皇子は思わず忍坂姫から体を離し、そして叩かれた頬に手を当てた。

(もう、この皇子は一体何を考えてるのよ)


「皇子、いい加減にして下さい。こんな時に皇子を襲いに来る訳がないじゃないですか」

  それを聞いた雄朝津間皇子は、まだ頬に手を当てていた。
  忍坂姫から引っ叩かれたのが、相当痛かったみたいだ。

「こんな時間に、あんなふうに飛び付かれたら、普通誰だって襲って欲しいと思うに決まっているだろう」

  それから雄朝津間皇子の頬の痛みが少し和らいだのを確認して、彼女は話しだした。

「皇子に聞きたい事があるんですが。首元に大きな痣のある男性に心当たりありませんか。それと例えば部屋の外に細長い土器を置いたりとか……」

(一体この子は何を言ってるんだ?)

  雄朝津間皇子はとりあえず、忍坂姫に言われた内容について考えてみた。

「えっと、首元に大きな痣がある男性で、部屋の外に細長い土器がある場所……あぁ、それなら伊莒弗いこふつの叔父にあたる物部椋垣もののべのくらかきだな。奴の部屋の前にはそんな感じの土器が確か置いてあった気がする」

(やっぱり……)

  忍坂姫は、その人が今回の七支刀を盗んだ犯人かもしれないと思った。

「雄朝津間皇子、私が思うにその人が今回七支刀を盗んだ犯人なんじゃないかと思って」

  雄朝津間皇子はいきなりそんな事を言われて唖然とした。この娘は一体何を言ってるんだと。

「一体何を根拠にそんな事を言っているんだ?」

(しまった!まさかお母様から貰った鏡にそれらしき人が映っていたとも言えないし……)

  忍坂姫はその場で必死にその言い訳を考えた。

「えっと、私が思うに。今回の七支刀は意図的に盗まれた可能性があると思うんです」

「うん、それで」

  雄朝津間皇子はとりあえず忍坂姫の話しを聞いて見る事にした。

「今回の件で、恐らく物部伊莒弗はかなり重い処分を受ける事になるでしょう。そうする事で得をする人で、かつ七支刀を簡単に盗める人となればかなり限られます。
  それにさっき皇子が言った人、私以前見た事があって。多分お父様に付き添って見たんだと思います。
  それでその人ならあり得るかなと......それとお父様から聞いた話しから、その部屋が何となく怪しいなと思いました」

  もちろん、その人に会った事があると言うのは忍坂姫の嘘である。だが今はこのまま押し通すしかない。

(どうしよう、これで皇子納得してくれるかな)

  忍坂姫が恐る恐る雄朝津間皇子を見た。すると彼は何やら考え込んでいた。

「確かに、物部椋垣は甥の伊莒弗を前々から妬んでいた。今は伊莒弗が物部の実権を握っているからな。さらに彼の娘が大王の妃になっている。
  物部椋垣からしたら悔しくて堪らないだろう...それにさっき君が話した部屋なら確かに隠しやすい」

  雄朝津間皇子は「うーん」と唸っていた。

「じゃあ、その人の家に行って、その剣が無いか確認するってのはどうでしょうか?」

  忍坂姫は雄朝津間皇子に言った。
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