上 下
90 / 105

90

しおりを挟む
  そして蝦夷えみしはすぐさま小墾田宮おはりだのみやにもどり、今回のことを皆に説明する。

  それをきいた炊屋姫かしきやひめは余りのことに、その場で倒れそうになった。

  また糠手姫皇女ぬかでひめのひめみこがらみでもあったので、厩戸皇子うまやどのみこ蘇我馬子そがのうまこ達にも知らされることとなる。

  そして椋毘登くらひとにもその話がいき、彼も馬子について、すぐさま小墾田宮にやってきた。

  そして椋毘登は蝦夷の前までくると、彼に対して怒りを爆発させた。

「蝦夷、お前は一体どういうつもりだ!稚沙ちさを見捨てて、良くのこのこと帰ってこられたなー!!」

「お、俺だって、嫌だったさ。だが相手は何人もいて、下手に戦えば俺が殺られるだけで、どのみち状況は何も変わらなかったんだ」

  だがそんなことは、今の椋毘登にはどうでも良い。

「そんなこと、知ったことかー!!!」

  椋毘登は怒りにまかせて、その場で蝦夷を思いっきり殴り飛ばした。

  日頃から刀で鍛えている彼だ。腕の方もそれなりに強い。

  そのまま飛ばされてしまった蝦夷は、ゆらゆらと立ち上がるも、鼻から少し血が流れていた。

  だがこれも2人が従兄弟同士だから、できることでもある。

「とりあえず、今はここで2人が言い合いをしていてもどうしようもない。
  それにその連中達の本当の狙いは、糠手姫皇女なのだろう?
  いつやつらが、稚沙が皇女じゃないことに気付くかも分からない……」

  厩戸皇子は冷静にしてそう答える。

  そして彼はそのまま糠手皇女姫の前にやってきた。

「糠手姫皇女、お願いだ。何か相手側の情報になるようなことは聞いてないか?」

  厩戸皇子にそういわれた彼女は、ふとさきほどの出来事を思い返してみる。

「あ、そういえば。その男の人達の主犯的な青年が躬市日みしびって呼ばれてました」

「うーん、躬市日か……聞いたことがないな」

  厩戸皇子は、どうしたものかと頭を悩ませる。そもそも今回の悪事を働くような人間を彼が知るよしもなかった。

  だがそれを聞いた椋毘登は、その人物の名にひどく驚き、声を上げる

「な、なんだって、躬市日だと!!」

「なに?椋毘登、その躬市日って者を君は知っているのか?」

  厩戸皇子は思わず椋毘登の方を見る。

「はい、私の知ってる人物に躬市日っていう名前の者がいます。でも彼はもう生きてはいないはず……」

  そういって椋毘登はとても気が動転したのか、動揺を隠せずにいる。

(一体どうなっているんだ、あいつは確かあの時に……)

「椋毘登その者は、一体何者なのだ?」

「はい、そいつは物部もののべの者で、あの物部守屋もののべのもりやの息子です」

「何、守屋の子だと!!やつの息子は殺されるか流罪になっていたはずだ。それに躬市日なんて名前の息子は、今まで聞いたことがない」

  蘇我馬子もそれを聞いてとても驚く。実際に物部守屋に戦いを仕掛けて殺害したのは、彼だった。

「えぇ、躬市日は確かに物部守屋の息子ではあったのですが、物部が出来心で手を出した身分の低い女性との子供です。
  なので物部の一族としては認めて貰えてませんでした」

  それを聞いた蘇我馬子は、ふと何か考え出した。

「うん、そういえば何年か前に、物部の生き残りの少数がわしに戦いを仕掛けてきたことがあった。たしかあの時に、1人子供もいたような気がする。もしかしてあの時の子供が?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

夢幻の飛鳥2~うつし世の結びつき~

藍原 由麗
歴史・時代
稚沙と椋毘登の2人は、彼女の提案で歌垣に参加するため海石榴市を訪れる。 そしてその歌垣の後、2人で歩いていた時である。 椋毘登が稚沙に、彼が以前から時々見ていた不思議な夢の話をする。 その夢の中では、毎回見知らぬ一人の青年が現れ、自身に何かを訴えかけてくるとのこと。 だが椋毘登は稚沙に、このことは気にするなと言ってくる。 そして椋毘登が稚沙にそんな話をしている時である。2人の前に突然、蘇我のもう一人の実力者である境部臣摩理勢が現れた。 蘇我一族内での権力闘争や、仏教建立の行方。そして椋毘登が見た夢の真相とは? 大王に仕える女官の少女と、蘇我一族の青年のその後の物語…… 「夢幻の飛鳥~いにしえの記憶」の続編になる、日本和風ファンタジー! ※また前作同様に、話をスムーズに進める為、もう少し先の年代に近い生活感や、物を使用しております。 ※ 法興寺→飛鳥寺の名前に変更しました。両方とも同じ寺の名前です。

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

処理中です...