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65《稚沙の里帰り》
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隋からの客人をもてなす催しが行われた数日後のことである。
稚沙は急遽、炊屋姫から持ってきて欲しい書物があるといわれ、倉庫に走った。
そして今はその書物を持って、炊屋姫の元に向かっている最中である。
「もう炊屋姫も、こんな急に言い付けなくても、他の仕事の途中だったんだから!」
だがあの炊屋姫から頼まれごとである。そう指示されてしまえば、従うほかない。とはいえ、単に書物を倉庫から炊屋姫の元に運ぶだけなので、そこまで時間の掛かることでもない。
そして稚沙は炊屋姫のいる大殿までやってきた。
「炊屋姫様、外から失礼します。稚沙ですが、先ほど頼まれました書物をお持ちしました」
稚沙はそのように部屋の外から中に声をかけた。今は誰か訪問者がいるようだったので、少し控えめに声をかけた。
「あぁ、稚沙ご苦労ね。そのまま中に入ってきてちょうだい」
炊屋姫にそういわれたので「では、失礼させて頂きます」と返事をしてから、彼女は大殿の中へと入った。
彼女が中に入ってみると、玉座に炊屋姫が腰をかけており、その彼女の目の前には1人の男性が座っていた。その男性とは、あの蘇我馬子である。
(あれ、今日は蘇我馬子様が来られていたのね)
稚沙は部屋の中に入るなり、炊屋姫と蘇我馬子に対して頭を下げる。
そして炊屋姫の側までくると、彼女に書物を差し出した。
「炊屋姫、こちらが先ほどいわれていた書物になります」
炊屋姫は稚沙から書物を受け取ると、その場で広げて、中身をしっかりと確認し始めだした。
「確かに、この書物で間違いないわね」
炊屋姫からそういわれて、稚沙も一安心である。
もし違ったものを持ってきていたら、きっとこの場で叱られていたことだろう。しかも蘇我馬子のいる前でだ。
炊屋姫は、そんなことを考えている稚沙を横目で見ながら、ふと彼女に話しかけてきた。
「そういえば。ここ最近、あなたもずっと働き詰めだったわね。体調は大丈夫なの?」
まさか炊屋姫がそのような心配をされるとは、稚沙は少し意外に思えた。
彼女自身、元々わりと体力はある方だ。
それに適度に休憩を入れて働いているので、そこまで体に負担がかかるとは考えていなかった。
「はい、それは大丈夫です。私体力には元々自信がありますから!」
稚沙は元気そうにして、明るく答えた。
むしろ女官として働いていることは彼女にとって、とてもやりがいに感じている。
「まぁ、あなたは元気なのが取り柄よね。ただ先日の隋の客人の対応等で、宮の人達も色々と大変だったから、各自1、2日の休暇を与えようと考えてるの」
「え、休暇ですか?」
まさか炊屋姫からそんな提案が出るとは、彼女は夢にも思わなかった。
稚沙は急遽、炊屋姫から持ってきて欲しい書物があるといわれ、倉庫に走った。
そして今はその書物を持って、炊屋姫の元に向かっている最中である。
「もう炊屋姫も、こんな急に言い付けなくても、他の仕事の途中だったんだから!」
だがあの炊屋姫から頼まれごとである。そう指示されてしまえば、従うほかない。とはいえ、単に書物を倉庫から炊屋姫の元に運ぶだけなので、そこまで時間の掛かることでもない。
そして稚沙は炊屋姫のいる大殿までやってきた。
「炊屋姫様、外から失礼します。稚沙ですが、先ほど頼まれました書物をお持ちしました」
稚沙はそのように部屋の外から中に声をかけた。今は誰か訪問者がいるようだったので、少し控えめに声をかけた。
「あぁ、稚沙ご苦労ね。そのまま中に入ってきてちょうだい」
炊屋姫にそういわれたので「では、失礼させて頂きます」と返事をしてから、彼女は大殿の中へと入った。
彼女が中に入ってみると、玉座に炊屋姫が腰をかけており、その彼女の目の前には1人の男性が座っていた。その男性とは、あの蘇我馬子である。
(あれ、今日は蘇我馬子様が来られていたのね)
稚沙は部屋の中に入るなり、炊屋姫と蘇我馬子に対して頭を下げる。
そして炊屋姫の側までくると、彼女に書物を差し出した。
「炊屋姫、こちらが先ほどいわれていた書物になります」
炊屋姫は稚沙から書物を受け取ると、その場で広げて、中身をしっかりと確認し始めだした。
「確かに、この書物で間違いないわね」
炊屋姫からそういわれて、稚沙も一安心である。
もし違ったものを持ってきていたら、きっとこの場で叱られていたことだろう。しかも蘇我馬子のいる前でだ。
炊屋姫は、そんなことを考えている稚沙を横目で見ながら、ふと彼女に話しかけてきた。
「そういえば。ここ最近、あなたもずっと働き詰めだったわね。体調は大丈夫なの?」
まさか炊屋姫がそのような心配をされるとは、稚沙は少し意外に思えた。
彼女自身、元々わりと体力はある方だ。
それに適度に休憩を入れて働いているので、そこまで体に負担がかかるとは考えていなかった。
「はい、それは大丈夫です。私体力には元々自信がありますから!」
稚沙は元気そうにして、明るく答えた。
むしろ女官として働いていることは彼女にとって、とてもやりがいに感じている。
「まぁ、あなたは元気なのが取り柄よね。ただ先日の隋の客人の対応等で、宮の人達も色々と大変だったから、各自1、2日の休暇を与えようと考えてるの」
「え、休暇ですか?」
まさか炊屋姫からそんな提案が出るとは、彼女は夢にも思わなかった。
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