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26《馬子の護衛》

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(だ、駄目だ、殺される……)

  稚沙は恐ろしさの余り、思わず目をつぶった。

  だがその瞬間に「カキッ!」と刀の音がする。そして何故か男の動きが止まったようだ。

  稚沙が恐る恐る目を開けると、男の刀を別の誰かが、自身の刀で受け止めていた。

  そしてその相手は、あの蘇我椋毘登そがのくらひとだ。

(く、椋毘登……)

  稚沙は余りの展開に、ただただ呆然と椋毘登の背中を見つめる。

  彼は最初の約束通り、稚沙を守ってくれたのだ。

「き、きさま、何者だ!」

  それを聞いた椋毘登は「ふん」といって、勢いよく相手の男の刀を跳ね返した。

  そして彼は稚沙の前で刀を構え直していった。

「お前達か、蘇我馬子そがのうまこを狙った犯人は!」

  蘇我椋毘登は声を張り上げて、相手の男にいいはなった。

  一方の稚沙は、椋毘登の後ろにいるので、彼の表情は全く見えない。だが彼からは何ともいえない異様な雰囲気が感じられた。

「あ、そうさ。これは蘇我馬子への復讐だからな」

  男達の主犯らしき人物が、椋毘登の前に出てきた。

  そうこうしている内に椋毘登の従者達も遅れてやってきた。
  そして椋毘登は、その者達にまだ前に出るなと、手で指示をする。

  それから椋毘登は続けて相手の男にいった。

「何、復讐だと?お前達は一体何者だ」

    すると男達はケラケラと笑い出した。

「俺は志摩吐しまと、元々泊瀬部大王はつせべのおおきみに仕えていた者だ」

  それを聞いた椋毘登は、少し低めの声でいった。

「何、泊瀬部大王に仕えていただと。それで復讐を?」

「あぁ、そうさ。俺は大王が蘇我馬子に殺されたことで、すっかり地位を失ってしまった」

  椋毘登もそれを聞いてようやく理解できたようで「ふん、なるほどな」と答える。
  大王が変われば、それを支える従者達にも必然的に影響がくる。
  彼はきっと運が悪かったのだろう。

「そこで同じような境遇の奴らと一緒になって、蘇我馬子に復讐しようと決めたって訳だ」

  それを聞いた椋毘登は、一瞬少しだけ驚いたような表情を見せる。だが彼は直ぐに表情を元に戻す。

  そして尚も志摩吐という男は話を続けた。

「それで、仲間の1人をこの宮に忍び込ませて、ここの女官の娘を誑かして色々情報を探らせていたのさ」

  それを聞いた古麻こまは、自身が彼らに利用されていたことに気が付く。
  そしてそんな彼女の目からは、思わず一粒の涙が流れおちた。

  稚沙もそんな古麻の表情を、何ともやるせない気持ちで見ていた。

(古麻、きっと今ものすごく傷ついてる……)

「なるほど、叔父上を殺すために、そこまで計画していたのか。中々手の込んだやり方だな」

  椋毘登はそういうと、刀を構えたまま少し横にずれて、稚沙と距離をあける。

「うん?叔父上だと、お前も蘇我の人間か」

「あぁ、そうさ」

  そして椋毘登は刀に力を込める。彼はいつでも戦いに入れる状態にしたようだ。

  そして彼はその体勢のまま、後ろの稚沙に話す。

「稚沙、出来るだけ早く終わらせる。もし怖ければ目をつぶっていろ……」

  それを聞いた稚沙は思わずコクコクと頷く。

  それから主犯の男の前に、1人の男が出てきて刀を前に向けた。

  椋毘登もいよいよかと思い一呼吸する。そして、まずはその男に狙いを定めて一気に斬りかかりにいく。

  相手の男は刀を振りかざして、椋毘登を斬ろうとした。

  だが椋毘登の動きの方が早く、一振で刀を蹴散らし、刀が男の手から離れて飛んでいってしまった。

  そして椋毘登は相手の男に刀を2回切りつけて、そのまま自身の体で、相手を吹っ飛ばした。

それから椋毘登は、すぐさま自身の従者達に指示を出す。

「叔父上と他の者を守る奴と、俺と一緒に戦う者に分かれるんだ!」

それを聞いた彼の従者達は、既に役割分担を決められていたらしく、すぐさま動き出した。

  そして椋毘登は、自らが率先して他の敵の男達に斬りかかりにいく。
 

  そんな椋毘登の様子を見ていた稚沙は、思わず唖然とする。彼がここまで強いとは正直全く思っていなかった。

(まさか、椋毘登がここまで強いなんて……)

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