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13《穴穂皇子と市辺皇子》
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大泊瀬皇子は、自身の住まいである遠飛鳥宮に戻ってきていた。
ここは元々彼の父親である雄朝津間大王が建てた宮だ。
そして大王は、后や彼の子供達と一緒にこの宮で暮らしている。
そんな中、大泊瀬皇子は大王の体調の様子を見るため、彼の部屋へと向かっていた。
先日の葛城能吐の事件も無事に解決し、皇子自身も、とりあえず一安心している。
(父上が動けない状況の中、今回は大ごとにならなくて本当に良かった……それに俺が最近葛城に行っていたのも正解だったな。最近は豪族間でも問題が色々と起こりやすい)
皇子がそんな事を考えながら歩いていると、ふと急に誰かが声をかけてきた。
「おい、大泊瀬。お前も父上の所に行くつもりか?」
彼が後ろを振り向くと、そこには1人の青年が立っていた。
彼は穴穂皇子と言い、雄朝津間大王の第3皇子で今年21歳になる。
そして大泊瀬皇子からすると、彼は3番目の兄にあたる人物だ。
「あぁ、穴穂の兄上だったか……」
そんな弟皇子を見つけた穴穂皇子は、そのまま彼の元にやって来た。
木梨軽皇子が動けない状況の中、今もっとも頼りにされているのがこの穴穂皇子だ。
「お前も、父上の容体を見に行くのだろう?俺も丁度そのつもりだから、一緒に行かないか」
それを聞いた大泊瀬皇子は、自身も同じ理由だったので「あぁ、分かった」と言って、彼と一緒に行くことにした。
2人が大王の部屋に向かって歩いていると、ふと穴穂皇子が大泊瀬皇子に声をかけてきた。
「そう言えば、先日葛城の方で問題ごとがあったそうだな」
大泊瀬皇子はそれを聞いて、恐らく先日の葛城能吐の事だろうと思った。
「あぁ、そうだ。葛城能吐が葛城円を陥れようとしていた。自身が葛城の実権を握りたいがために」
ただでさえ、今大和では色々と問題事が多い。そこに豪族間での争い事など、彼自身も正直余り関わりたくはなかった。
(あの時韓媛は凄く追い詰めていた。そんな彼女を見てしまうと、流石に助けない訳にもいかない)
大泊瀬皇子は、あんなに動揺した彼女を見たのは初めてだった。
彼女は自分の前で涙を流し、かなり取り乱していた。
「ふーん。葛城能吐がな……まぁ、葛城もこれにこりて、当面は大人しくなるだろうか。豪族の権力が強いと、本当にこちら側もやりづらい」
穴穂皇子は少し嫌みたらしくして言った。今の大和は豪族との連合政権である。そのため、この時代は葛城のような豪族達の影響力がとても強かった。
「本当に、全くだ。まぁ葛城円はそれなりに話しの出来るやつではあるが」
(隣の大陸や半島では戦が絶えないと聞いている。そんな中、この国がもし攻められでもしたらたまったものではない。そのためにも、もっと強い統治をして、この国をまとめ上げなければ……)
大泊瀬皇子は、穴穂皇子と一緒に歩きながら、ふとそんな事を考えていた。
「そう言えば、葛城の韓媛は元気なのか?父親の円も、娘の事はかなり大事にしていると聞くが」
穴穂皇子はふと葛城の韓媛の事を思い出した。彼女も今はそれなりの年頃の娘になっているに違いない。
「別に相変わらずだ。父親が倒れた時は珍しくかなり動揺していた」
大泊瀬皇子は、無表情でさらっとそう言い返した。
それを聞いた穴穂皇子は、思わず「へー」とだけ言った。昔から韓媛の話しを持ち出すと、大泊瀬皇子はどう言う訳か彼女の事を余り話したがらない。
そうこうしていると、2人はついに大王の部屋の前までやって来ていた。
「父上、穴穂と大泊瀬です。中に入っても良いでしょうか?」
穴穂皇子が部屋の中にいるであろう、雄朝津間大王に声をかけた。
すると中から大王の声がした。
「あぁ、構わないよ。2人とも入ってきなさい」
雄朝津間大王からの返事が返ってきたので、2人はそのまま部屋の中へと入った。
すると部屋の中には、雄朝津間大王ともう1人青年が来ていた。
2人の皇子は、思わずその青年の顔を見た。
「うん、市辺皇子か?」
大泊瀬皇子は思わずその青年に対して言った。
市辺皇子は、雄朝津間大王の亡き兄にあたる去来穂別大王の第1皇子だ。大泊瀬皇子達からすると、彼とは従兄弟同士の関係になる。
彼は幼少の頃より、自身が住んでいる磐余稚桜宮で今も暮らしている。
彼が成人するまでは、雄朝津間大王が一緒に住んで、その宮を代わりに管理していた。またその頃は穴穂皇子や大泊瀬皇子も同様に住んでいた。
そしてその後、市辺皇子が成人したため大王達は今の遠飛鳥宮に移動して来ている。
「今日は私の体調を心配して、わざわざここまで出向いてくれたんだ」
大王が、穴穂皇子と大泊瀬皇子にそのように説明した。
とりあえず2人の皇子は、雄朝津間大王と市辺皇子の側までやって来た。
「市辺皇子、お久しぶりです」
穴穂皇子は市辺皇子に挨拶した。
穴穂皇子から見ても、彼とは従兄弟同士とは言っても、歳が一回り程離れている。
「あぁ、穴穂久しぶりだね。何でも木梨軽が色恋沙汰で大変な事になってから、君が色々上手く回してるんだって?」
市辺皇子は愛想良くして彼に言った。
彼も穴穂皇子達程ではないにしろ、同じ大和の皇子なので、多少なりとも大和の政り事に携わっていた。
そして彼は葛城の荑媛を娶り、今は2人の皇子もいる。
「はい、まぁ、何とかやれてる感じですね……」
穴穂皇子は少し苦笑いしながら答えた。
最近家臣達から変に期待されている感があり、その事について穴穂皇子自身も、どうしたものかと少し悩んでいた。
ここは元々彼の父親である雄朝津間大王が建てた宮だ。
そして大王は、后や彼の子供達と一緒にこの宮で暮らしている。
そんな中、大泊瀬皇子は大王の体調の様子を見るため、彼の部屋へと向かっていた。
先日の葛城能吐の事件も無事に解決し、皇子自身も、とりあえず一安心している。
(父上が動けない状況の中、今回は大ごとにならなくて本当に良かった……それに俺が最近葛城に行っていたのも正解だったな。最近は豪族間でも問題が色々と起こりやすい)
皇子がそんな事を考えながら歩いていると、ふと急に誰かが声をかけてきた。
「おい、大泊瀬。お前も父上の所に行くつもりか?」
彼が後ろを振り向くと、そこには1人の青年が立っていた。
彼は穴穂皇子と言い、雄朝津間大王の第3皇子で今年21歳になる。
そして大泊瀬皇子からすると、彼は3番目の兄にあたる人物だ。
「あぁ、穴穂の兄上だったか……」
そんな弟皇子を見つけた穴穂皇子は、そのまま彼の元にやって来た。
木梨軽皇子が動けない状況の中、今もっとも頼りにされているのがこの穴穂皇子だ。
「お前も、父上の容体を見に行くのだろう?俺も丁度そのつもりだから、一緒に行かないか」
それを聞いた大泊瀬皇子は、自身も同じ理由だったので「あぁ、分かった」と言って、彼と一緒に行くことにした。
2人が大王の部屋に向かって歩いていると、ふと穴穂皇子が大泊瀬皇子に声をかけてきた。
「そう言えば、先日葛城の方で問題ごとがあったそうだな」
大泊瀬皇子はそれを聞いて、恐らく先日の葛城能吐の事だろうと思った。
「あぁ、そうだ。葛城能吐が葛城円を陥れようとしていた。自身が葛城の実権を握りたいがために」
ただでさえ、今大和では色々と問題事が多い。そこに豪族間での争い事など、彼自身も正直余り関わりたくはなかった。
(あの時韓媛は凄く追い詰めていた。そんな彼女を見てしまうと、流石に助けない訳にもいかない)
大泊瀬皇子は、あんなに動揺した彼女を見たのは初めてだった。
彼女は自分の前で涙を流し、かなり取り乱していた。
「ふーん。葛城能吐がな……まぁ、葛城もこれにこりて、当面は大人しくなるだろうか。豪族の権力が強いと、本当にこちら側もやりづらい」
穴穂皇子は少し嫌みたらしくして言った。今の大和は豪族との連合政権である。そのため、この時代は葛城のような豪族達の影響力がとても強かった。
「本当に、全くだ。まぁ葛城円はそれなりに話しの出来るやつではあるが」
(隣の大陸や半島では戦が絶えないと聞いている。そんな中、この国がもし攻められでもしたらたまったものではない。そのためにも、もっと強い統治をして、この国をまとめ上げなければ……)
大泊瀬皇子は、穴穂皇子と一緒に歩きながら、ふとそんな事を考えていた。
「そう言えば、葛城の韓媛は元気なのか?父親の円も、娘の事はかなり大事にしていると聞くが」
穴穂皇子はふと葛城の韓媛の事を思い出した。彼女も今はそれなりの年頃の娘になっているに違いない。
「別に相変わらずだ。父親が倒れた時は珍しくかなり動揺していた」
大泊瀬皇子は、無表情でさらっとそう言い返した。
それを聞いた穴穂皇子は、思わず「へー」とだけ言った。昔から韓媛の話しを持ち出すと、大泊瀬皇子はどう言う訳か彼女の事を余り話したがらない。
そうこうしていると、2人はついに大王の部屋の前までやって来ていた。
「父上、穴穂と大泊瀬です。中に入っても良いでしょうか?」
穴穂皇子が部屋の中にいるであろう、雄朝津間大王に声をかけた。
すると中から大王の声がした。
「あぁ、構わないよ。2人とも入ってきなさい」
雄朝津間大王からの返事が返ってきたので、2人はそのまま部屋の中へと入った。
すると部屋の中には、雄朝津間大王ともう1人青年が来ていた。
2人の皇子は、思わずその青年の顔を見た。
「うん、市辺皇子か?」
大泊瀬皇子は思わずその青年に対して言った。
市辺皇子は、雄朝津間大王の亡き兄にあたる去来穂別大王の第1皇子だ。大泊瀬皇子達からすると、彼とは従兄弟同士の関係になる。
彼は幼少の頃より、自身が住んでいる磐余稚桜宮で今も暮らしている。
彼が成人するまでは、雄朝津間大王が一緒に住んで、その宮を代わりに管理していた。またその頃は穴穂皇子や大泊瀬皇子も同様に住んでいた。
そしてその後、市辺皇子が成人したため大王達は今の遠飛鳥宮に移動して来ている。
「今日は私の体調を心配して、わざわざここまで出向いてくれたんだ」
大王が、穴穂皇子と大泊瀬皇子にそのように説明した。
とりあえず2人の皇子は、雄朝津間大王と市辺皇子の側までやって来た。
「市辺皇子、お久しぶりです」
穴穂皇子は市辺皇子に挨拶した。
穴穂皇子から見ても、彼とは従兄弟同士とは言っても、歳が一回り程離れている。
「あぁ、穴穂久しぶりだね。何でも木梨軽が色恋沙汰で大変な事になってから、君が色々上手く回してるんだって?」
市辺皇子は愛想良くして彼に言った。
彼も穴穂皇子達程ではないにしろ、同じ大和の皇子なので、多少なりとも大和の政り事に携わっていた。
そして彼は葛城の荑媛を娶り、今は2人の皇子もいる。
「はい、まぁ、何とかやれてる感じですね……」
穴穂皇子は少し苦笑いしながら答えた。
最近家臣達から変に期待されている感があり、その事について穴穂皇子自身も、どうしたものかと少し悩んでいた。
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